初心に戻って肉弾戦
~前回のあらすじ~
ベリアル登場。
「クリスを殺すだと……お前、殺しはできないって言ってただろ!」
「俺様が殺せないのは、コーマ、お前とそこのルシルって嬢ちゃん、あと神子たち……それに」
ベリアルはルシルの横にいるマネットを見て、にっと笑った。
「弱っちいがあいつもそうだな」
「弱っちくて悪かったね。僕は戦闘向きじゃないんだよ――」
マネットが不貞腐れるように言う。
「コーマ、忘れたか? 俺様はこうなってからもすでに人を殺しているんだぜ。まぁ、俺様は忘れていたがよ」
……そうだった。こいつと再会したその時、見張りをしていた男が殺されていた。
こいつが殺すことができない相手は決まっている。それは誰かに命じられた相手――おそらく命じているのは何度もベリアルが口に出した名前――グリューエルだろう。
つまり、ベリアルは本当にクリスを殺すことができる――
俺の脳裏によぎったのは――かつてベリアルに腹を貫かれたルシルの姿だった。
こいつは、やるといったらやる。腹のうちは全て見せ、裏には何も持たない。そんな奴だ。
「どういうことだ、ルシルの力を借りるなっていうのは」
「文字通りだ。コーマ、お前だけなんだぜ、俺様が唯一ライバルと認めたのは。そんな奴が女の力を借りて戦うところなんて見たくないんだ。俺様を失望させるな」
そう言ったベリアルの背後に、アルジェラが迫った。
アルジェラの剣がベリアルに届こうかというが、ベリアルは身体を半分捻り、裏拳でアルジェラの腹を叩いた。
アルジェラの体が吹き飛び、後ろの壁に激突する――が、アルジェラの体には傷ひとつない。
それどころか、ベリアルのHPが僅かに減った。
「硬いな……だが、それだけだ」
「ちっ、勝手なことを言いやがる」
でも――今ので少し突破口が見えた気がした。
俺はアイテムバッグから、力の妙薬を取り出して一気に飲み干す。
30分限定だが、力が5割増しになるアイテムだ。
「よし、初心に戻っていっちょ力押しと行きますか」
便利な道具や強力な剣ができて忘れていたが、俺の最初の力は、この力の妙薬と、力の神薬による力便りだったんだよな。
「行くぞ、アルジェラ! 覚悟しやがれ!」
俺はそう言うと、前に跳んだ。小細工も一切なにもない、この身ひとつで。
アルジェラが聖銀の細剣で突いてくるが――俺はその細剣を左手で受け止めた。
(ぐっ――)
左手に激痛が走る。なぜなら、細剣は俺の手を貫いたから。
そして、俺は貫かれたまま、その剣を握った。
これで逃げられないだろ、アルジェラ!
(喰らいやがれ!)
俺は己の拳をアルジェラの鳩尾に叩きつけた――すると、剣で叩きつけてもびくともしなかった、アルジェラの体が宙に浮かぶ――ダメージがあるようには見えないが、それでもさっきの剣の時と違って無効化されているわけではない。
「そうか、コーマ、考えたわね」
「ルシルさん、どういうことですか?」
「剣は鉱石――つまり土の領分だけど、人間の体はそうじゃないの。人間の体っていうのは、基本は固体の土だけど、その動きは流動の水、篭る熱は火、そして空気を吸って動く風――四大元素全ての力で動いているの。だから、土の力だけでは無効化できないの。アルジェラは最初、庇う必要がないにも関わらず右手でエクスカリバーを受け止めたのは、自分の体の硬さを誇示して、肉弾戦に持ち込ませないための作戦だったのね」
「……全くわかりません」
「つまり、コーマはベリアルがアルジェラを殴ったのを見て、その手が使えるって思ったわけよ」
身も蓋もないことを言うなよ、ルシル。
でもまぁその通りだけどさ。
さて、ここからが反撃の時間だ。そして、子供はお休みの時間だぜ、アルジェラ。
ひりひりと痛む右手を気にしながら、俺はこの後の作戦について考えた。




