どこまでも続く日常
~前回のあらすじ~
平和な日常があった。
ミスリルをハンマーで叩く。流石は真実の銀と呼ばれる金属だ。
並みの金属なら、いや、通常の鍛冶師には鍛えることのできないと言われるプラチナですら一叩きで剣の形にしてしまう俺の腕を持ってしても、叩くたびに返ってくる金属の重みに、汗で塩分を含んだ上唇を舐めて作業を続けた。
「コーマさんが剣を打っている姿は様になりますね。ルシルさんが好きになった気持ちもわかります」
「私がコーマのことを好きになったんじゃないわ。コーマが私のことを好きになって告白してきたのよ」
「そうなんですか? 意外ですね……」
「何が意外なのよ! コーマが私に惚れたんだから」
全く、あいつ等は、俺に聞こえていないと思っているのだろうか? 生憎耳も目も、人並み以上には優れているからな。
まぁ、俺の方から告白したというのは本当だ。だが、何故ルシルのことを愛しているのか、全くわからない。俺はロリコンではないはずだ。ルシルの年齢は12歳前後、17の俺よりもはるかに年下であり、正直、好みのタイプとは言えない。最低でもあと四年は待たないといけない。
それでも、俺はルシルのことを愛している。彼女のためなら死んでもいいとさえ思っている節がある。
不明だ。
と、いかんかん、余計な事を考えていては――と叩いている剣を見て、俺は大きくため息をつく。
……失敗だ。
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神銀の剣【剣】 レア:★×9
ミスリルを鍛えに鍛えて叩き上げた剣。最高の切れ味を誇る。
聖なる力を持ち、死霊系、悪魔系の魔物に特大ダメージを与える。
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ただのミスリルの剣――聖銀の剣を作るはずだったのに、油断した結果このようなチート武器ができてしまう。
前に超高性能のプラチナソードを作って売った時、それを見られて武器の注文を山ほど受けさせられそうになったことがある。
たとえ、クリスが使うことになる剣でも、俺が作ったと誰かに知られたら、あの時の二の舞になってしまう。
ルシルも、実はああ見えて贅沢はしないし、俺も散財するような趣味はない。
適度に仕事をして、適度に稼いで、平穏無事な生活を送れたらいいと思っている。
全く、こういう剣を買い取ってくれる店があればいいんだがな。俺が作ったことを絶対口止めしてくれるような店がないからな。
神銀の剣をアイテムバッグに入れて小さく息を漏らした。
ミスリルの盾や鎧といった注文されていた品を先に作り、残ったミスリルでクリス用のミスリルの剣を気まぐれで打ってやろうかと思ったが、もう材料が残っていない。
このまま眠ってしまいたいが、どうもこのまま寝たら、目覚めが悪くなる気がする。
「クリス、また迷宮に潜るつもりだが、お前はどうする? 一緒に来るか?」
「あ、私はもう寝ます。疲れているので」
……こいつは……本当にバカクリスだな。
「そうか……ミスリルが切れたからミスリルゴーレムを倒しに行くつもりだったんだけどな。例えばお前が素材を現地調達できたら、安く剣を作ってやることも可能だったんだが、疲れているのなら仕方ないよな」
「行きます! 是非連れて行ってください!」
クリスが前のめりで宣言してきた。近い近い……たく、もう少しでその巨大な胸が当たるぞ……。
「というわけで、クリスとこれから迷宮に行ってくるけど、お土産は何がいい?」
「ん? そうねぇ……チョコレートがいいわ」
「そんなもん売ってねぇよ……砂糖菓子でも買って帰るからそれで我慢しろ」
「えぇ、あれって甘いだけだからあまり好きじゃないのよ。じゃあ、コーマ、帰ってから何か作ってよ」
「……わかったよ。最高の菓子を作ってやるから、絶対に料理するんじゃないぞ!」
「うん、ありがとう」
満面の笑みを浮かべるルシルを見て、俺はちょっとだけ顔が赤くなった気がした。
既に家の外に出ると西の空が黄金色に染まっていた。
「こんにちはぁ! 薪売りにきたよ!」
そう言ってやってきたのは、薪売りの少年――マルジュだ。
「おぉ、マルジュ、お疲れさん。一束薪置き場に入れておいてくれ」
俺はそう言って、銅貨5枚の束をアイテムバッグから出してマルジュに投げた。
「まいどあり」と言ってマルジュは銅貨5枚を受け取り、笑顔で頷いた。
相変わらず働き者だな。しかもちゃんと将来に備えて貯金もしているらしい。
本当にどこかの誰かに見習わせたいものだ……と俺は家の方向を見て、次に隣を歩くクリスを見た。
「はぁ……」
「ちょっと! そのため息どういう意味ですか!」
「そのまんまの意味だ……よ」
と言いながら、俺は町の中心に向かう。
町の中心では、祭りの準備が行われていた。
小さな石造りの聖殿を中心とした広場の周りに様々な飾りつけがされていく。
そう言えば、明日の夜だったな。
光の精霊に祈りを捧げる祭りだ。
この町の古い神話に関係あるそうだが、正直あまり興味がないので覚えていない。
「ルシルさんもお祭りには行くんですか?」
「いや、あいつも出不精なところがあるからな。どうだろ……ルシル好みのものが売ってたら出てくるかもしれないが」
「それなら大丈夫ですよ。お祭りではいろいろなご馳走が振る舞われるそうですから……あれ?」
「どうした?」
「今、聖殿の扉が開いていて、シルフィア様がこっちを見ていたような気が――」
「シルフィア様が? まさか……あの方は聖殿に篭ってから顔を一度も見せていないんだろ? そもそも、なんでお前がシルフィア様の顔を知ってるんだよ」
「そうでした……私、シルフィア様の顔を知らないんですよね……」
全く、いったい何と見間違えたのやら。
結局、その日、俺とクリスはミスリルゴーレムを七体倒し、ミスリル鉱石を3つ手に入れて帰った。
そして、
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神銀の剣【剣】 レア:★×9
ミスリルを鍛えに鍛えて叩き上げた剣。最高の切れ味を誇る。
聖なる力を持ち、死霊系、悪魔系の魔物に特大ダメージを与える。
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神銀の剣【剣】 レア:★×9
ミスリルを鍛えに鍛えて叩き上げた剣。最高の切れ味を誇る。
聖なる力を持ち、死霊系、悪魔系の魔物に特大ダメージを与える。
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神銀の剣【剣】 レア:★×9
ミスリルを鍛えに鍛えて叩き上げた剣。最高の切れ味を誇る。
聖なる力を持ち、死霊系、悪魔系の魔物に特大ダメージを与える。
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……ミスリルの剣ができなかった……自分の才能がこれほどまでに疎ましく思ったことはない。
結局、神銀の剣を一度溶かし、ミスリルインゴットに戻し、打ち直すを繰り返し、ようやく、
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聖銀の剣【剣】 レア:★×9
ミスリルで作られた剣。破邪の剣とも呼ばれる。
聖なる力を持ち、死霊系、悪魔系の魔物に大ダメージを与える。
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聖銀の剣が出来たとき、真っ暗だったはずの空は僅かに光を帯び始めていた。




