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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra02 笑顔の値段(メイベル外伝)

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コメットちゃん

 コメットちゃんはこの店のオーナーがコーマ様だと知りました。

 それは驚きますよね。

 私達の大恩人であるオーナーがこんな傍にいたんですから。

 コメットちゃんはコーマ様を尊敬の目で見ています。すると、コーマ様は少し困ったように頬をぽりぽりとかき、


「本当に偉いとかないんだって。店のことは全部メイベルに任せてるし」


 と言いました。ですが、せっかくコーマ様について自慢ができる相手ができたのです。


「高価なアイテムの仕入れは全てコーマ様がしていますよ」


 私はここぞとばかり今まで溜まっていたコーマ様の素晴らしさを伝えることにしました。


「ほとんど仕事してないし」


 コーマ様はなおも自分が何もしていないと言おうとしていますが、


「この寮もコーマ様が一人で作られました」


 そうです。この寮もコーマ様がひとりで建てました。


「ね、俺、本当に名前だけのオーナーだから」

「……話を聞く限り、誰よりも働いている気がしますが」


 コメットちゃんがぽつりとつぶやくように言いました。

 武器や薬の仕入れではなく、実はコーマ様が作っておられるのだとしたら、その仕事量は今言った内容の数倍にも膨れ上がります。


「そんなことないって。俺、本業は別にあるし」


 またもコーマ様は否定しますが。

 そういえば、コーマ様の本業ってなんなのでしょうか?

 オーナー以外に、鍛冶師や錬金術師を名乗っていますが、一番はクリスティーナ様の従者でしょうか?

 でも、クリスティーナ様、前に私にこんなことを言っていたんですよね。

「メイベル……コーマさんの力の底が見えないの。単純な力だけなら私よりも強いかも」

 と言っていました。

 戦闘の腕も超一流で、鍛冶や錬金術の技能を持ち、町で一番のお金持ちで、ちょっと悪戯が好きなところはありますが性格は良くて、顔もカッコいいです。コーマ様……本当に底が見えません。

 欠点は何もない超人ですね。


「……そうですか。でも、金貨20枚も寄付していただいてよろしいんですか?」


 コメットちゃんは再度確認するように尋ねます。


「あぁ、足りるだろ?」

「はい、この先数年分の資金として十分すぎる――」

「え? 俺、毎月金貨20枚のつもりで言ったんだけど?」


 前言撤回します。コーマ様は金銭感覚がなさすぎます。


「コーマ様、それは多すぎます。私は年間金貨20枚のつもりで申しました」

「でも、いけるだろ?」

「可能ですが――」


 本当に可能なんですよね。実際、フリーマーケットはオープンして一カ月にも満たないのですが、もう店の貯金は金貨1000枚を余裕で超えています。


「あの孤児院の規模でそれだけの資金提供をした場合、子供一人あたりの収入がラビスシティーの平均収入の5倍以上になります。そんなことになろうものなら、子供を捨てる親が続出してしまいます」


 私が言うと、コーマ様は「あぁ、それはまずいな」と納得してくださいました。


「じゃあ、年間金貨20枚にしておこうか」

「では早速手配を――」

「あの!」


 コメットちゃんが声をあげました。


「金貨って金貨ですよ! なんでそんな軽々と20枚だなんて。私の給料の10年分です」


 コメットちゃんが驚く気持ちもわかります。


「うちってそんなに給料低いの?」


 コーマ様の発言に、私は別の意味で驚きました。


「いえ、ラビスシティー内における労働者の平均月収と同額です。奴隷である私達の給料としては前代未聞の高給ですよ」


 基本、奴隷には給料は発生しません。奴隷に給料を払うなら、普通に従業員を雇います。

 コーマ様と、少し従業員の給料について話しました。

 そして、コーマ様はコメットちゃんが置き去りになっている状況に気付き、


「それで、簡単に金貨を寄付する理由だっけ?」


 強引に話を元にもどしました。


「あぁ……うん。コメットちゃんが困ってるからな。俺は従業員は全員家族みたいなもんだと思ってる。家族が困ってるのに何もしないなんておかしいだろ?」


 そう言われて、コメットちゃんは涙を流し、何度も何度もコーマ様に感謝の言葉を告げました。

 その横顔を見て、私は小さくため息をつきました。


 あぁ、コメットちゃん……コーマ様に惚れちゃったな……と。

 そして、きっとコーマ様は何も気付いていないのでしょうね。

 その後、コーマ様とコメットちゃんは、孤児院に寄付金を届けるために寮を出て行き、私一人残されました。


 私は椅子に座り、ちょっとだけ微笑みます。


『俺は従業員は全員家族みたいなもんだと思ってる』


 コーマ様の台詞を思い出し、……そういう意味じゃない、そういう意味じゃないとはわかっているんですが、ちょっとだけ恥ずかしい気分になりました。足をバタバタさせました。

 一通り暴れたあと、私ははたと気付きました。

 コーマ様とコメットちゃん、ちゃんと帰ってくるでしょうか?

 もしかして、ふたりでお泊りしてそのまま……なんてことは。

 いえ、コーマ様とコメットちゃんに限って……とは思います。思いますが、やはり心配です。

 コメットちゃんはとてもかわいらしいですし……っていけませんね、仕事です、仕事仕事。


 仕事に集中すると時間が流れるのは早いです。

 もう夜になりました。

 ですが、コーマ様もコメットちゃんも帰って来ません。


 ……コメットちゃん……やっぱり……そう思った時でした。

 コーマ様からいただいた通信イヤリングが震えました。


『あぁ、メイベル、連絡忘れてた。悪い、ちょっとバタバタしていてな。コメットちゃんだけど、今日は孤児院に泊まって、明日の朝に帰ると思うから。それと、かなりやばい通り魔が町をうろうろしているから、今日は店はしっかりと戸締りして、皆にも夜に外に出ないように伝えてくれ……俺とクリスは今日は戻れそうにないから』

「わかりました。御心配くださりありがとうございます」


 短い用件でしたが、私はコーマ様と話せたことに喜び、そしてコメットちゃんとも何もなかったことに安堵しました。

 それに、コーマ様の秘密を共有できる子もできたことだし、明日から楽しみましょう。


 そう思い、私は今日の売り上げを確認しまして寝ました。


 翌朝、私は寮の一階の食堂に行きます。

 コーマ様の仰る通り、クリスティーナ様も昨夜はお戻りにならなかったようです。


 一応、いつ帰ってきてもいいようにクリスティーナ様の食事の準備はしていたのですが、これは食べてしまって作り替えないといけません。

 そう思った時、寮の扉がノックされました。

 こんな時間に誰だろうと思いながら、玄関に向かうと、


「メイベルさん、おはようございます」


 レメリカさんの声が聞こえてきました。

 私は扉を開けます。


「レメリカさん、おはようございます。ちょうどお茶の用意をしていたのです、どうぞ」

「いえ……申し訳ありません、時間がありませんので用件だけをお伝えさせていただきます」


 あれ? いつも無表情のレメリカさんですが、いつもより何か目が疲れているようです。

 何かあったのでしょうか?

 そう思ったら、


「コメットさんがお亡くなりになりました。遺体の確認をお願いいたします」

「…………え?」


 私はその時、その言葉の意味を理解できなかった。 

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