警備のひとは
四人でお風呂について話し合いました。
特に一番の話題は、コーマ様が持ってきたリンスというものの存在です。
髪がここまでさらさらになるのには驚きました。
他にも、温かい風が出る魔道具や、吸水性の優れたタオルなど、驚くことだらけですね。
ちなみに、リンスやシャンプー、石鹸は棚の中に百年分くらいあるので無くなる心配はありません。
その後、私たちは自分の部屋を目指して階段を上がりました。
リーが「メイベル、うちここを寝室にしたらあかん? ここでこのまま寝たいわ」と言っていましたが、私は軽く窘めます。
「それを言ったら後悔しますよ。寝室も凄いんですから」
私の言葉に、リーは少し嫌な顔になりました。もう驚き疲れたといった感じです。
もしかしたら、昨日、コーマ様に案内されたときの私も同じ顔をしていたのかもしれません。
「ここが、うちらの部屋? 四人部屋やのうて?」
いつものように、最初にリーが驚いて私に質問をします。リーのこういうぐいぐいくるところが、一部の冒険者に慕われるゆえんなんですよね。
それに、リーが驚くのも無理はありません。一部屋一部屋が、今朝まで四人で寝ていた部屋よりも広いのですから。
しかも、全ての部屋、クローゼットと小さな冷蔵庫、そしてトイレまでついています。
「トイレかぁ……部屋の中にあるのはいいけど、手入れとか大変そうやな」
「でも、そういうのは奴隷の仕事として当然ですから」
「私達も練習しましたからね。それに、私達の分だけなら週に一度だけでも平気だと思います」
トイレの便座の下には汚物を入れる桶があり、それを廃棄所に持って行く必要がある。それは常識です。
ですが――
「必要はありません。ここで流した汚物は、自動的に洗浄されて地下深くに落ちていくそうなので、便座だけの掃除でいいそうですよ」
「地下深くっていってもいつかは溢れるやろ?」
「溢れないように設計しているとオーナーは仰っていました」
私の説明に、三人は「うわぁぁ」とまるでおとぎの国に来た人みたいな顔になっています。でも、おとぎの国でもこんな至れり尽くせりな話はないでしょうけどね。
それから、私たちは自分の荷物をそれぞれの自室に持って行き、全員で食堂に集まりました。
食堂の冷蔵庫の中の食材は自由に使っていいと言われていたのですが、意外にも食材は少ないです。
その代わり、調味料が多いですね。見たこともないソースもあります。
「そういえば、メイベル。これはうちとファンシーの予想なんやけどな」
さて、何を作ろうかと思ったとき、そう切り出したのはリーでしたが、ファンシーが続けます。
「オーナーが警備の女性を連れてくるって、メイベルは言ったわよね?」
「はい、確かに仰っていました」
「実はこの寮はその警備の女性のための寮なんじゃないかしら?」
その言葉に――私は頭が真っ白になりました。
え? それってつまり……コーマ様の恋人ってことなんですか?
……そう、ですよね。コーマ様ですから、恋人くらいいても不思議ではありませんよね。
なんでしょう、この胸の騒めきは。私はコーマ様の奴隷であり、それ以上でもそれ以下でもないのに。
そう思った時、
「ふぅ、腹減った。お、みんないるんだな」
入ってきたのはコーマ様でした。
「おう、鍛冶師の兄ちゃん、悪いんやけど、食べ物は何もないで」
リーは笑いながら言います。彼女もファンシーもコメットちゃんも、コーマ様がオーナーだとは知りません。
コーマ様は自分のことを武器を何本か卸しているしがない鍛冶師で、私とは前からの知り合いだったとだけ話しています。
「何もないのか……しゃあない、自分で作るか……厨房借りるぞ……と、メイベル。オーナーからの伝言。これからここに警備が来るから案内してやってくれないか?」
コーマ様は笑いながら言います。そのコーマ様の顏は、まるで子供の様に愉快です。珍しいアイテムを見たときの顏と同じで、私に対してはあまり見せない笑顔です。
「かしこまりました。その警備の方のお名前を窺ってもよろしいですか?」
「あぁ、そいつの名前は――」
※※※
私の頭がぼぉっとしています。
まさか、コーマ様の恋人があの方だったとは。
寮の玄関につけられた鈴が鳴った。
扉が開いたその先にいたのは、コーマ様より僅かに年上と思われる美麗な女性。
現在、ラビスシティーでは知らない人はいないと言われるほどの有名人です。
今回の勇者試験で見事に勇者になられた、白光の異名を持つ女剣士。
「ようこそおいでくださいました、クリスティーナ様」
私は頭を下げながら、確かにこの目でクリスティーナ様の鎧の奥のそれをみてしまいました。
(コーマ様は、やはり胸が大きい方のほうが好きなのでしょうか……)
頭を下げても邪魔になるどころか存在感すら感じさせない平らな自分の胸と比べ、私は表面上では笑顔で振る舞いますが、内心では大きくため息をつきました。




