消えるベリアル、聞こえる音楽
~前回のあらすじ~
クリスが謎の町にいた。
ユグドラシルの樹がエネルギーを吸い上げていく。
よくないことが起きる気がした。
それなら、俺は今すぐにでもこのユグドラシルの樹を切り倒すべきだった。そのための道具は手のなかにあるのに。
変身ヒーローの変身シーンに悪の怪人が攻撃しない――なんてお約束の理由なんかじゃない。
この樹を切ったら何かよくないことが起こる気がした。
「コーマ、ユグドラシルを切り倒そうなんて考えているのなら、やめておきなさい。この樹はエネルギーを吸い上げている。物凄い力で。そんな樹に亀裂でも入ったら、そこからエネルギーが溢れだすわ。コーマにわかりやすく例えるなら、温泉の源泉を運ぶための管を叩き割るようなものね。そんなことをしたら、熱湯が噴き出ることくらいわかるでしょ?」
「例えがしょぼ過ぎる気がするが、わかりやすいな。教えてくれてありがとうよ」
そして、俺は横に立っているベリアルを見た。
「ベリアル、今からシルフィアを助ける。お前の力を貸してくれ」
本来ならこいつの力を借りるのは御免被りたいが、俺とルシル、そしてシルフィアを殺すことができないという現状。そして、アクアマリンとウィンディアを助けてくれたという実績を考えると、今はベリアルの力を借りるのが得策だと思った。
もしもベリアルがそれを拒否したいのなら、それはその時考えればいいと思って。
「あぁ……俺様ももう少し暴れたいと思っていたところだ……がよ、悪いが時間のようだ」
「……は?」
「俺様の役目は終わったってところだ」
ベリアルの体が薄くなっていく。
「俺様の役目はこの樹を植えるまで。あいつにそう言われている。これから、俺様は消える……」
「消えるって、お前……どういうことだよ」
「まぁ、こっちもいろいろあるんだよ。コーマ、お前と戦えなかったのはかなりの心残りだがよ。それでも俺様はふたつの目的を果たせたからな」
「……目的?」
「一つ目は暴れたいってことだな。神子の嬢ちゃんたちとの戦いは楽しかったな」
そして、ベリアルは拳を握ると、その手を俺に向かって振るった。
寸止めされたその手から、拳圧という名の強風が放たれ、俺を吹き飛ばそうとした。
「二つ目は、コーマ、俺様を負かしたお前にもう一度会えた。俺様を倒した時に比べたらへなちょここの上ないが、それでも俺様はやっぱりお前に負けてよかったと思ってる」
すでにベリアルの下半身は消えていた。
「せいぜいあがけよ。せいぜい成長しろよ。俺様は今度こそ強くなったお前を――」
その言葉は最後まで紡がれることなく、ベリアルの体は消えてなくなる。
突然現れたかと思えば、理由もなにもわからず突然のように消えたベリアル。
「転移……したのか?」
「違うわ。いまだから予想はつくけど、あのベリアルはすでに死んでいたのよ」
「死んでいた? 嘘だろ? 幽霊だっていうのか?」
「幽霊とは違うけど、魂に力を籠めて無理やり肉体にしていた感じね。こんなことなら魂の杯のなかに封印しておけばよかったわね。そうしたら一生復活できなかったのに」
「誰かが間違えて飲んだら大変なことになるだろうから、それは却下だな。光魔法でもぶちこんでやるんだった」
ベリアルに関しては気になることだらけだ。
恐らくは、グリューエルという奴が全て仕組んだのだろうが、情報がほとんどないため考えようがない。
それより、俺たちがいましないといけないのはシルフィアと鈴子を助けて地上に戻ることだ。
と俺は樹の上を見上げ、ある違和感に気付いた。
「……シルフィアの光の力、徐々に小さくなっていないか?」
そうなのだ。シルフィアから発せられる光が明らかに小さくなっている。
さっきまでは太陽のように眩しかったのに、今はしっかり直視できている。
そして――まるでブレーカーが落ちた蛍光灯のように光を失ったシルフィアが真っ逆さまに落ちてきた。
「危ないっ!」
思わずそう叫び、俺は大きく上にジャンプした。
ジャンプの頂点付近でシルフィアを受け止め、そのまま落下し、膝と腰と肘をクッション代わりにし、できるだけシルフィアに衝撃がこないようにしながら着地した。
そして、彼女の首の裏あたりからポロっと石が落ちた。
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精霊石【魔道具】 レア:★×8
精霊の力を宿しやすい石。一定量の石を錬成することで精霊玉となる。
組み合わせる素材により、宿る精霊が決まる。
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精霊石だ。倒す必要もなかったみたいだ。正直、光なんてどうやって対処したらいいかわからなかったから助かる。
でも――
「ライがいない……いつもなら宝玉が割れたら精霊が一緒にいるはずなのに」
その時、通信イヤリングが鳴った。
「クリスからか……」
地上からの通信なら、おそらくイヤリングから聞こえてくるのはノイズだけだろう。
それとも、あいつも俺の後を追って迷宮に入って来たのか?
それなら、通信イヤリングは使えると思う。
「クリス、聞こえるか?」
『コーマさん、聞こえます!』
クリスの声が鮮明に聞こえて来た。
やはり彼女は迷宮に入ったようだ……そう思った時。
彼女の背後から何かが聞こえて来た。
『それより、地上が大変なんで――』
『ちょっと待て! 静かにしろ!』
俺は思わず叫んでいた。
通信イヤリングの向こうから、音楽が聞こえてくる。
……二度と聞くことがないかもしれないと思っていた言葉の羅列とともに。
『あの……コーマさん』
「クリス、お前、今どこにいる?」
『それが、転移陣に入ったら知らない町の中にいて――』
「そっちに音楽が流れているか?」
『はい、その町の家の中にあった黒い箱のスイッチを入れたら急に謎の音楽と声が聞こえてきて』
俺はわけがわからなくなった。
なぜなら、その音楽の曲にのって流れて来た歌声は、この世界の言葉ではなかったから。
「……なんで日本語の音楽が流れてるんだよ!」
俺は思わず叫んでいた。




