ユグドラシルの根元で
~前回のあらすじ~
日本語が聞こえてきた。
『え? ニホンゴ? コーマさん、この意味不明の言葉、何言ってるかわかるんですか?』
あぁ、もちろんわかる。
というのも、俺は常に日本語を話しているつもりで自動的にこの世界の言葉に変換されている。そして、こちらの世界の言葉が俺の耳に入ると、脳内で自動的に変換される。
ただし、あくまでも聞こえる言葉は日本語ではない。
だから、音楽などは悪質だ。無理やり日本語に変換した歌詞のせいで、文字数が合わなくて曲と詩との祖語が酷くなる。
だが、通信イヤリングの向こうから聞こえてくるのは、紛れもない日本の歌だ。というか、俺がこの世界に来る前から、ラジオやCM等で流れていた90年代の名曲だ。
「クリス、俺と別れてから何があったか、できるだけ詳細に事情を説明しろ」
『わ、わかりました。まず、コーマさんと別れてから、神子様たちと会議をすることになったんです。レイシアちゃんを除いて全員空腹だったので、食事をしながら会議をすることになりました。おかずは、魚料理が基本です。湖で獲った焼き魚ですね。料理人の皆様も魂を戻したばかり意識を取り戻していなかったので、サクヤさんが料理を作ったんです。塩をたっぷり使った焼き魚でとても美味しかったです。それでですね、レイシアちゃんがシルフィア様そっくりのゴーレムに興味を示して、どこまで再現しているのかと服を脱がして――」
「誰がそんな話をしろって言った、誰が!」
『詳しく話すように言ったのはコーマさんじゃないですか!』
「確かにそう言ったが、必要のない情報はいらん!」
『そうならそうと言ってください。えっとですね、突然、森が枯れたんです。あと、大聖殿も降下して、湖の水位も下がって、風も弱くなって』
「……自然のエネルギーが弱くなったってことか」
俺はそう呟き、ルシルに目配せをする。
彼女は小さく頷いた。
「ユグドラシルが吸い上げているのはこの迷宮のエネルギーじゃなかったのね。うぅん、まぁこれは憶測だけど――もしかしたら、人間たちが大聖堂って呼んでいるこの建物は、最初から周囲のエネルギーを吸い上げるために作られていたのかもしれないわね。それなら、転移陣の場所が隠れていたのも納得できるし」
「大聖堂がエネルギーを集める装置ってことなのか……ということは、やっぱり主犯は教皇グラッドストン……あ、でも大聖堂ができたのって数百年前だから、教皇は生きていない……いや、教皇が実は魔王ってことも、それなら年齢も関係ないし」
『あ、あの、コーマさん、話を続けていいですか? ルシルちゃんの話も聞こえたんですが、何を言っているかさっぱりわからないので』
「ん、あぁ、話を続けてくれ」
『それで、コーマさんに事情を説明しようと言って追いかけて転移陣に入ったら、変な町にいたんです。以上です』
「詳細に説明しろって言ったのに、なんで大事なところを端折るんだよ!」
いや、もうクリスからの説明に頼った俺が悪かった。
「クリス!」
『はい、にゃんですかにゃ? にゃ、コーマさん、急ににゃにをするんですか』
「よし、無事に契約は有効だな。クリスが今月分の返済を遅れていたおかげで確認できたわけだ。通信切るぞ」
『え、コーマさ――』
さて、通信も切れたことだし、さっそくクリスのところに行くとするか。
「コーマ、いっつもあんな通信の切り方してるの? いい加減にクリス泣くわよ」
「クリスの涙なんて見飽きてるんだよ。それより、ルシル、お前、前に言ってたよな。俺とクリスの間の契約の糸が見えるって」
「あぁ、それでクリスを追いかけるのね……やっぱりこの階層とは別の階層にいるせいで、だいぶ糸が細くなってるけど、さすがはコーマの作った魔法契約書ね。細くなってもしっかり繋がっているわ」
「どこに繋がってる?」
「この樹の上よ」
この樹の上か、よし――上る――
「……あれ? ルシル、なんか樹の頂上が見えないんだが」
「……私にも見えないわね」
さっきまでは高いとはいえしっかり頂上が見えていたのに、今は頂上に靄がかかっている。
「カ〇ン塔!? カ〇ン塔なのか!?」
「かりんとう? 知ってるわ、たしかコーマの世界のおかしよね。見たことがあった気がするわ。くれるの?」
「おま、人が伏字を使った意味を……あぁ、もう」
期待に満ちたルシルの目を見て、俺はアイテムバッグから砂糖と小麦粉を取り出し、
「カリントウは残念ながらレシピがないけれど、アイテムクリエイトっと」
と呟く。
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麦形【料理】 レア:★★
小麦粉と砂糖を練って、ねじった形にした。
カリアナで作られた伝統的なお菓子。
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一応、いろんなお菓子を作って来た。カリントウは作れなかったが、似たようなこれを作ることはできたから、食べさせておくことにした。
「ありがとう、コーマ。どうみてもかりんとうよね、これ」
「いや、麦形ってお菓子だけど」
「あぁ、麦形はかりんとうの元になったお菓子よ。似ていて当然」
「そうか……で……どうしたものか」
「登るしかないでしょ」
「……転移陣でいっきに上るとかは?」
「この迷宮で転移陣を作るのはちょっとややこしいけど……間違えて数万メートル上空まで飛んでもいいのならいいわよ」
ルシルが麦形を食べながら呟く。
ぐっ、覚悟を決めるしかないのか。
俺はアイテムバッグから竹籠を取り出し、万が一にも落ちないように針金で補強を加える。
「よし――ルシル、竹籠の中に入れ! 登るぞ!」
俺は樹を見上げ、そう思った……が、
「アイテムクリエイトでロケットとか作れないかな?」
「ロケットを作れたとしても、木の頂上に着地はできないでしょ」
「……だよな」
かなり面倒そうだと心から思った。




