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勘違いの魔王人形

~前回のあらすじ~

おばちゃんに対し、「ちょっと待ったー」

 金持のおばちゃん、グレイシアに俺は笑顔で近付いていった。


「グレイシア様、ちょうどいま、力の超薬が届きました。お待たせして申し訳ございません」


 そう言って、俺は木箱に入った力の超薬を差し出す。

 それに、エリエールは目をパチクリさせている。

 グレイシアは嬉しそうに笑い、


「これが力の超薬ざますか? そうは見えないざます。ガレー、鑑定スキルでこれを見なさい」


 横にいる老執事を思わせるタキシードを着た片眼鏡の男に命令した。


「……お嬢様、これは正真正銘、力の超薬でございます」

「そうざましょう? このようなものが……本物ぉぉぉっ!?」


 グレイシアは叫んだあと、口をあんぐりさせたまま動かない。

 まぁ、本当に滅多に出回らない薬の上、グレイシアの部下の男に命じて偽物をつかませたんだろうからな。信じられないのは無理はない。


「では、あちらで包んで参ります。店長、参りましょう」


 本当は、ここで店長がバックヤードに入るのは妙な話なのだが、グレイシアはそれを気にする余裕もなさそうだ。

 エリエールは俺に誘導されるように、だが、実はエリエールが俺を従業員専用の部屋へと誘導する。


「どういうことですの、コーマ様」

「え? 俺の正体ばれてる?」

「はい、あなたがフリーマーケットのオーナーであることも最初から存じ上げております」


 うわ、そこまでばれていたのか。俺に力の超薬を見せたのも、フリーマーケットとの品物の種類の差を俺にわからせるためだったそうだ。

 逆の結果になってしまったそうだが。


「どうして敵に塩を送るような真似をなさったのです?」

「いや、敵ってわけじゃないだろ? 同じ町で商売する者同士、一緒に頑張っていけばいいじゃないか」

「わたくしは理由を聞いてるのですわ」


 うっ、正直理由を答えるのは恥ずかしいな。

 とはいえ、ごまかしきれる相手でもないし。

 顔が赤くなるのを感じながら、照れ隠して頬をぽりぽりとかき、


「可愛い女の子(の人形)が踏みにじられるのを黙って見ていられていなかっただけだよ」

「なっ……」


 エリエールさんは一歩後ろに退いた。

 ほら、やっぱりひかれた。


「可愛い、ただそれだけの理由で? 本当に仰ってますの?」

「あぁ、本当にそれだけだ。そうじゃなかったら、力の超薬なんて渡さないよ」

「…………少々ここでお待ちいただいてもよろしいかしら」

「えっと、はい。待つのは慣れてるので」


 なんだろ、もしかして、余ってるパーカ人形をくれるとか?

 あぁ、フィギュアオタクと勘違いされたらどうしよ……俺はただのコレクターなのに。



   ※※※



 わたくしは従業員の部屋から出て、グレイシア様に包装した力の超薬を専用の袋に入れて渡しました。

 グレイシア様はまだ驚愕で立ち直れない様子でしたが、苦笑いしてその力の超薬を受け取っていました。

 支払いは執事のガレー様に済ませていただきました。


 グレイシア様が懇意にしている商店がライバル店のため、彼女はうちに汚点を残そうとしたのでしょう。

 だが、それもコーマ様のおかげで不発に収まりました。

 彼には感謝しないといけないのですが……わたくしの顔は火照りが収まる様子がありません。


『可愛い女の子が踏みにじられるのを黙って見ていられなかっただけだよ』


 わたくしのことを可愛い女の子だなんて。

 殿方から、美人だともてはやされたことは多々ありますが、面と向かって、あのように可愛いと言われたのははじめてですわ。しかも、相手は僅かではありますがわたくしより年下だというのに。

 さらに、あれはおそらく彼の本心……。


 顔を見たらわかります。

 あんなに恥ずかしそうに言われたら堪りません。

 あぁ、どうしたらいいのかしら、彼はライバル店のオーナー。

 そして、ライバル国に所属する勇者の従者でもあります。

 あの問題がある限り、わたくしは彼とは一緒になれぬ宿命。



   ※※※



「お、お待たせしました、コーマ様」


 エリエールさんが入ってきた。

 声が裏返り、俺と目を合わしてくれない。

 あぁ、絶対にオタクとして思われている。


「コーマ様、先ほどの力の超薬の代金です、お受け取り下さい。金貨160枚入っております」

「え? 代金は150枚だったんじゃないの?」

「10枚は、この店の信用の対価です。それにしては安いかもしれませんが――」

「いえ、金貨150枚で結構です。その代わり、一つお伺いしたいことがあるのですが」


 まずは誤解を解いておかないといけない。


「先ほど、俺は可愛いのが好き、みたいな言い方をしましたが、(指人形のことを)全部好きなんです」


 女の子の人形だけじゃないんです!

