スキル修得のスケル眼鏡
蒼の迷宮に来るのは2度目だが、やはりこの水の壁の迷宮というのは美しいと思う。
最初にここに来たときには、「まだ俺にも、何かを綺麗だと思う人間らしい感情が残っていたんだな」とギャグで呟いてしまうほどだった。
自分が人間の感情を失ったなどとは思っていないが、もしかしたら自分で気付かないうちに、人間らしい感情を失っているかもしれない。
あの時、ゴーリキと戦った時に頭に響いた声は、いまでも忘れることができない。
殺せ、壊せ、倒せ、潰せ、と俺に破壊を促す大魔王の声。
俺の心を砕いていくあの感覚を思い出すと、俺が俺でいられなくなりそうになる。
試してみるか……。
「なぁ、クリス、ここって地下十六階だっけ?」
「ここは地下じゅうにゃにゃかいですにゃ……にゃにゃ」
「そうかそうか、地下じゅうにゃにゃかいか……わからんな」
「コーマさん、やめてくださいにゃ」
俺は「悪い悪い」と言いながら、クリスの呪いを解除する。
うん、クリスをからかって楽しいってことは、まだ人間らしい感情が残ってるってことだな、うん。
まぁ、勇者をからかいたくなるのは大魔王の力の影響と考えられなくはないが、それはそれ、これはこれで。
「あ、また鮫が来るな」
水の壁の向こうから大きな影が迫ってくる。
俺は一歩横にずれ、跳びかかってくる鮫にすれ違いざまにプラチナソードで攻撃する。
相手の速度を利用した攻撃で、一刀両断された鮫はアイテムを数点残す。
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化け物鮫の逆鱗【素材】 レア:★★★
鮫系の魔物の中で、一枚だけ裏返っている鱗。
触るととても痛いので、とても怒ってくる。
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「おぉ、化け物鮫の逆鱗か……竜じゃないのに逆鱗とかあるんだな」
落ちた鱗を拾い上げる。
アクセサリーの材料の他、防具の材料にもなるな。儲け儲け。
鱗をアイテムバッグにしまうと、俺をじっと見ているクリスと目が合った。
「どうした?」
「コーマさんって、鑑定スキル持ってるんでしたよね。羨ましいなって思って」
「クリスはスキルを持っていないのか?」
「たぶん、ないと思いますけど、潜在スキルとかあればいいかなって思ってます」
この世界のスキルは、生まれ持って手に入れるものと、長年の修行で手に入るもの、アイテムを使って手に入るものの三種類がある。
俺の場合は、アイテムを使って手に入るという3番目の手段により、鑑定スキルや、アイテムクリエイト、火炎魔法というスキルが使えるようになった。
「じゃあ、調べてみるか。スキル眼鏡っていうアイテムがあってだな――」
俺は赤いとんがり眼鏡を取り出し、装着する。
「あ、でた、コーマさんのダメガネシリーズ!」
「ダメガネで悪かったな……ってあれ? クリス、鎧いつ脱いだんだ?」
「え? 鎧ならつけてますよ」
つけてる? クリスの黒いシャツは見えているが、鎧は見えないぞ?
もしかして、バカには見えない鎧? 俺、バカになった?
