草原を進むふたり
~前回のあらすじ~
草原で魔物に囲まれていた。
飛び出してきた魔物を見て、そういえばこいつらもアークラーンの領土にいた魔物だなと思った。
どうせなら、 狂走竜 《 アグリアステップドラゴン 》だったら足になったのに。出てきたのは茶褐色の肌の巨大な鬼――オーガだった。
オーガ将軍とはベリアルとの戦いのときにクリスが相手していたが、こいつは普通種。
俺が記憶喪失になってすぐに出会った魔物でもある。
「あの時はこいつが化け物に思えたっけ……いや、ドッキリと思っていたんだったかな」
記憶喪失で全てが手探りの状態で、こいつと対面。あの時はかなり焦ったなぁ。
穏やかな笑みでオーガを見ていたら、それを挑発ととったのか、手に持っていた棍棒を振りかぶって来た。
「ルシル、俺の後ろから――」
離れるな――そう言おうと後ろを向いたら、反対側にいたオーガたちが凍り付いていた。
ルシルの姿が中学生くらいの姿になっていた。
「え? 何か言った?」
「いや、なんでもない。あまり無理はするなよ」
「そうね。やっぱりまだまだ本調子には程遠いわね」
ルシルは毎日魔力の神薬を飲んでいるおかげで順調に魔力を回復させている。
もちろん、本調子ではないという言葉はウソではないが。
俺は神雷の杖を取り出し、「雷よっ!」とキーワードを唱え、オーガ達を一掃していった。
僅か十数秒で敵は壊滅。魔石とオーガの角のみを残した。
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オーガの角【素材】 レア:★★
食肉鬼、オーガの角。薬の材料になる。
オーガは角が長いほど立派だと言われる。
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薬といっても強壮剤だけどな。スーとシーの親父さんに売れそうなアイテムが作れそうだ、と思いながらアイテムバッグに入れ、代わりに長い金属の棒を取り出して、地面に突き刺した。
何しろ目印も何もない草原だからな。こうして目印を作っておかないと、自分がどっちに向かって歩いていたのかも忘れてしまう。
「……コーマって本当に素直じゃないわね」
小学生の姿に戻ったルシルがそんなことを言ってきた。何のことかはさっぱりわからない。
「俺はいつでも素直だぞ」
「本気でそう思ってるなら重症ね……コーマが今、私とこの迷宮に潜っている目的はなに?」
「そんなの、もちろん72財宝を集めるためだよ。何しろ、このごたごたは、秘密裏に六つの宝玉を集めるにはもってこいだからな」
「知り合いの神子たちを助けるためって言えないあたり、素直じゃないって言われても仕方ないと思わない?」
「…………そんな理由なわけないよ。絶対にな」
「どうして?」
「そんなことを言ったら、俺は自分のエゴでお前を巻き込んでいることになる」
歩きながら、俺はそんなことを呟いた。
正直、ルシルを巻き込むのは本当に躊躇われていた。
恐らく、この迷宮の中に確実に72財宝があるとわかっている状態でなければ、俺は彼女を巻きこんだりはしていない。
たとえ、人々の魂を集めるのにルシルの能力が必要なため、彼女がいなければ魂を失った人たちが死ぬことになったとしても。
そして、地上に戻るための手段に、転移陣を操作するルシルの力が必要だとわかった時点で、俺はもうこのバベルの塔に入らなかっただろう。
俺はルシルのことを自分の命よりも大事に思っている。そう思ったことがあった。
だが、今の俺は、自分の命よりも大事な存在が出来過ぎた。
コメットちゃんやタラといった魔王城のみんな、メイベルやフリマの従業員、スーやシー、サクヤにシグレ、そして神子たち。
多くの人と出会い、俺は自分の命よりも優先して助けたい人が多くできてしまった。
それでも……と俺は時々思ってしまう。俺は自分の命よりも大事な人全ての命と、ルシルひとりの命を天秤にかけたとき、どうするだろうか? 全ての人間を犠牲にして、ルシルを助けるだろうか?
……多分、ルシルを助けるんだろうな。たとえ、それでルシルに嫌われることになったとしても。
それでも、俺はこうしてルシルを危険に巻き込んでいる。
それは大きな矛盾だ。
「コーマ……あれ」
「……見えて来たな。かなり遠いが」
それは一本の樹だった。
「……樹ってでかさじゃないな……でも、あの大きさ、前に一度見たことがあるよ」
ユグドラシル。
それに匹敵するほどの巨木が、遥か彼方に聳え立っていた。




