魂を捕まえよ
~前回のあらすじ~
大聖堂の中の人は全員魂が抜けていた。
大聖堂の中は相変わらず静まり返っていた。
吐息が聞こえる他は、話し声は何も聞こえない。
大聖堂の隅の家で集まっていた湖の民も、客人として集まった人も、サクヤやクリス、そして大聖堂の上にいた聖竜も。
唯一安否がわからないのは、神子たちと教皇だ。
七人がいると思われる部屋の扉には鍵がかかっていて、扉をぶち壊そうと体当たりをしたりエクスカリバーで斬りかかったりもしたが、びくともしなかった。扉だけじゃなく、壁、天井、床からも壊そうとしたのだが、外壁の一部は壊せても、七人がいると思われるその部屋に入ることは叶わなかった。
そして――
「……あぁ、本当に魂が抜けているわね」
大聖堂の安全を確認したうえで、俺はルシルを呼んだ。そして、彼女は一瞬で異常を見抜いた。
「あぁ、俺様が言った通りだろ?」
一番の危険人物だけはこうしてここにいるのだが、何度か手を合わせてわかったことだが、ベリアルは嘘はつかない。俺たちと戦えないというのなら、こいつも今のところは安全だ。
一応、タラを護衛につけているが。
「なんとかなりそうか?」
「魂がある人はね」
「魂がある人って、全員魂が抜けたからこうなったんだろ?」
「あぁ、体の中に魂があるっていうことじゃなくて、その辺に彷徨ってる魂のことよ」
その辺の魂?
あぁ、そうか。コメットちゃんが死んだ時、ルシルがその魂を俺に見つけた。
俺に見えない魂もルシルには見えるということか。
「ルシル、魂はを俺に見えるようにできるか?」
「ええ、できるわよ」
ルシルはそう言うと、クリスの傍の空間に手を当て、力を込めた。
すると、何かがぼんやりと浮かび上がる。
淡く光る、野球ボールくらいの球。
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生のスピリット【素材】 レア:★×5
生きながらにして抜き出た者の魂。
生霊とも呼ばれる。魂が抜けた者は意識を失う。
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これを戻せばいいのか。
と俺は魂を手掴みして、クリスの口の中に押し込んだ。
「あ、コーマ、それ……」
ルシルが何かを注意しようとしたが……
「ん……一体何が……」
クリスは頭を抱えて上半身を起こす。
「目が覚めたようだな。大丈夫か? クリス」
「クリス? 何を言っているのだ、貴様は――それより何があったか説明しろ……それにしても何やら胸が重いな」
「……お前は誰だ?」
「誰って、何を言っている? 冗談のつもりか? それより、何があったか説明をしろと言っているだろ。シルフィア様は無事なのか?」
「お前、サクヤかっ!?」
「そうに決まっているだろ……ん? この胸は――」
「せいっ!」
ルシルがクリスの首に手刀を当てると、彼女の口から先ほどの魂が飛び出た。
って、そんなに簡単に魂が出るものなのか。
「他人の魂だからね、体と魂の結びつきが弱いのよ。ちなみに、生まれながらに魂の結びつきが弱い人もいて、そんな人同士がもみくちゃになって階段から転げ落ちたりすると、魂が入れ替わっちゃうこともあるから気を付けてね」
「……魂が入れ替わるって本当にあることだったのか……怖いな」
「あぁ、あったわ。クリスの魂よ……コーマ、虫取り網持ってたわよね」
「……ん? いや、そんなもん持ってないけど」
もしかして、釣り用のタモ網のことを言っているのだろうか?
確かにあれならこの世界に召喚されたときに持っていたが、もう壊れてしまっている。
「待ってくれ、今すぐ作る」
俺は木の棒と糸を取り出し、
「アイテムクリエイト!」
と唱えた。
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虫取り網【素材】 レア:★×2
子供が虫を捕まえるための網。
麦わら帽子、虫かごとセットでどうぞ。
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平凡な虫取り網ができあがったのでルシルに渡した。
「ありがとう、コーマ」
礼を言って虫取り網を構えるが……見た目が小学生だからか、本当に虫取り網が良く似合う。
ルシルはつま先立ちし、えい、えい、と何か見えない物を捕まえようとしていた。
おそらく、天井付近にクリスの魂があるのだろうが、天井までは三メートルくらいあり、届かないようだ。
「ルシル、椅子でも持ってこようか?」
「……それは私のプライドが許さないわ」
わなわなと震えると、変化が起きた。
【殺せ、殺せ、殺せ】
……なっ、これは、俺の中の破壊衝動が!?
って、ルシルの奴、封印を解いたのか。
くそっ、第一段階程度だと今の俺ならギリギリ体の変化を抑えることができるが、でも結構大変だというのに。
「ルシル、椅子を持って来てやるからちゃんと封印してく――」
ルシルの姿が高校生くらいに成長している。
そうか、ルシルの奴、短い間なら俺の封印を解除しなくても一定時間なら中学生くらいにまで成長できるようになったから、俺の封印を第一段階まで解除した場合、高校生くらいまでは成長できるのか。
……くそっ、かわいいな。
同い年くらいの姿のルシルは油断したらくらっといきそうになる。
「これなら届くわ! 覚悟しなさい、クリス!」
ルシルはそう叫ぶと、膝を大きく曲げて思いっきり跳ねた。
「捕まえたっ! ってきゃぁぁっ!」
着地のことを考えていなかった、というか、着地地点のやや後方に俺がいたことを失念していたのか、ルシルは俺の上に倒れるように落ち、俺もバランスを崩して倒れてしまった。
「いたたた……コーマ、大丈夫? あれ? コーマ……?」
「ほほは」
「ひゃうっ、コーマ、なんで私のお尻の下にいるのよ!」
ルシルが立ち上がり、床に倒れた俺を睨み付けた。
【殺せ、殺せ、殺せ】
この時の破壊衝動の怨嗟が、今の俺には非リア充の怨嗟の声のように聞こえた。