ちがう、そうじゃない。
今度はその黒いシャツがなくなり、それどころか白いブラと下着だけになった。
まずい、これは――
今度はそのブラと下着がなくなり、クリスが生まれたままの姿に――
俺は思わず眼鏡を外した。しっかり堪能した後で。
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スケル眼鏡【魔道具】 レア:★★★★
箱の中身、卵の中など透けて見える眼鏡。
どこまで見ても心の中までは見えない。
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あ、スキル眼鏡と思ったら、スケル眼鏡だった。
うん、いつも思うが、クリスの胸って……いや、うん。
ありがとう。
今度は、青いトンガリ眼鏡を取り出す。
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スキル眼鏡【魔道具】 レア:★×5
相手のスキルが見える眼鏡。
確認できるのはスキル名とそのレベル。
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こっちだこっちだ。
新しいメガネを出すと、「コーマさん、一体何種類の眼鏡を持ってるんですか」と呆れ顔で言ってくる。
鏡越しで見てもスキル確認は有効。それで見た俺のスキルは、
【×××レベル10・鑑定レベル10・火炎魔法レベル3】
レベル10が最高レベル。
アイテムクリエイト、つまりアイテム作成魔法のスキルはノイズが走って見えなかった。オリジナルスキルだからだろうな。
これを使ってクリスのスキルを確認。
【聖剣レベル1・蛇紋剣レベル1・瞬剣レベル1・魔法剣レベル1】
剣のスキルばかりだが、4種類もあるってずるいな。
何人かスキルを見て回ったが、多くの人はスキルは持っていても1個か2個、ほとんどの人はスキル無しだった。
メイベルは鑑定レベル3。
全部レベル1なのは、まだ潜在的に持っているからだけかな。
魔法剣とかはかっこいいな。
「クリス、お前のスキル、激レアのものがあったぞ」
「え? 本当ですか?」
「ああ、飛行スキルって言って、空を飛ぶスキルだ」
「え? 本当ですか?」
ウソです。
索敵眼鏡にかけなおし、周囲に敵がいないか探ってみる。
敵はいない。よし、クリス遊び2回目だ。
「あぁ、試しに、両腕を横に広げて、大きく上下に動かす」
「はい、やってみます」
バカ正直に両腕を広げて手をバタバタさせる。当然、そんなことでは空は飛べない。
ぴょんぴょん飛び跳ねるが、とうぜん飛べない。
「飛べないなぁ」
「どうしてでしょう!」
「鎧が重すぎるんじゃないか?」
「なるほど……じゃあとってみますね」
クリスは鎧を取り、剣をおき、アイテムバッグも下ろして、再度両腕を広げて大きく羽ばたいてぴょんぴょん跳ねてみる。
当然、飛べない。飛べるはずがない。
鎧がないことで、先ほどまで固定されていた胸が大きく揺れる。
「服も重いんじゃないか?」
俺が笑いながら言った。そろそろネタ晴らしで、本当のスキルを教えてやるか。そう思った、その時だった。
ありえない現象が起きた。
クリスがジャンプしていたときだった、宙を蹴ってさらにジャンプした。
何が起きた!?
スキル眼鏡をかけなおす。
【聖剣レベル1・蛇紋剣レベル1・瞬剣レベル1・魔法剣レベル1・多段ジャンプレベル3】
「なっ……」
変なスキル覚えてた。
多段ジャンプって、2段ジャンプみたいなあれ?
スキルってそんな簡単に覚えるものなのか!?
「コーマさん! 今、飛行できたんじゃないですか? ちょっとですけど」
「あ、あぁ、できたな。正確には多段ジャンプってスキルみたいなんだが。もう鎧を着て、両手を下ろしてもできるんじゃないか?」
「はい、やってみますね」
クリスは鎧を着て、両腕をリラックスさせた状態で、思いっきりジャンプしてみる。
すると、本当に宙を蹴って、二段ジャンプに成功していた。
「できました! コーマさん、できましたよ」
「あ……あぁ、凄いな、クリスは」
苦笑いしか出てこない。
なんで本当にできてるんだよ。
勇者としての資質とかか?
眠ってもいないパワーに目覚めてるんじゃないよ。
「はい、コーマさんのおかげです」
その笑顔に、俺の胸がちくちく痛む。
くそ、俺にもまだ人間らしい感情が残っていたというのか。
その日は20階層までいき、そこで野宿をすることになった。
索敵眼鏡をつけたら魔物の場所はわかるうえ、このあたりの魔物なら俺一人でも十分倒せるから問題ない。
交代で見張りをすることにして、俺が起きている間はクリスと同じ方法で二段ジャンプの練習をしたのだが、どう頑張ってもスキルを覚えることはなかった。