 そう言ったら、


「え……全部!?」


 エリエールさんが驚愕した。だが、俺の言葉はどうやら信じてもらえたようだ。女の子の人形ばかりを集める人間と思われるのは嫌だが、コレクターとしてひかれる分には全然かまわない。それに、コレクターとしての魅力は絶対に彼女もわかってくれているはずだ。

 何しろ、彼女も俺と同じでパーカ人形を愛している。それは確信できているんだから。


「エリエールさんも同じ気持ち、なんですよね」


 それに彼女は何も答えない。

 まぁ、隠しておきたい気持ちもわからなくもないか。

 でも、彼女だからこそ聞きたいことがある。


「それで、エリエールさんに教えてほしいんです」

「……何をでしょうか?」

「秘密……といえばわかりますね」


 指人形のシークレット。

 出現率1000万分の1のレアアイテム。

 実はパーカ人形のコレクション本の著者こそが、このエリエールさんだと俺は見抜いた。

 だって、著者:エリエールって書いてあるんだもん。

 そして、シークレットの部分はシルエットだけで絵が描かれていない。

 でも、彼女は実際にその目で見たのだ。シークレットを。


「……なんのことかわかりかねますわ」


 エリエールさんはごまかすように言う。

 まぁ、そりゃ言えないようあ。

 でも、俺は情報からそのシークレットの正体を見抜いていた。

 魔王を倒したパーカの母。魔王の元部下や、魔王を倒したという折れた聖剣の指人形はあるのに、なぜかそれだけはない。

 それこそがシークレットの正体だ。


「魔王……と言ってもわかりませんか?」


 そう言うと、彼女の顔の色が変わった。



   ※※※

  


「先ほど、俺は可愛いところが好き、みたいな言い方をしましたが、(エリエールさんのことを)全部好きなんです」

「え……全部!?」


 可愛いだけならまだしも、わたくしの全てを好きだなんて。

 そんなことを言われたら……。

 でも、わたくしは彼と恋仲になるわけにはいきません。

 任務が残っているのですから。

 落ち着きなさい。


「エリエールさんも同じ気持ち、なんですよね」


 な、なんですの!?

 わたくしの気持ちもすでに知られている、そう彼は言いました。

 ありえません、わたくしが初めてあったばかりの殿方のことを好きになってしまったなんて……そんな。


「それで、エリエールさんに教えてほしいんです」

「……何をでしょうか?」


 まずは来る質問を予想します。

 好きな食べ物? よく読む本? 

 もしかしたら、この店のことかしら? コーマ様もわたくしと同じ経営者ですから、気になることもあるでしょう。

 いいでしょう、何でも答えて差し上げましょう。

 ですが、来た質問は私の予想外のものでした。


「秘密……といえばわかりますね」


 秘密?

 それはわたくしが勇者であること?

 それとも、もしかして。

 ダメです、顔に出したらダメですわ。

 鎌をかけられているのでしょう、ここで何も答えることはできない。

 わたくしは心を無にし、


「……なんのことかわかりかねますわ」


 そう言ってやりました。

 だが、コーマ様は最後にこう言いました。


「魔王……と言ってもわかりませんか?」


 その言葉に、わたくしは戸惑いを隠せませんでした。

 彼は全て知っている。

 恐ろしい人……なんで、なんでわたくしの任務を知っているの?

 こうなったら全てを晒すしかない。

 そのうえで、彼を巻き込むしかない。


「コーマ様、まずは自己紹介が遅れたことをお許しください。わたくしにはサフランの店長以外にももう一つの顔があります。勇者エリエール、それがわたくしの隠れた呼び名ですわ」


 そういって、勇気の証――勇者のブローチを胸につけます。

 すると、コーマ様はわざとらしい驚きの表情を作り、


「エリエールさんも勇者だったんですね、俺の知り合いにも勇者がいるんですよ」

「ええ、クリスティーナ様ですわよね。存じております」

「そうですか、あいつも有名人だなぁ」


 コーマ様は快活に笑う。


「コーマ様が聞きたいのは魔王……についてですわよね」

「ええ、そうです」

「三日、お待ちください。ギルド経由で伝えられることを全て書面でお伝えします。それからまたお話しましょう」


 もしも全てが終わったら、コーマ様はあの言葉をもう一度わたくしに囁きかけてくださるのかしら。

 それとも、ただわたくしを利用したかっただけなのかしら。


 その答えは現在もわかりません。

 ~閑話~


 やっぱり、シークレット情報は簡単には譲ってくれないか。

 でも、まぁ、それでこそ集めがいがあるってもんだ。


 魔王城に戻って、楽しみにしていたパーカ人形の入った木箱を開けてみる。

 中から現れたのは、

……………………………………………………

パーカ人形〔ミック〕【雑貨】 レア:★


パーカ迷宮で拾うことのできる指人形。全97種類ある。

ジャックが親に黙って飼っていた犬。

……………………………………………………

 ……まさかのミックかぶりだった。ノーマルタイプとはいえ、出現率2%のミックが2個目でかぶるのはきついな。この感覚はこの世界にきてからははじめてだ。両手に花ではなく、両手に犬だ。

 交換トレード用に置いておくか……とも思ったが、


 横を見ると、コメットちゃんがこっちをじっと見ている。

 しかも、尻尾を左右に振って。


「もしかして、コメットちゃん、これ欲しい?」

「え? 貰ってよろしいんでしょうか?」


 表情は驚いただけだが、尻尾が思いっきり左右に触れている。興奮してる。歓喜している。


「……うん、いいよ」


 まぁ、ダブりだし、別にいいよな。

 それにしても、指人形がそんなにうれしいのかね?

 同じ犬だからかなぁ。


 コメットちゃんの尻尾がこれでもかというくらいに揺れているので、よかったなぁ、と思っていると、ふと、隣でタラがもう一つのミック人形をじっと見ていた。

 尻尾をしずかに振って。


「……あぁ、タ、タラはまた今度……な」


 早くパーカ迷宮に行かないとな……そう心から思った。


 結局後日、無言のプレッシャー(勝手な想像)に耐えきれずにタラにもミックの人形をあげてしまうことになる。

 最後にルシルがじっとこちらを見ていたが、もう無視することに決めた。

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