スライムの異常性
~前回のあらすじ~
クリスに神銀の剣を渡した。
誰もいなくなった広場の聖殿の扉に手をかける。
が、扉は鍵がかかっているのか、開きそうにない。
「よし、クリス、さっそく剣の切れ味を試すチャンスだぞ!」
「はい、わかりました!」
クリスは剣を抜き、居合切りのように一瞬にして金属製の扉を細切りにした。
「コーマさん、この剣、とても軽いですよ!」
「いや……鉄よりは重いはずだぞって、あぁ、そうか」
ミスリルの比重は、銀とそれほど変わらない。
その重さは白金の半分だ。炎の剣もプラチナベースで作っていたので、それに慣れてしまったクリスからしたら、ミスリルでできた神銀の剣は軽く感じることだろう。
さぞその使い心地に感動しているだろうと思ったら――
「……コーマさん、もう少し重くなりませんか? 軽すぎて手元が狂いそうです」
文句を言われた。殴ってやろうか?
「弘法筆を選ばずだ。一流の剣士は剣の重さくらい自分の実力でカバーしろ」
「コーボーフデってなんですか?」
……あぁ、これは日本の諺だからな。該当する諺がなかったのか、翻訳が中途半端になってしまったらしい。
「弘法大師ってのは俺の国の文字の上手い人間でな。そういう文字の上手い人はどんな筆でも綺麗な文字を書けるって話だよ」
「へぇ、そういう話なんですか」
クリスが感心するように頷くと、ルシルは、
「あぁ、弘法――空海ならかなり筆にこだわってた人だったわよ。私が一本筆を盗んだことがあったとき、かなり揉めて、やっぱりいい筆じゃないといい書が書けないとか言っていたし」
「……盗むなよっ! 弘法大師の筆を! って、マジでそんなもん盗んだのか?」
「召喚魔法の練習にね。いろいろと盗んだわよ。そうね、コーマが知っていそうな物でいえば、珠光小茄子とか、ヒマワリの絵とか、草薙の剣とか、燃える家とか海の底にあるものとかいろいろと召喚したわね」
「やってることはほぼ火事場泥棒だな。てか、国宝級以上の宝ばっかじゃないか! もしも日本に持って帰れたら一財産だな。それらの宝はいまどこに?」
「何言ってるのよ、私の持っていたものは全部コーマの中のお父様の力を封印するときに魔王城ごと壊しちゃったじゃない」
「……あぁ……くそっ、俺のバカ」
もしもこの事実が日本の世間に知られたら、俺は世紀の大罪人として扱われることだろう。
ここが異世界でよかったと心から思う。
ところで、扉を細切りにし、即座に戦闘かと思っていた俺たちがこんなバカな話をしているのには理由がある。
なぜなら、聖殿のなかにはシルフィアの姿はなく、代わりに転移陣があっただけだった。
恐らく、彼女はこの転移陣の先にいるのだろうが。
「ルシル、この転移陣がどこに通じているかわかるか?」
「うーん、やっぱり入って見ないとわからないわね。方角は下の方っぽいけど」
「下……か」
ベリアルは言っていた。これはバベルの塔なんだと。
天へと伸び、次元を越えるための巨大な塔。
おそらく、俺は今、塔を登っている。
地下に行くということは、あの砂漠からこの町に来たような変化ではなく、恐らくはこの町の地下。
光の迷宮のどこかに通じているということなのだろう。あの迷宮に俺が本当に入ったのは二度だけだが、その広さは相当なものだ。
ここで「俺が先に行くから、安全が確認できたら、ふたりは待っていてくれ」なんて言ったらきっと、強制的に三人で中に入っちまうんだろうな。ということで、
「スライムクリエイト!」
アイテムバッグからスライムの核をひとつ取り出し、青色のゼリーのような魔物、スライムを作り出した。
「よし、スライム! 転移陣の向こう側に行って向こう側を確認してすぐに戻ってこい」
俺が命令を出すと、スライムは体を震わせて転移陣の中に入って姿を消した。
そして待つ。だが、一分、二分待っても帰ってこない。
これでスライムが帰ってこないようなら、別の方法を考えないといけない。
「コーマ、早くしないと広場に人が戻ってくるわよ」
「……そ、そうだな。ったく、軽く鍵の部分を壊すだけでいいのにどこかのバカが調子にのって扉を細切れにしたせいで、聖殿の中に隠れることもできないし」
「すみません、私、そんなつもりじゃ」
とクリスが謝ったところで、転移陣が光った。
スライムが戻ってきたのだ。やけに遅かったな――と転移陣から現れたのはスライムだけではなかった。スライムはその口(?)で糸を咥え、何かを運んできた。
その運んできたものとは、蜘蛛の巣の糸によって簀巻きにされた――瀕死の蜘蛛のような姿のモノを含む魔物達だった。
「……クリス」
「はい!」
クリスの剣がスライムによって運ばれてきた魔物たちを一瞬で細切りにしたのだった。
「……あの、私、前にユーリ様……ルルちゃんと一緒にコーマさんの迷宮に潜ったときに思ったんですけど、コーマさんの迷宮のスライムって一部おかしくないですか?」
「……俺に言うな。自分でもわかってるよ」
勇者試験初日の俺が、このスライムに出会っていたら負けていたかもしれない。
落ちたアイテムを拾ったあと強敵はいないということを確認し、俺たちは転移陣の中へと入っていった。




