通信イヤリングの向こう
コメットちゃんの葬儀が行われたその日の夜。
お店は臨時休業です。リーもファンシーも今は自分の部屋です。そして、私は店の中にいました。一昨日の夜、コーマ様に言われた通り戸締りをして。灯りも点けずに。
「……コメットちゃん、凄すぎるよ」
コメットちゃんが私にくれた、お店の武器と防具の値段の一覧表を見て、呟くように言いました。
とても見やすい商品の値段一覧。武器の名称だけでなく状態なども事細かに書かれています。
本当に、一緒に買い物をしている間にどうやったらこれだけの情報を記した紙を用意できるのでしょうか。
「……コメットちゃん……」
呟くように言うと、目の前をギルドの職員たちが走っていきました。
窓を開けると、
「急げ、あっちだ」
「でも、俺たちが行ってどうなるんだ? 今はクリスティーナさんとスーさんが戦っているんだろ?」
「バカ! その二大美女勇者とお近付きになるチャンスだろ!」
「クリスティーナには、なんかコーマって従者が一緒じゃなかったか?」
「あぁ、そういえばそんな従者も一緒に戦ってるって連絡があったが、でも噂によると恋人同士じゃないそうだぞ」
「マジか! 実は俺、クリスティーナさんのこと狙ってたんだよ。いいよな、あの胸が」
「そうか? 俺はスーさん派だな。シーさんとふたりで同時に攻められたいよ」
「じゃあ急ぐぞ! 少しでもいいところを見せるぞ」
「おう!」
そう言いながらも、ふたりの男性職員は震える足で、亀のような速度で去っていきました。
……そうですか、クリスティーナ様、そしてコーマ様も戦っておられるのですね。
私は窓を開けて、ギルド職員さんが去った方向に手を合わせました。
仇討ちなど望みません。
ただ、コーマ様が無事に帰ってきてくれることを祈って。
※※※
翌日。
コメットちゃんを殺した犯人の男性がクリスティーナ様によって捕縛されたと連絡がありました。
犯人は傭兵のゴーリキという男で、彼の持っていた財産は全て冒険者ギルドによって差し押さえられ、わずかばかりのお金が賠償金として、遺族の方々に支払われることになりました。
ただ、コメットちゃんは奴隷のため、他の方々よりも安くなるという話をレメリカさんが申し訳なさそうに話しました。
ですが、コーマ様とは連絡が取れません。
犯人との戦いの後から行方がつかめないとクリスティーナ様も仰っていました。
犯人の捕縛により、戒厳令は解かれましたので、店の経営も今日から再開しています。
コーマ様が行方不明であることは、ファンシーもリーも知っていますが、彼が私達の主人でありオーナーであることを知らないふたりは心配はしているが、それだけです。
もちろん、コーマ様がオーナーであることを伝えるつもりはありません。
皆はそれ以上にコメットちゃんのことに参っているようですし。
ちなみに、コーマ様に万が一のことがあれば、おそらく私達の主人はコーマ様のご家族、もしくはクリスティーナ様となるのでしょうが。
それでも、きっとコーマ様は生きています。
ですから、私がするのはただひとつ。
コーマ様が帰ってくるこの場所を守ることだけです。
※※※
それから二日間。
私は一生懸命働きました。
そして――通信イヤリングが震えました。
『あ、メイベル? 悪い、心配かけた』
コーマ様はいつもの口調で、通信イヤリングの向こうから私に声をかけてきました。
「おかえりなさい、コーマ様」
『……ん、ただいま』
「それで、コーマ様が留守をしていた約一週間の報告が溜まっているので、聞いてくださいね」
『あ……俺、結構疲れてるんだけど』
「それでは休憩しながら聞いてください」
私がそう言うと、コーマ様は『……はい、わかりました』と諦めたように言いました。
すみません、コーマ様。これは私の我儘です。
――メイベル店長も心配していたんですから、話を聞いてあげてください、コーマ様。
……え?
「コーマ様、今、コメットちゃんの声が……」
『……えぇ? メイベル、何を言ってるんだ? 大丈夫か?』
「……いえ、きっと私の気のせいです」
気のせい……うん、気のせいですよね。
でも、コメットちゃんの声がとても嬉しそうで、本当に楽しそうで、
「では、コーマ様、まずは戒厳令が発令される前の売り上げですが」
ちょっと弾んだ声で話し始めました。




