残された者たち
町には厳戒態勢が取られることになり、フリーマーケットは暫くの間臨時休業になりました。
そして、私はレメリカさんとともにコメットちゃんの遺体の確認をしました。
「コメットちゃん……なんで……」
私は涙がでてきます。涙が止まりません。
なのに……なのになんで。
なんで、コメットちゃん、とても嬉しそうに笑ってるんですか。
お腹を刺されて苦しかったはずなのに。
痛かったはずなのに。
なんで……なんでそんなに幸せそうな顔をしているのですか。
コメットちゃんが何を考えて死んでいったのか、私にはわかりません。
いえ、恐らく誰にもわからないでしょう。
でも、ひとつわかることはこの笑顔をコメットちゃんに与えてくださったのは、紛れもなくコーマ様なのでしょうね。私でも、他の誰でもなく、コーマ様なのでしょう。
「……このスカーフは……」
コメットちゃんの首には、隷属の首輪を隠すように見知らぬスカーフが巻かれていました。血で汚れています。
疾風のスカーフという名前のアイテムで、少しですが風の加護がある道具です。
きっと、これはコーマ様がプレゼントしたのでしょう。孤児院に行ったときに、彼女の弟や妹に隷属の首輪を見せないために。
「あの……レメリカさん、このスカーフ、預かってもいいですか?」
「構いませんが、どうするのですか?」
「洗濯します」
「そうですか。どうぞ」
レメリカさんはさっとコメットちゃんの首からスカーフを外し、私に渡してくれました。
「隷属の首輪も外しますか?」
「……外しますが……できれば彼女と同じ棺に入れてあげてください」
奴隷が奴隷でなくなるのは死んだ時だと言われています。隷属の首輪が外れるのは、その奴隷が死んだ時とも。
ですが、彼女にとっても私にとっても、この隷属の首輪はコーマ様との絆なんです。
「コメット!」
入ってきたのは、クリスティーナ様でした。
彼女はコメットちゃんを見て、泣き崩れました。
「あの、クリスティーナ様……コーマ様は」
「……ぐすっ、コーマさんにコメットのことを告げたのですが、それから連絡が取れなくなってしまったんです」
「そうですか」
私も何度かコーマ様に連絡をしたのですが、連絡は繋がりませんでした。
「クリスティーナ様、コーマ様のことをお願いします」
「メイベルはどこに?」
「私は一度店に戻ります。リーとファンシーを待たせていますから。それと、コメットちゃんの葬儀は、明日の朝、教会で執り行います」
私はクリスティーナ様に頭を下げて、遺体の安置所を去りました。
その日、私達は涙を流しながら、葬儀の準備とともに、店の掃除をしました。
翌朝、コメットちゃんの葬儀は、コメットちゃんが育った孤児院のある教会でしめやかに執り行われました。戒厳令が出ているので、お客様はほとんどいらっしゃいません。
そして、コーマ様もいらっしゃいませんでした。
私は棺の中に眠るコメットちゃんの首に、綺麗になったスカーフを巻いてあげます。
そして、私は笑顔で眠るコメットちゃんを見て、もう一度泣き崩れた。
「笑えないよ……コメットちゃん、私、コメットちゃんの笑顔に応えられないよ……」
私の笑顔が好きだと言ってくれたコメットちゃんのために、私は最後は笑って見送ろうと思っていたのに、それでもやっぱり笑えなかった。
後から、クリスティーナ様の声が聞こえてきました。
「コメットの仇は私が必ずとってあげるから」
彼女は子供にそう言い聞かせました。
でも、本当にコメットちゃんの仇を取れたとしても、コメットちゃんはもう帰ってこないのに。
結局、私はお父さんが亡くなったあの日から何も成長していませんでした。




