コーマ様の恋人
クリスティーナ様をお部屋にお送りした後、私たちは、一度お風呂に入るべく、大浴場に向かいました。
そして、そこは当然お風呂です。私は奴隷で、クリスティーナ様はコーマ様の主人であり恋人。
コーマ様からは自分がこの店のオーナーだってことは黙っておくように言われていますが、それでもクリスティーナ様は大事なお客様であることには変わりません。
丁重にお世話をするためにもお風呂に入る必要があります。
クリスティーナ様が脱衣場に剣を立てかけて鎧を脱ぎました。
鎧を脱ぐと、その胸の大きさがさらに際立ちます。
……バストのサイズ、100センチは超えているんじゃないでしょうか?
私も服を脱いでいきます。二回目のお風呂です。
すると、クリスティーナ様は小さくため息をついた。
「どうかなさいましたか?」
ため息をつきたいのはこちらのほうなんですけど。
どうも、クリスティーナ様はこの時、お風呂がとても狭いものだと思って、脱衣所の籠の数が10個あり、10人でお風呂に入るのは少し狭いなぁと思っていたそうです。
ですが、お風呂に入って驚いていました。
まるで子供のように無邪気にお風呂にのぼせるまで入りました。
そして、クリスティーナ様は部屋に鎧と剣を置くために戻りました。
夕食の準備をしていることを伝えたら、彼女はすぐに来ると仰っていました。
きっと、あのような無邪気な心が、コーマ様の心を和ませるのでしょうね。
そう思いながら一階に行くと、香ばしい匂いが私の鼻腔を擽ります。
食堂に行くと、リー達がフォークでパスタを食べていました。ただ、色がかなり悪いです。
でもなんでしょうか、このお腹に直接響いてくる香りは。
「おぉ、メイベル! お前も食べるか? 俺特製ソース焼きそば」
「い、いただいてもよろしいんですか?」
「お前のために作ったんだ、食べてもらわないと困るよ」
……コーマ様、お願いです。
そんなに……そんなに優しくしないでください。
私の目から涙がこぼれました。
え……なんで?
私はこのお店で働けるだけでも幸せだと思っていたのに……なんで?
「……え? どうした、メイベル、なんで泣いているんだ? もしかしてクリスの奴に何かされたのか?」
「いえ、そうではありません、ちょっと目にゴミが入っただけです」
「……そうか、よかった。ほら、これ、メイベルの分だ」
コーマ様は笑顔で私にソース焼きそばという名前の料理を渡してくださいました。
鑑定でもソース焼きそばと出ます。
私はフォークで麺をからめとりました。
とても美味しいです。今までに食べたことのない料理です。
「どうだ? 美味しいか?」
「はい、とても美味しいです。ありがとうございます、コーマ様」
私が笑顔で言うと、コーマ様はとても嬉しそうに笑い、
「前に作ってくれたサンドイッチのお礼ができたな」
と言ってくださいました。
サンドイッチは、私が商品として用意したものです。コーマ様にもおひとつお渡ししたのですが、私もそのことはすっかり忘れていました。
コーマ様……サンドイッチのお礼にこの焼きそばを作って下さったのでしょうか?
厨房に戻っていく彼の背中を見て、私は微笑んだ。
コーマ様はもしかしたら気付いていないんでしょうね。
私は、サンドイッチの数では到底表せないくらいコーマ様に感謝していることを。コーマ様のためにならこの命を捧げても全然惜しくないことを。
そうです。たとえコーマ様に恋人がいらっしゃってもその気持ちは変わることはありません。
むしろ、コーマ様の恋人と、将来できるお子様にまでこの思いを抱き続けます。
これは神様に誓います。
「ところで、メイベル店長。伺いました? コーマさんとクリスティーナ様の関係性」
そう言ったのはファンシーでした。
彼女はこの手の話が好きなのでしょうね。とても楽しそうです。
私は小さく首を横に振りました。
たとえふたりの関係性が、既に夫婦だとしても私の気持ちは変わりませんから。
「実は、コーマさん、クリスティーナ様に多額のお金を貸しているそうなんですよ。ここに住ませるのも、借金を早期返済させるのがひとつの目的だっておっしゃっていました」
「え? 恋人同士じゃないんですか?」
思わず私が尋ねると、リーが後ろから来て言った。
「ないない、コーマの言い方やと、あれは強いて言えばコーマの玩具やな。からかって遊んでるみたいやしな。下手したら、女とも見てないんとちゃう?」
「そ……そうなの?」
「ええ、そうね。じゃあ、私はそろそろコメットちゃんを見習って店の商品の配置をしっかりと覚えてきますから、店長はクリスティーナ様とコーマさんの相手をお願いします」
「おう、コーマに押し倒されそうになったらしっかり叫ぶんやで」
リーが揶揄うように言って、先に出て行ったファンシーを追いかけます。
そして、ひとり残された私は焼きそばをもう一口食べ、
「うん、とても美味しいです」
口が綻ぶのを感じながら、その味をしっかりと噛みしめました。
神様、さっきの私の誓いは聞かなかったことにしてください。
そして、願わくばこの幸せが一秒でも続くようにしてください。
クリスが恋人のわけがない。




