一度戻って
転移陣を抜けると、そこは小さな部屋だった。
金属製の梯子と扉があるだけの部屋だった。
アルジェラを抱えたまま扉のノブを回してみて押してみるが、鍵が掛かっているのか開かない。
あとは梯子の上の天井が外れそうだ。まるでルシル迷宮の十一階層みたいな造りだなと思うが。
転移陣からクリスとルシル、そして、クリスに抱えられたアクアマリンとウィンディア、マネット、そしてシルフィアゴーレムがやってきて、小部屋は満員状態になった。
「マネット、とりあえず魔王城に戻れ!」
俺はアイテムバッグから持ち運び転移陣を取り出し、マネットとシルフィアゴーレムを魔王城に移し――
「あ、マネット。ちょっと待ってくれ」
少しだけマネットを呼び止めた。
※※※
梯子をつたい、上に行くと、やはり天井が動いた。それをずらし、そこで俺が見たのは――
(白い塊と赤い紐――)
それが見えたと思ったら、そこにあった影が動いた。
「コーマ、貴様どこから出て来た」
「おぉ……サクヤ、さすがに赤褌は――」
俺は咄嗟に顔をひっこめる。さっきまで俺の額があった位置をクナイが通り過ぎて行った。
「殺すつもりかっ! お前がそんなところに立っていながら隠し通路の存在に気付かない方が悪いんだろうが」
俺はそう言うと、アルジェラを抱えたまま(盾代わり)上に飛び出した。
アルジェラの姿を見たサクヤは流石にクナイを投げるのを止めた。
俺の後に続き、ルシルとクリスも隠し梯子から現れた。
「みんなの魂を持ってきたわよ。上にいたでっかい竜の魂は白い犬のゴーレムに入っていたわ」
「あと、ウィンディア様とアクアマリン様も保護しました」
ふたりの言葉に、サクヤの顏が少し綻んだ。
「それは助かる。先程、地上の様子を確認したのだが、だいぶ混乱しているようなのでな――だが」
サクヤの顏が少し落ち込む。
ウィンディアとアクアマリン、アルジェラの姿を確認できたのに、シルフィアがいないのが彼女の心を締め付けたのだろう。
そこに――
ひょっこり彼女が姿を現した。
「シルフィア様、御無事でしたか!」
サクヤが手を差し出し、彼女を梯子から上がらせる。
「コーマ、貴様も人が悪いぞ。シルフィア様が無事なら無事と……ん」
サクヤはしげしげと彼女の様子を見た。違和感に気付いたようだ。
「悪い、サクヤ。それはシルフィアではない。暴走状態のアルジェラが作ったシルフィアの姿をしたゴーレムだ」
「ゴーレム…だと」
サクヤがもう一度シルフィアを見つめ、俺を睨みつけ、そして嘆息を漏らした。
「コーマが何故彼女を連れて来たのか、おおよその検討はついた。それが最善だろう。幸い、シルフィア様の他に、見つかっていないのは闇の神子様だけか」
「あぁ、幸い……な」
「ならば、表向きは神子は全員無事だと報告できる」
そう、これ以上の神子と連絡が取れない状態は良くない。
前にも言ったが、今回の同盟話の土台には、先の戦と長年の歴史という大きな亀裂がある状態だ。
そんな中での神子の不在は混乱を招くのは間違いない。
そこで、問題の見つかっていない二人だが、シルフィアの代役をこのゴーレムに、そして闇の神子、鈴子の代役は必要ない。
なぜなら、表向きの政治は全て、彼女の影武者が行っていたから。
「あと、問題がもうひとつある」
「なんだ? 問題はひとつやふたつではない。今更増えたところで」
「サランを含め、精霊全員が何者かに攫われているようなんだ。クレイもさっきまで一緒だったのに、転移陣を潜った途端に行方知れずになった」
「…………コーマ、今の話は誰にも言うな。こういうものではないが、精霊様はそこにいて、誰にも見えないものだ。仮に精霊様がいなくなっても神子様以外は気付かないだろう」
「はは、そう割り切ってもらうと助かるよ。じゃあ、こっちはお前に任せた。俺たちはもう一度迷宮に潜ることに――」
俺がそう言った時だった。クリスが口を開いた。
「コーマさん、すみません。私はここに残ることにします」
「は?」
「私が行っても、たぶんお役に立てそうにありませんから」
クリスはそう言うと、小さく微笑んだ。とても悲しそうな表情で。
なぜか昨日の更新が反映されていなかった。
システムトラブルか、あぁ、もう。




