アイスのあたり
コーマ様が持ってくる商品には、時折とても変わったものがあります。
その日も、持ってこられたのは見たこともないものでした。
円形で紙製のカップの中に入った白い塊です。
「あいす……くりーむ? 美容品でしょうか? 前にコーマ様が仕入れてくださったハンドクリームみたいな」
あれは凄い品で、国外からいらっしゃった貴族の方が全て買い占めてしまい、今では品切れ状態です。
「うーん、顔に塗るアイスクリームって商品も本当にあるらしいけど、それは食べ物だよ。冷たいな」
まずは食べてみろ、というのでコーマ様の仰る通り食べてみました。
最初に感じたのは冷たい! そして、甘い! です。
はじめて食べるものです。
「とても美味しいですね。でも、保存に困るので、商品としては扱いにくいですね。アイテムバッグに入れておくにも、アイテムバッグそのものが高級品ですから」
「商品としてじゃなく、従業員と、ついでにクリスで楽しんでくれ。本当は甘い物しか食べないバカのために作ったんだが、アイテムバッグのなかに入れておいたら、勝手に食べ過ぎて腹を壊してしまってな。だから、みんなが貰ってくれたら助かる」
「そういう理由でしたら」
きっと、リーもファンシーもコメットちゃんも喜ぶでしょう。
普段は節約していて、甘いものなど食べることはありませんが、こういう時くらい贅沢してもいいですね。
そう笑顔で了承したのですが、
「じゃあ、これだけ頼むわ」
そう言ってコーマ様が取り出したのは、200を超えるアイスクリームの山でした。
……相変わらず、コーマ様は限度というものを知りません。
ということで、私達はオーナーからの差し入れという名目で、その日のお風呂上りにアイスを食べました。
アイスクリームだけではなく、氷菓子というものもあり、私はそれを食べています。
ちなみに、クリスティーナ様はコーマ様と一緒に迷宮に行っているそうです。
「あぁ、このバニラアイス、とても美味しいですね」
ファンシーが棒のついた細長い円柱型のアイスクリームを舌を使って舐めます。その姿は、同性の私が見ても興奮しそうになります「うちはこのアズキバーってアイスやな。カリアナから小豆をよく仕入れていたから懐かしいわ」
「私はチョコバナナアイスが好きですね」
みんな満足しているようです。
コーマ様に感謝しないといけませんね。
と思いながら、私は棒についた氷菓子を少しずつ食べていきます。
そして、七割を食べ終えたとき、その氷菓子の棒に何かが書いてありました。
【あたり】
と。あたり? 何が?
食あたり?
いえいえ、そんなわけないですよね。
「ん? メイベル、どないしたん?」
リーが覗き込んできたので、私は思わず当たり棒を背中に隠しました。
「い、いえ、なんでもないですよ」
「そう? ならええけど。あ、ファンシーのバニラアイス、練乳入ってるやん! うちの小豆バーにかけてぇや!」
興味が別に移ったリーを見ながら、私は後ろにまわした氷菓子を見ながら、背中を触りました。
背中は氷菓子がとけて服が少し湿っていました。
それでも、やはり気になるのは、この【あたり】です。
いったい、何があたりなのでしょうか?
もしかして、このあたりを引いた私は、
「そうか、メイベルがあたりを引いたのか。じゃあ、メイベル、俺と結婚してくれ」
とかコーマ様に言われたり……はさすがにしませんよね。
いえ、でも、もしかしたら。
常識にとらわれないコーマ様ですから、奴隷の中から結婚相手をくじ引きで選ぶ、みたいなことがあっても。
……その日、私は結局一睡もできませんでした。
そして、翌日。
「へ? あぁ、アイスの当たり棒? 俺の国の風習でな、あたりが出たらもう一本アイスが食べれるっていうのがあるんだよ」
「もう一本アイスが? ……それだけなんですか?」
「それだけだが……あぁ、悪い、そもそもアイスは全部メイベルのもんだし、もう一本なんて言われても困るよな」
コーマ様が笑って私に謝ります。いえ、謝ってもらうことじゃないんです。
私が勝手に考えすぎただけで。
「でも、どうせだしメイベルの願い事を、俺が可能なことならなんでも叶えてやるっていうのはどうだ?」
「え?」
「あぁ、なんでもいいぞ。言ってみろ。どんな無茶ぶりでもなんとかなるぞ。あぁ、死者を生き返らせるとかはさすがに無理だが」
何でも!?
私は顔が赤くなります。
それってつまり、
「けっ……」
私が望めばコーマ様と結婚も……?
「け?」
コーマ様が尋ね返します。
私は大きく口を開いて言いました。
「血行が悪いようです。肩が少しこっているみたいで……」
まぁ、アイスの当たり棒で結婚の申し込みなどできるわけありませんよね。
私は笑って言った。
「肩がこってるのか……ちょっと触ってみてもいいか?」
「は、はい」
コーマ様が私の肩を揉みます。
あ、ちょっと気持ちいいです。
「あぁ、本当に少し硬いな。いい湿布があるから貼ってみるか?」
「あ、あの、もう少し肩を揉んでもらっていいですか?」
「……俺、肩もみに関しては素人だけどいいのか?」
「はい、お願いします」
少し緊張して余計に肩が凝りそうでしたが、それでもこの時間は私にとってはとても幸せでした。
アイスのあたり棒に感謝して、
「コーマ様、それでは交代しますね」
「え? 俺は別に肩は凝ってないぞ?」
「ふふ、それでも気持ちいいはずですよ。ファンシーにいろいろと教わったので」
交代してコーマ様にもマッサージを致しました。
山もなければオチもない。そんな日常が続けばいいと、この時私は思っていました。
近い将来、そんな日常に終わりが訪れるのを、当然、この時の私は知りませんでした。




