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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode11.5 塔の迷宮・後編

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日常の中の違和感

 ルシルとクリスの朝ごはんを作り、俺はベッドで横になった。

 調理器具などは放ったらかしだ。昨日一日中剣を叩いていたから、さすがに今日は疲れがたまっていた。

 寝るかと思って、俺はベッドに向かう。

 もちろん、ダブルベッドではなく、ツインベッドだ。

 婚約しているとはいえ、俺はルシルには指一本触れていない。せいぜい頭を引っぱたく程度だ。

 ルシルのことは愛しているが、性的な目で見ることはほとんどない。そのたびに俺はロリコンではないんだと実感できる。


「あ、コーマ、仕事終わったの?」

「……ルシル、起きてたのか?」

「私って寝なくても平気みたいなのよね」


 そんな人間はいないだろ……と思ったが、まぁ、ルシルは昼間何もせずに寝ているからな。そのせいで眠りも浅いのだろう。

 まぁ、ひとり寂しく眠るよりはいいか。


 俺はベッドに倒れ込み、枕に顔をうずめた。そして、ポケットに手を突っ込み、ルシルにそれを投げた。

 小さな包み紙に入ったものだ。


 ルシルはその包み紙を受け止めて見つめた。


「チョコレートだよ。食べたら歯を磨けよな」


 その言葉とともに、柔らかい枕から脱出した俺が見たのは、


「ありがと、コーマ♪」


 満面の笑みで俺を見て来たルシルだった。そんな彼女の顔を思わず食い入るように見てしまった俺は――枕に顔を埋めた。

 胸がドキドキする。なんだよ、これ。俺はロリコンじゃないって言ってるだろ。


 あぁ……あの言葉は本当だな。

 惚れたほうが負けだ。


 ……でも、こんな負け方なら幸せ……かな。


    ※※※


 起きた時は既に昼過ぎだった。

 夜明け前に帰ってきたから、少なくとも七時間は寝た計算になる。こんなに寝たのも久しぶりだ。

 昼ごはんは用意していなかったが、ルシルは大丈夫だったかな? と思ったが、まぁ大丈夫かと思った。


 ルシルをある程度知る者ほど意外と思うだろうが、ルシルは小食なのだ。特に嗜好品以外は自ら進んで食べようとしない。俺が用意しないと全く食べないほどだ。本人が言うには、食べなくても別段構わないそうだ。

 寝なくても平気、食べなくても平気って、まるでアンドロイドみたいな奴だな。


(…………?)


 一瞬、自分の思考に何か妙な単語が浮かんだ。

 アンドロイド?

 なんだ、アンドロイドって?


「ど忘れ……なのか?」


 明らかに、俺はその単語の意味を知っていて使った気がするんだが。

 ま、考えてもわからないなら仕方ないか。謎の単語を心の片隅に留めながら、俺はベッドから抜け出した。

 当然、ルシルはもう起きている。


「コーマ、おはよう」

「コーマさん、おはようございます!」


 二人揃って、何かの肉の串焼きを食べていた。

 串焼きはどうやら俺の分もあるらしく、お皿に大盛りで乗っていた。

 それを、鑑定スキルを使って何の肉か調べてみた。

 こういう時にこのスキルは便利だよな。


……………………………………………………

ケラケブラス串焼き【料理】 レア:★★


ケラケブラスの肉を串に刺して焼いたシンプルな料理。

ケラケトラスは高級食材なので使われていない。

……………………………………………………


 ……え? ケラケブラスって何?


「コーマさんも食べますか? ケラケブラス串焼き」

「祭りの屋台でクリスが買ってきてくれたのよ。ケラケブラス串焼き」


 ……なんなんだ? 当たり前のように食べているケラケブラス串焼きって?

 これも俺の知らない言葉だ。

 もしかして、これもど忘れなのか?


 俺は串を一本持ち上げた。

 匂いはいい。塩と胡椒がふんだんに使われている。

 何の肉かはわからないが、ふたりとも美味しそうに食べているしなぁ。

 目を瞑り、一口食べてみた。


「ん、うまいな、これ」


 味は牛肉に近い。脂が少なく少しパサパサしているのが、旨みは牛肉よりある。難点だが、屋台の肉としては十分及第点だ。

 ケラケブラスが何なのかはわからないが、もう二本ほど貰う事に。


「あ、クリス、ホラよ」


 俺は部屋に置いてあった鞘を一本渡す。


「何ですか? これ」

「俺の打った聖銀の剣だ。大事に扱えよ」

「え? コーマさんの剣!?」


 クリスは俺から貰った剣を鞘から抜き、その光輝く刀身にうっとりしていた。

 俺の唯一の成功作だからな。大事にしろよ。


 喜ぶクリスを見て、俺の口も僅かに綻ぶ。

 そして、俺は台所に向かい、放っておいた調理器具や朝食用のお皿を洗おうと思ったが――


「あれ?」


 調理器具も食器類も既に洗い終わっている。


(クリスが一宿一飯の恩義に洗ったのか?)


「なぁ、クリス――って聞いちゃいないか」


 クリスは俺が用意した剣に完全に魅了されていた。この武器マニアめ。

 当分こっちには戻ってこないな。


 さて、どうしたものか。

 とルシルを見た。


『ありがと、コーマ♪』


 ……今朝の笑顔が忘れられない。

 緊張するな、チクショウ。

 ……いっそのこと祭りにでも誘ってみるか。


「……ル、ルシル。ひとついいか?」


 と言って、思った。断られたらどうしようか? と。

 いや、まぁ、ルシルが俺の申し出を断るのはいつものことなんだけどさ。


「コーマ、お祭りに行きましょ!」

「……え?」

「おいしい食べ物もいっぱいあるみたいだし……ね?」


 笑顔で俺を下から覗きこむように誘うルシルを見て、またドキっとしてしまった。

 だが、なんだろう。朝とは違うこの心臓の鼓動。

 俺は何かを恐れている。


 だが、それが何か、この時は全くわからなかった。

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