秘密の共有
私とコメットちゃんはふたりで町中の武具店を見て回りました。
結局、コーマ様が作った……ごほん、仕入れた武具に匹敵するものはありませんでした。それとなく、白金の装備を加工できる鍛冶師の方がいないか聞いてみたのですが、結果はもちろん、
「は? それを聞きたいのはこっちだよ。いったいどこで仕入れてるんだ? 白金の装備なんて」
という返答がくるばかり。
結局、私達がわかったのは、白金製の装備は通常の手段では仕入れはできないことくらいです。
薬に関してはもっと酷いです。
「メイベル店長、さっきの店」
「ええ、偽物ね」
うちで取り扱っている解毒ポーション。全く同じ瓶の同じ見た目の液体です。レメリカさんに通報しておくことにしますが、あの店の造り的に、恐らく冒険者ギルドの調査が及ぶ前にトンズラされる可能性も高いです。
偽物の薬が出回っていることは知っていましたが、まさか、ただ色がついているだけの水を薬と偽って売っているとは。
しかも、値段は安いどころか、フリーマーケットで売っていた値段よりもわずかに高いです。
「改めてわかったことは、オーナーの仕入れの能力が凄いってことですよね」
コメットちゃんが苦笑して言いました。
そうですね、コーマ様の力を再認識させられました。
「そろそろ戻りましょうか……」
「あ、私、食材を買い出しに行きます」
「あ、それなら私も手伝うわよ」
「大丈夫です、私に任せてください。今日は結局なにもできなかったんですから。あと、メイベル店長、これ」
コメットちゃんは何かメモの束のようなものを渡してくれました。
そこには商品の名前と数字がぎっしり書かれていました。
「店ごとの商品の価格です。今日見た商品は全部書いていますので」
……いつの間に?
私も主要な商品の値段はある程度覚えたけど、ここまで覚えていないです。
「でも、せっかくコメットちゃんがメモしたんだから、コメットちゃんが持っていたら?」
「大丈夫です、私は全部覚えていますから」
全部覚えている……の?
これを全部?
「オクトパス八剣店の鉄の剣の値段は?」
「銀貨1枚と銅貨80枚です。ただし、銀貨1枚銅貨50枚の鉄の盾と一緒に買えば銀貨3枚にサービスしてくださいます」
「……本当に覚えているの?」
「はい。あ、そろそろタイムセールの値段なんで行ってきますね」
コメットちゃんはそう言うと、足早に走り去りました。
コメットちゃん……恐ろしい子。やはり彼女に仕入れの担当をしてもらいましょう。
その後、私は店に戻りました。
結局のところ、今まで通り、仕入れ先の情報は明かせないというしかなさそうですね。
それに、悪いことばかりじゃないと思うことにしました。
商品が注目を浴びるということは、コーマ様の仕入れの腕を誰もが認めるということです。
そして、それを私だけが知っているという幸せ。
それに……と私は誰も見ていないのを確認し、耳のイヤリングを外します。
これはコーマ様が私のために作って下さった通信イヤリングという魔道具で、離れている人と会話できる便利なアイテムです。
そして、コーマ様はこのイヤリングを三つ耳につけています。ひとつはクリスティーナ様に通じるもので、もうひとつは誰のためのものかはわかりません。
ですが、少なくともコーマ様にとって、私は三人目以内には大事な人ということだと思います。
さて、今日も気合を入れて頑張りましょう。
そう思った時でした。通信イヤリングが音を立てて震え出したのです。
これは、コーマ様からの呼び出しです。
私は息を整えて、通信イヤリングを使いました。
「どうしました? コーマ様」
『時間があるときでいいから、食堂に来てほしいんだけど』
「かしこまりました、すぐに伺います」
私はそう言います。決して暇なわけではありませんが、コーマ様の用事が何よりの優先事項ですから。
私は息が切れない程度の速度で走り、寮の食堂に向かいます。
そこには、買い物を終えたコーマ様と、コメットちゃんがいました。
珍しい組み合わせですね。
「お、メイベル! 話があるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
そう尋ねながらも、まさかコメットちゃんを新しく店長にするとかではないかと、私は少し戦々恐々としていました。
「コメットちゃんのいた孤児院、経営が危ないみたいだから、フリマから寄付できないかなって思って」
「コーマさん、本当にいいんです。すみません、店長、私がちょっとコーマさんに話してしまって」
あぁ、なるほど、コメットちゃんが世間話で孤児院について話して、コーマ様がコメットちゃんに同情したんですね。
寄付は私も考えていました。
フリーマーケットが大金を稼ぎ出しているのは町の多くの人が与り知るところです。しかも、プラチナ装備などの仕入れ値がほとんどかかっていないわけですから、町の皆の予想以上に店は儲かっています。
ここは目に見える形で町のためにお金を使い、フリーマーケットの評判を高めるのが必要だと思っていました。
「そうですね、では金貨20枚ほどでどうでしょう?」
「金貨20枚、まぁ、そんなもんでいいか」
コーマ様はもっと出せるんじゃないか? と思っているようです。
店の規模を考えると金貨20枚は安すぎますが、本来は金貨20枚はものすごい大金なんですよ。
「店長、そんなオーナーの許可ももらわずに金貨20枚も……」
それが証拠に、コメットちゃんは金貨20枚という言葉に驚きあわわわと言っています。
「オーナーの許可ならすでにあるぞ?」
ここで、コーマ様から思いもよらぬ発言が出ました。
あぁ、ここでコメットちゃんに打ち明けるわけですか。
「え?」
コメットちゃんは何を言われたのかわかっていないようです。
なので私はコーマ様とアイコンタクトを取ってから、コメットちゃんに教えてあげました。
「コメットちゃん、ここにいるコーマ様が、フリーマーケットのオーナーなんです」
コーマ様が指を二本立ててピースのサインをしました。
そして、その手をそのまま耳に持っていきました。
「えええええぇぇぇぇぇっ!?」
コメットちゃんの叫び声が私の鼓膜を大きく揺さぶりました。私も耳を塞いでおけばよかったと思いました。




