噂の白い髪のかわいい子
「メイベル店長、ほんまによかったん? あんな奇跡のようなことは二度とないで」
ゼルギア様が去った翌日。
開店前のフリーマーケットの店内で、リーは私の行動が信じられないよいった口調で尋ねました。
「そうね。顔も悪くなかったし、女性のことを大事にするタイプではなかったけれど、決して浮気はしないタイプね、あの子は」
「あの子って……少なくともうちらよりは年上ちゃうかった?」
「……ふふふ」
ファンシーは不敵に笑いました。リーはもしかしたらファンシーの年齢を知らないのでしょうか? 私も正確な年齢は知りませんが、少なくとも二十歳は超えています。見た目はリーよりもはるかに幼く見えるんですけどね。
「あんな奇跡のようなことは二度とないって言うけど、本当の奇跡は、こうして私達がここに揃っていることなんですよ」
私が笑って言うと、ふたりも笑顔で頷きます。
「……そう言われたらそうやな。メイベルが店長やって、ファンシーとリーがこうして同じ職場で働けるなんて、セバシ様のところにおったころは理想やったけど、実現できるなんて思ってなかったもんな」
「そうですね。給料ももらえて、高級宿顔負けの寮に、自分達で作って好きに食べられる食事。最高ですね」
「ほんまやな。あとはここにコメットがおったら最高なんやけどな」
「「…………………………」」
リーの心からの声を聞いて、私たちに澱んだ空気が流れました。
コメットちゃんのことは時折こうして話題に出ますが、笑って話せることはありません。
「でも、いつまでも三人でお店を回すこともできませんし、新しい従業員を雇うことを考えないといけませんね」
「それなら、現在、セバシ様にお伝えして、ふたりほど教育してもらっているところです」
「あ、セバシ様言うたら、うち、この前、買い出しに言ってるとき、コーマが店から出てくるところを見たで。真っ白い髪の可愛い子連れてたわ。あの子も奴隷みたいやな」
「え?」
コーマ様が奴隷を?
そんな、コーマ様はいま、迷宮にいて暫く帰ってこれないと仰っていたはずです。クリス様からも聞きました。
「見間違いじゃないんですか?」
「いやいや、あれは間違いなくコーマやったって。耳に三つイヤリングつけてたし」
「……そ……そう。ちなみに、その子の見た目は?」
「さっきも言ったように、えらい可愛い顔やったな。うちは見たことのない子やから、最近入った奴隷とちゃうかな? 年齢はメイベルと同じくらいとちゃう?」
「……そ、そうなんですか」
コーマ様、私に嘘をついて……可愛い女の子を買って……しかも私と同じくらいの年齢の。
「……そうだ、私、セバシ様のところにふたりの従業員を身請けしに……」
そう思った時、
「失礼するよ、ヴーリヴァ」
「あ、セバシ様」
「約束していた通り、ふたりを連れて来た」
そこには、コメットちゃんや私くらいの年齢の、金色の髪のポニーテールの女の子のレモネとおだんご髪の女の子、シュシュがいました。
「は、はじめました!」
「「「なにを?」」」
「あ、すみません。はじめまして、レモネと申しまっ、きゃぁぁぁっ!」
レモネと名乗ったその少女は、何もないどころか歩いてもいないのに盛大に転びました。
……ある意味凄い、この子。
「はじめまして、シュシュです」
盛大にレモネがすっ転んでいるのに、気にせずに自己紹介をするマイペースのシュシュ。
「なぁ、メイベル、本当に大丈夫なん?」
「え、ええ。レモネは私がテスト用に作った帳簿の不正を一瞬のうちで見抜いた経理のプロで、シュシュは道具の整理関係のテストで満点を出しています」
私はフリーマーケットが終わった後、セバシ様の店で経営学を奴隷たちに教えることがあります。
ふたりはその中でも超優秀な生徒なんです。
「道具の整理のテストって、うちに前に出したあの暗号みたいな問題を? ほんまに?」
「ええ、私も本を見ながらではないと満点は取れません。8割合格基準にしたんですがね。天才ですよ」
「でも、空気が読めないってよく言われるんで、先輩方、お願いしますね」
シュシュはほんわか笑顔でそう言いました。
こうして、従業員が新たにふたり加わったわけですが……、それどころではありません。
「あ、あの、セバシ様! コーマ様がセバシ様の店を訪れたと伺ったのですが、本当でしょうか?」
「ヴリーヴァ……それを私が話せると思いますか?」
奴隷商館で教師をしていたときに私が一番してはいけない間違えをしたときのような目で見下すセバシ様を見て、私は一言、
「すみません、お客様の情報は簡単に話せませんよね」
と心から謝罪をしました。
~後日談~
「メイベル、ただいま。紹介したい奴がいるんだが」
後日、コーマ様が店に戻ってきました。
「覚悟はできています。白い髪の方ですよね」
「なんだ、聞いていたのか。なら、ちょうどいい。今日からこいつをここで働かせることにしたから頼むわ」
そう言って、コーマ様が連れてきたのは、白い髪の可愛らしい顔の、私とそう年齢の変わらない、奴隷の……
「はじめまして、クルトと申します。妹ともどもお世話になります。よろしくお願いします」
男の子でした。
……え? コーマ様ってもしかして……そっちの趣味がおありなのでしょうか?
大丈夫です、たとえコーマ様が誰が好きでも、どんな趣味を持っていても私の大事なご主人様ですから。
「まぁ、クルトは迷惑をかけることは無いと思うから、とりあえず空いている部屋で適当に仕事をさせてやってくれ。俺が本当に紹介したいのはこっちだ……といってもはしゃぎすぎて寝ちゃったがな」
そう言って、コーマ様が背中に負ぶっているのは……コメットちゃんの妹のアンちゃんでした。
コーマ様が4歳から5歳くらいの女の子を背負っているのです。
「コ……コーマ様、それはさすがに年の差がありすぎるというか……危ないですよ」
「……なんだろうな。メイベルってたまにバカになるよな?」
コーマ様は少し呆れた口調で言いました。
あとでコーマ様から聞いた話では、錬金術師として弟子を育てようとクルトくんをセバシ様から買った。
それで、クルトくんの妹がたまたまアンちゃんだったため、コメットちゃんのこともあり、この店で面倒を見てもらおうと思ったらしいです。とりあえず、
「コーマ様が犯罪者にならないでよかったです」
と告げると、コーマ様にはじめてハリセンというもので叩かれました。少し痛かったですが、コーマ様がコーマ様で、本当によかったと心から思いました。
ようやく3章エピローグ部分。
でも、このメイベル外伝、最終話っぽい話は、4章の短編部分でやっているんですよね。
どうしたものか。話のストックなんてもう一週間以上前に尽きてしまっているのでどうなるか私にもわからない。




