従業員寮の案内
コーマ様が私達の寮を作って下さったのですが、とんでもない寮でした。
「あとはメイベルに任せた、番犬を連れてくるから」と言ってコーマ様は従業員全員にこの寮を案内するように言ったのですが。
ですが、正直みんな萎縮しています。あのファンシーですら萎縮しています。
コメットちゃんなんてビクビク震えています。
「魔道具だらけですよね……あの、この魔力コンロ、店内で金貨3枚で売っていましたよ。それがなんで4台もあるのでしょうか?」
コメットちゃんの言いたいことはもっともです。キッチンにある魔道具を売るだけでも、フリーマーケットの店舗を余裕で買うことができるくらいです。
他にも照明も油を使ったランプではなく、魔道具ですし、自動ででる水なんて聞いたことがありません。
「こんな魔道具だらけの店、ラビスシティーやなかったら維持するだけで破産もんやな」
リーが呆れたように言いました。魔道具を動かすのには魔石が必要ですからね。ラビスシティーでは比較的安価に手に入る魔石ですが、ラビスシティーの外にいくと数倍から数十倍の値段に跳ねあがります。ラビスシティーの冒険者ギルドが輸出制限しているためです。
「あ、あの、この部屋は本当にダイニングなのでしょうか?」
コメットちゃんが振り返って言いました。
なぜなら、ダイニングにしては、テーブルが十脚あり、椅子なんて四十脚もあります。とても広いです。
「オーナーは、使い方は任せてくださったのですが、食堂として使ったらいいんじゃないかと仰っていました。冷蔵庫――食品を保存する魔道具も大型のものがありますから、大量に置けますし、そもそも、料理を作り置きしてアイテムバッグに入れておけば、できたての料理をいつでも出せますからね」
アイテムバッグだけでも、金貨100枚で売れるんですけどね。
何故か、従業員用に10個ほど用意してくれました。コーマ様は一体何を考えているのかわかりません。
それにしては、一般用に売ってもいい品数を制限されてしまいました。あまり多く売ってしまうと世界のバランスを崩すんじゃないかな? みたいなことを言っていましたが、実はあまり深くは考えていないようです。
私たちは二階に行きました。
二階はリラクゼーションルームだそうです。
「変わった机がありますね」
「オーナーが仰るには、これはテーブルテニスという名前のスポーツの道具だそうで、二つの木製のラケットを持ってボールを打ち合う球技をするそうです」
「へぇ、後でやってみよか、ファンシー」
「ふふふ、そうですね、面白そうです」
ふたりはさっそくテーブルテニスの約束をしていました。
「コメットちゃんもあとで私としましょうか、テーブルテニス」
「はい、お願いします」
他にもソファーや風の出る魔道具などがあります。
これがある理由は、前にお風呂があるからです。
ちなみに、リラクゼーションルームには、ソファーの他に段差の上にあるタタミスペースがあります。
「畳か……懐かしいな」
「リー、この草の床をしってるの?」
「カリアナ地方では家の中では大抵この畳の床なんよ。靴を脱いで上がってそのうえで過ごすんやで? うちの村でもカリアナで畳の虜になった村長さんがわざわざカリアナから仕入れて来て、自分の家に畳のスペースを作ったくらいなんよ」
リーはそう言うと、靴を脱いで畳の上にあがり、ザブトンという名前のクッションを敷き、そのうえにあぐらをかくように座りました。
私も畳の上にあがってみます。
あ……結構柔らかい。上流階級の家ではカーペットを床に敷く家もありますが、これだと敷物がなくても十分に足に優しいです。木や石の床とは根本的に異なります。
「……タタミって商品になりませんかね」
思わず撫でてしまうタタミの上で、私は考えました。
ですが――
「難しいんとちゃうかな。このあたりやと畳の材料になるい草の栽培もしてないし、畳職人もおらんからな。普通に商売の軌道に乗るようになるまでに十年、さらに文化を広めるの大変やしな」
「そうですね……」
たしかに大変です。
でも、何か付随できる商売を考えれば、畳を広めるのも面白いです。
うーん、ここで寝たくなりますね。そうだ、脚の短いテーブルを作って畳の上に置くのもいいですね。畳が広まれば、畳用のテーブルは売れそうです。
「さて、次はお風呂に行きましょうか」
「お風呂!? お風呂もあるんですか?」
コメットちゃんが驚きますが、リーとファンシーは冷めたものです。
「まぁ、自動で水の出る魔道具もあるくらいやし、風呂くらいはあると思ってたけどな」
「そうですね……これ以上は何が来てもたぶん驚かないでしょうね」
おそらく、ふたりは驚きすぎて疲れたのでしょうね。
でも……たぶんお風呂が一番驚く場所だと思いますよ。
それより、どうしましょ……タタミって一度座ると立ち上がるのが嫌になりますね。
そこは問題点かもしれません。
第22部分 建築業務の万能粘土
と、
第23部分 晩御飯は低反発枕の後で
の間の話ですね。




