迷宮なのに草原のど真ん中
~前回のあらすじ~
クリス、居残り宣言。
再度迷宮の中に入った俺とルシルを待っていたのは、大草原だった。うちのミノタウロスが喜びそうな場所だ。
ここは、アークラーンの国に近い環境だな。ということは、ここにいるのは光の神子のシルフィアと、光の精霊ライか。
「ルシル、本当にここは迷宮なのか? 太陽が見えるんだが」
青い空を仰ぎ見ると、眩い太陽が燦々と輝き、白い雲が左へと流れていた。
「太陽ならさっきのアルジェラのいた迷宮でもあったでしょ。といっても虚ろな存在だったから気付かなかったかもしれないけど」
「……そういえば、町の中だったもんな……太陽があってそれが普通だったから気付かなかったってわけか」
ということで、俺とルシルは、草原の中を歩いていた。
最初の砂漠と違い、過ごしやすい環境のため、普通に歩いている。
タイムリミットも、最初のころと比べたら格段に伸びた。
ちなみに、ルシルが救出した魂は全員分あり、とりあえず神子全員が目を覚ましてから、神子達の考えの下、魂を元に戻すかどうか決めることになった。例外として、グルースの魂だけを戻した。アルジェラはひとりで意思決定をするには幼過ぎるからな。
あいつは悪人時代、いろいろと悪知恵を働かせていたし、世渡りで生きていた男だ。こういう時の誤魔化し方も心得ているだろう。
そうすると、一番心配なのは戦闘バカレイシアだ。今はクリスと一緒だからな……余計に心配でもあるが、他の神子がフォローしてくれるだろう。
「クリスの奴、なんで残るなんて言い出したのかな?」
「私は残ったのは正解だと思うわよ。たしかに、コーマの力のおかげで、クリスの能力は世界でも指折りの剣士になっているけど、それでも人間の域を脱していないわ。ベリアルという危険因子の存在がある以上はそのほうが安全よ。お互いにね」
「…………あぁ、そうだな」
でも、やっぱりなんか調子狂うんだよな。あの勇者バカがいないと。
後頭部をポリポリとかきながら、俺は足元の葉っぱを引きちぎり、口に当てた。
「……コーマ、何それ?」
「草笛だよ……昔、母さんから教わった気がしたんだが、やっぱり上手い事できないな」
「そう言えば、コーマってお父様の話はよくしてたけど、お母さまのお話はしなかったわね」
「お母さまって言うような母親じゃないよ。どこにでもいる普通の母親だったからな。ただ、俺のコレクター気質が親父に似てしまったのを心配してか、よく外での遊びを教えようと連れ出してくれたんだよ」
「そう、いいお母さんね。どう? コーマ、私、コーマと結婚は無理だけど、コーマの母親代わりにならなってあげられるんじゃないかしら?」
ルシルが俺を下から覗きこむように言ったので、俺は鼻で笑った。
「あ、なによ! 結構本気で言ったのに」
「お前はどうせそんなことを言って、母親の味とか言って俺に料理を食わせるつもりだろ」
「そんなこと言わないわよ! そんなこと言わなくてもコーマには私の料理を食べさせるんだから。絶対に美味しいと言わせるんだから! コーマの唯一の趣味がコレクションとかいうガラクタ集めなのと同じように、私の唯一の趣味が料理なんだから」
「俺の唯一の趣味じゃねぇよ! 絶対的な趣味だけど、俺も鍛冶とか読書とか、そういう趣味があるよ」
鍛冶は結構奥が深いんだからな、鍛冶は。低性能の武器を作る難しさを実感している。
ただの鉄の剣を作るのにどれだけ苦労するか。
鉄って本当にすぐに鋼鉄になったり魔鉄になったりするから厄介だよな。
武器屋に普通に販売されている錆鉄の剣なんてどうやれば作ることができるか、見当もつかない。俺が打った鉄の剣って、蒼の迷宮の三十五階層の海の傍に放置しても錆びなかったしな。
「コーマ、歩くのに疲れたわね」
「そうだな、俺もバカな会話をするのに疲れたところだし――そろそろいってみるか」
俺はルシルの言葉に同調すると、周囲を見渡した。
囲まれている。そう感じたのはもう十分以上前のことだ。
さて……移動の足を手に入れますか。
そう思って、わざと警戒心を解いた瞬間――そいつらは隠れていた草の陰から現れたのだった。
すみません、何故か昨日の更新分が反映されていなかった。




