日常の中の大事件
~前回のあらすじ~
ルシルと祭りに行くことになった。
言い知れぬ不安をよそに、俺とルシルは祭り会場へと向かった。
俺はアイテムバッグを、ルシルは大きな手提げ鞄を持って。
祭りでは、様々な露店が並んでいて、細工品や食べ物なども売っている。
ただ、細工品も造りが荒く、これなら俺が自分で作ったほうがいいものができそうだ。まぁ、そんなこと口に出すほど俺は野暮じゃない。
「それにしても、この町って本当におかしいわよね」
「ん? 何が?」
「男の人が多いでしょ?」
「そりゃ、迷宮のある町だからな」
迷宮のある町には冒険者が集まる。そして、冒険者の8割は男性だ。
そりゃ、中にはクリスみたいな女冒険者もいるにはいるが。
「それにしては女性と子供の数が少ないのよね」
「確かに、言われてみれば俺の知っている限り子供といえば、マルジュとお前くらいだもんな」
「そうなのよ、本当に同年代の子供がなくて……って誰が子供よっ!」
ルシルが見事なまでにノリツッコミをしてきた。
そうは言っても、子供が少ないのは昔からだし、女性もいないわけではない。
さらに、この町の若い女性は気立ての良い人が多いし、料理や配膳なども手慣れている。まるで、どこかの屋敷で給仕係をしていたのではないかと思うほどの手際のよさだ。
そのため、ホームパーティーに呼ばれた時はいつも美味しい料理が食べられる。まぁ、俺より旨い飯を作る料理人はこの町にはいない。俺が本気で料理を作ると全員天国に旅立ってしまうほどにトリップするからな。大分手加減を覚えたから今は問題なく料理を作れるが。
それはともかく、これだけ気立ての良い若い女性が多いんだ。数年後にはこの町に子供の声が絶えなくなるだろう。
「さてと、飯でも食べに行くか……まぁ、さっき串焼きを食べたばかりだから」
そういえば、と串焼きの店を探してみる。直ぐに、ケラケブラスの串焼きを食べている人を見つけたため、視線をその人が来た方向に移した。
そして、見つけた――ケラケブラス串焼きの店が。
「………………」
なんだ? あの不細工な鳥は。
頭でっかちなのに、体はやせ細っている緑色の鳥。明らかに生物としては不完全な姿をしていて、正直グロテスクだ。
……あれが、ケラケブラス?
あんなのに食べる肉があるのか?
と思ってみていたら、調理をしていた男が、包丁で首を切り落とし――ガリガリに痩せた体部分を捨てた。
……え?
男は頭の頭蓋骨を叩き割り、そこから中に入っている……
まさか、俺が食べていたのが鳥の脳の肉だったなんて。
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ケラケブラス【素材】 レア:★★
怪鳥ケラケの頭の肉。脳とは異なる。
頭蓋骨の内側にあり、脳を守るクッションの役割をする肉。
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と思ったら、どうやら脳ではないらしい。
脳は別の名前があった。
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ケラケトラス【素材】 レア:★★★
怪鳥ケラケの脳の肉。取れる量が僅かのため、珍味として重宝される。
諺「ケラケの脳」の語源としても有名
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いや、知らないよ、そんな諺。
まぁ、おそらくは「見た目の割に中身が伴わない」みたいな意味なんだろうな。
脳でないとはわかったとはいえ、やはり気持ちのいいものではないな。
いや、まぁニワトリの脳みそって普通に食べられる食材らしいが。
「あれ? あそこにいるのはマルジュか?」
マルジュがテーブルの上で何かご馳走を食べていた。
あいつ、お金にはそんなに余裕はないはずなのに。
「あ、コーマ兄ちゃん。兄ちゃんも食べる?」
「どうしたんだ? そのご馳走」
「知らないの? 祭りの日はこうして食べ放題の食事が振る舞われるんだよ。独身の女性が自分の料理の腕を示すために町の人に料理を振る舞うのが習わしなんだよ」
「そんな風習があったのか。考えてみれば、祭りなんてこの町に越してきてから来たことなかったからな」
口直しに果物でも貰おうかと思った――刹那。
(――殺気!?)
言い知れぬ恐怖に振り返ると、ルシルが笑っていた。
「ふふふふ」
な……なんだ? いったい、なんなんだ?
「コーマ、いまのマルジュの話を聞いたわね?」
「あ……あぁ」
料理が無料で振る舞われるという話。ルシルも食べたいのか? ならば一緒に――って、そうじゃない。
先程のマルジュの台詞を思い出した。
『独身の女性が自分の料理の腕を示すために町の人に料理を振る舞う』
そして、ルシルは俺の婚約者ではあるが、結婚はしていない。つまりは――
「私も今日、みんなに食べてもらうために料理を作って来たの!」
ぎゃぁぁぁぁぁ、しまった!
調理器具が綺麗になっていた時点で、いや、ルシルが祭りに行くと言った時点で気付くべきだった。
ルシルの目当ては、この場で料理を皆に振る舞うことだ。
「ルシル、たのむ、やめて――」
「みんなで食べましょ」
ルシルが手提げかばんから出したランチバッグ。
それを開けた瞬間――ダックスフントのような犬の群れが飛び出したのだった。
ただし、その犬一匹一匹はとても小さい。チワワよりも小さく一口サイズなのが恐ろしい。
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ホットドッグ【素材】 レア:★★★
パンの間にソーセージを挟んだシンプルな料理。
本当に犬の肉を使っているわけではありません。
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……いや、本当に犬ですよ! 犬になってますよ!
って、やばい!
ルシルの料理は基本、食べてほしい人に向かっていく!
いつもはその対象は俺だけだったからよかった。だが――今回は違う。
今回は「町の人に料理を振る舞う」ために料理を作ったのだ。
それはつまり――
悲鳴が広場中に響き渡った。
このホットドッグの狙いは、町中の人に食べてもらうこと。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
背後からマルジュの声が聞こえた。
マルジュ、まさか食べたのか!?
ルシルの料理を――
「マルジュ、大丈夫か!?」
振り向くと、マルジュが顔を真っ青にしていた。
「に、兄ちゃん……変な犬が口の中に入ってきて、凄く不味い……お願い、水を――」
周囲を見ると、犬を口に含んだ皆が、顔を真っ青にして、口々に「不味い不味い」だの「人間の食べ物じゃない」だの「そもそも食べ物じゃない」だの……そんな感想が飛び交う。
……そんな……そんなバカなことがあるのか?
ルシルの料理を食べて……その感想が「不味い」だと?
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