ホットドッグを作ってくれ
~前回のあらすじ~
アルティメットポーションを飲んだことで現状を把握できた。
「幻覚……じゃないわね。この町は本当にここに実在しているわ……」
アルティメットポーションのおかげで記憶を取り戻したルシルは、冷静に現状の分析をはじめた。
「じゃあ、あのマルジュ達はなんなんだ?」
マルジュだけではない。町の人全員、どこかで見たことがあると思っていたが、その正体は迷宮の外で魂を抜かれて気を失っている人達だ。
冒険者として活躍していたのは全員、護衛としてついてきた戦いのプロ。そして冒険者として成功し、贅沢をしていた人は貴賓として招待された各国の重要人物。よく見ると、グルースまでいる。
確か、グルースはこの町の町長の秘書という立場だった気がするが、記憶を取り戻した途端に、この町での作られた記憶という名の設定は、手のひらの水のように零れ落ちて行き、ほとんど残っていない。ただ、その僅かに残った記憶も、かなり無理のある設定だと思う。
「魂が人の形になっているのか?」
「んー、あれは恐らく――人形の中に魂を込めているのね。人形を壊して中の魂を取り戻して、持って行ったら元に戻せると思うわ」
「……えぇ……それはちょっと」
クリスが嫌な顔をする。俺も正直嫌だな。
その姿は猟奇殺人者だ。
魂の間の記憶が残るとしたら、それはトラウマものになるだろうし。
「なら、人形を操ってる存在を倒すしかないわね。どうせ神子でしょ?」
どうせ神子――その言い方にいろいろと思うところがあったが、たぶんそうなんだろうな。
残りの神子は、光の神子シルフィア、闇の神子鈴子、土の神子アルジェラ、水の神子アクアマリン、風の神子ウィンディア。
「あぁっ! そういえば、私、見ましたよっ! 聖殿の中でシルフィアさんを!」
そういえばクリスの奴、昨日、そんなことを言っていたな。
この町の名前はアーク。シルフィアのいた国の名前はアークラーン。
そして、迷宮は光の迷宮。
ここまで条件が揃えば、この異常な事態を引き起こしているのはシルフィアか。
「ここで一日時間を使ってしまってる。サクヤに怒られる前にシルフィアとここにいる人の魂を元に戻さないと。クリス、お前はこれを使え!」
俺はクリスに失敗作を渡した。
「コーマさん、これ!?」
「俺の失敗作だ。そっちの成功作よりは使えるだろ?」
言っている意味がわからないのか、クリスは俺が渡した剣を鞘から抜いて――目を見開いた。
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神銀の剣【剣】 レア:★×9
ミスリルを鍛えに鍛えて叩き上げた剣。最高の切れ味を誇る。
聖なる力を持ち、死霊系、悪魔系の魔物に大ダメージを与える。
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「コーマさん、これ!? なんですか、この剣!?」
「ミスリルの剣だ。失敗作だからあまり見るな」
「失敗作って、私が貰った剣よりも遥かに研ぎ澄まされているじゃないですか」
「あぁ、どうしてもその輝きを曇らせるのに苦労したよ」
「……コーマさんの剣造りって、何かおかしいですよ」
……自分でもわかっているよ、そんなことくらい。
銅の剣すらまともに作れないし。
ま、まぁ、アイテムコレクターとしては、誰も作れない剣を作って図鑑を埋めることができるのはいい事なんだけどな。
さて、あとは聖殿に忍び込むだけなんだが――聖殿は広場の真ん中にあり、その周りには人が大勢いる。
確か、聖殿の扉を開けることは固く禁じられているので、俺が扉を開けようとしたら周りの人間の邪魔が入るのは間違いない。
「普通なら催眠ガスでも流して全員眠らせてからゆっくり物色するんだが――」
「……コーマさん、そんな普通はありませんよ」
クリスにツッコミを入れられた。
それはともかく、ルシル料理を食べても倒れもしないみんなに催眠ガスが効くとは思えない。残念ながら、死に至る物を除けばルシル料理以上の毒薬は俺には作ることはできない。
……ルシル料理?
そうか、その手があったか。
俺はアイテムバッグから魔力コンロ、フライパン、パン、マスタード、豚肉を取り出し、豚肉にアイテムクリエイトを使い、ソーセージを大量に作り出した。
「ルシル、早速で悪いが、リベンジだ。町の皆のためにホットドッグを作ってくれ。できるだけゆっくり食べてもらうように意識して大きめの奴をな。みんなが食べている間に俺たちは聖殿に忍び込む!」
「わかったわ! 最高に美味しいホットドッグを作ってあげる! あ、でも私、ソーセージは“焼き”より“茹で”派なんだけど」
「そのあたりは譲ってくれ。焼くほうが早いだろ?」
ルシルは頷くと、さらに俺にキャベツとカレー粉、まな板と包丁、そしてテーブル、そして消毒用アルコール、水を要求した。
全部アイテムバッグから出す――本当に自分で入れておいて思うが、なんでもはいってるな、俺の鞄。
ルシルは包丁とまな板を消毒すると、洗ったキャベツを千切りしていき、魔力コンロを使ってフライパンでキャベツを軽く炒める。カレー粉を塗して風味をつけるあたり手が込んでいる。
「……ルシルさん、相変わらず料理の手際“だけ”は一流ですね」
「いや、“だけ”って言うなよ。魔法の腕は本当に凄いんだからな」
料理以外でルシルをフォローしておく。そんな俺たちの雑談が聞こえていないのか、ルシルのホットドッグ作りは最終段階に入っていた。
ソーセージも焼く。
パンの中にキャベツ、ソーセージを挟んだ。
そして、マーガリンを塗った――その瞬間、ホットドッグが犬になっていた。
犬たちは命を吹き込まれると己の使命を――つまり客たちにゆっくり食べてもらおうと、ゆっくり会場に向かった。
子供が歩く程度の速さで。
そして、
『またあの魔物が来たぞ!』
『戦えるものは戦え!』
『ト、トムがやられたぞ!』
『い、いやだ! 俺はもうあんなもの二度と食べたくない!』
「逃げろ! 今回は遅いぞ! 逃げ切れる!」
会場は大パニックだ。
「よし、今のうちに聖殿の中に入るか」
「ちょっと! コーマ、誰も私の料理食べてくれないんだけど! どうなってるの?」
「いや、ひとり食べただろ。顔を真っ青にして吐いてるトムさんが……」
「でも――」
ルシルは何か納得いっていないようだ。
まぁ、さすがに悪いことをしたとは思う。ルシルの料理を人払いに利用したことに。
だが、こっちもあまり時間をかけていられなかったからな。
「とりあえず、全部終わったら、今度は俺のために何か作ってくれ」
「……うん、今度こそコーマにおいしいって言わせてみせるわ」
俺の申し出に、ルシルは本当に嬉しそうに笑った。




