四人でお風呂
私達はお風呂に向かうことにしました。
入口はひとつのみです。
「当たり前やけど、男女分かれてないんやね。オーナーと一緒に入るときはいろいろとサービスせんといかんなぁ」
「あら? リーは入浴中のサービスの仕方を御存知なのかしら?」
「……男のひととお風呂に入るのですか……緊張しますね」
三人はまだ見ぬオーナー――コーマ様と一緒にお風呂に入ることを想像しているようです。
ですが――
「オーナーはここには基本来ませんよ。オーナーが言うには、二階より上は女性専用にするそうです。なので私達四人と、あとはもうひとり、警備として連れてくる女性の方の五人で使うことになりますよ」
それに、三人全員驚きました。
「え? ここってオーナーが住むからこんなに豪華やないん?」
「私も同じことを思っていたわ……てっきりこれから毎晩オーナーの部屋に呼ばれるんやとばかり」
「あの、五人で住むには広すぎませんか?」
「……そうですね、ちなみに、全員個室もありますよ」
私の発言に、三人は開いた口が塞がらない状態になった。
奴隷は馬小屋で寝させられることもある。だが、ラビスシティー以外の奴隷は屋根のある場所で寝るだけでも幸せだと思わなければいけないと言われていました。
だから、倉庫の一室で四人で雑魚寝状態でも誰も不平不満はなかったのです。
むしろ、給料が発生し、三食自由に食べることができ、働いていない時間は外出も何もかもが自由という環境は奴隷としては至れり尽くせり、普通に生きるのと全く変わらないんですから。
それが……
「なぁ、メイベル。これってあれちゃう? 幻ちゃうん?」
「これが脱衣所なんですか? 私たちが四人で寝ていた部屋の三倍はありますよ」
「見てください、鏡ですよ……試着室にもありましたが、こんな大きい鏡がこんなに……それにとてもきれいに映りますね……あの、店長、この鏡を売ればどのくらいになると思います?」
コメットちゃんもだんだんと従業員の顔になってきています。
「コメットちゃんならいくらで売る?」
「そうですね……同じ大きさの鏡で銀貨8枚くらいですが、この反射率は普通に売っている鏡ではまずありえませんから。富豪の方にならその20倍……1枚金貨1枚と銀貨60枚くらいでしょうか?」
「そうね、私も同じ見立てね。でもそれはこの鏡が量産できる場合。量産しない限定品なら金貨3枚。装飾を施せばその十倍はしてもおかしくないわ」
それを聞いて、コメットちゃんは小刻みに後ろに下がりました。
間違えて割ってしまったらどうしようという考えなのでしょうね。
「大丈夫ですよ、コメットちゃん。わざとじゃないのなら、鏡を割られたからって怒るような方ではありませんよ、オーナーは」
「でも、金貨3枚ですよ?」
「コメットちゃん、あの人のことは私達の常識で語ったらいけないんですよ」
私は遠い目で言いました。
売り上げを報告してコーマ様を喜ばせようとしたんですが、金貨数百枚の売り上げよりもお客様がお金の代わりにと置いていった黒蜥蜴の白焼きに興味を示して、「ナイスだ、メイベル! これで面白いものが作れそうだ」と喜んで走っていくようなヒトですからね。
「そんなにお金持ちなんですか?」
「……えっと」
お金持ち……なんでしょうか?
店のお金はほとんど使っていないので、お金には困っていないのは確かなんですけど、お金持ちという雰囲気はないんですね。
そこもあの人の謎なところです。
「メイベル、はよ風呂に入ろうや……あ、でも四人で入ったら狭いかな」
「ふふふ、それがいいじゃない。みんなでスキンシップしましょ」
「ほんまファンシーは節操ないな」
ふたりはだいぶいつものふたりに戻ったようですね。今のところは。
「じゃあ、コメットちゃん、私達も入りましょうか」
「えっと、はい。そうですね、交代で洗って順番に入りましょう」
みんなはどんなお風呂を想像しているんでしょうかね?
私は皆が驚く姿を想像し、服を脱いで脱衣籠に入れていき……驚きました。
コメットちゃんの胸が少し膨らんでいたのです。まっ平らな私と違って。
「あ……あの、メイベル店長、あまり見ないでください、私は小さいので」
……コメットちゃんが小さいっていうのなら、私は無です……なにもない状態です。
リーとファンシーは完全に柔らかそうな実になっています。たわわに実っています。
なんでしょうか、この敗北感。
そういえばコーマ様、私が体で奉仕をすると言った時、嫌な顔をしていましたし。
やっぱり女性は胸なのでしょうか?
仕方ないじゃないですか。エルフはもともとスレンダーな体系の女性が多いんですから。
エルフの国の数少ない友達――ノーチェはエルフの中では胸は大きいですけど、彼氏ができたって話は聞きませんし。
そうですね、やっぱり胸の大きさと異性からの好感度は比例しないんです。
はぁ……と私は浴場へ向かいました。
二重構造になっているガラス戸を開けて、私が先頭になって浴場に向かい、
背後から失われる声を感じました。
「メイベル……これ……本当に私達だけで使ってもいいのかしら?」
ファンシーが言うのもわかります。
30人の交代制で使う公共浴場よりも広いんですから、驚くのは無理ありません。
しかもお湯は出っ放しのかけ流し。コーマ様が言うには、一度魔石を入れると何ヶ月も止まらないそうですから。
さらに、奥には蒸し風呂まであります。あっちは、使う3分前にスイッチを入れないといけないそうですけど。
浴槽も三つに分かれていて、ひとつは薬草を使った薬湯風呂、ひとつは水風呂になっています。蒸し風呂から上がったあとにあの水をかけるんだそうです。
「それではみんなで体を洗ってから入りましょ――ひゃうっ!」
私が油断しているところを、リーが後ろから抱き着いて、胸を思いっきり掴みました。
……誰か、私の胸を見て「お前の胸は掴むほどないだろ」とか思いませんでしたか?
それはともかくとして、
「メイベル、お礼や。今日はうちが隅から隅まで綺麗に洗ったるわ」
と、リーはタオルに石鹸を泡立てて言います。
自分で洗えるんですけど、お言葉に甘えることにしました。
「なら、私はリーを洗うわね」
「そ……それでは、私はファンシー先輩を洗わせてもらいます」
「じゃあ、私はコメットちゃんを洗うわね」
このあと私達四人は、お互い体の洗いっこをして、蒸し風呂で汗をたっぷり流し、水風呂の水をかけあってから薬湯や通常のお風呂を満喫しました。
お風呂からあがったら、私達はリラクゼーションルームにいました。
タタミの上にお尻を置き、段差から足を出して椅子代わりに使い、四人で並んでいました。
「ぷはぁ……生き返るわ。まさか、酒が飲めるとは思わんかったわ」
「営業終了後ですからね。オーナーからの特別な差し入れですよ」
ファンシーとリーは、コーマ様が特別に用意してくれた「ビール」というお酒と、枝豆を食べています。
私とコメットちゃんはお酒は飲めないので、コメットちゃんはフルーツ牛乳を、私はコーヒー牛乳を飲んでいます。
飲みやすい形のガラス瓶から直接飲むのは少し下品な気もしますが、コーマ様が言うにはこれは腰に手を当てて飲むのが正しい飲み方だそうなので、言われた通りにします。
「不思議な味ですね、なんの果物なんでしょうか。とても美味しいですけど」
「わからないです。私もコーヒーって飲むのはじめてなんだけど、苦いって聞いてたのにとても甘いですね」
相変わらず妙なものです。不満はありませんけど。




