お店の名前
町では勇者試験も終わり、お祭りムードはだいぶ収束しつつあります。
「店の名前をそろそろ決めないといけませんね」
勇者試験の最中は忙しすぎて、考えることができなかった店の名前です。
コーマ様に相談したら、「任せた」と私に一任してくださいました。
そのため、今日は店の名前を決めるため、閉店後会議を行っています。
もちろん、商品の整理をしながらです。落ち着きがないと思うかもしれませんが、こうしないと寝る時間がなくなりますからね。
ちなみに、私達に店名を決めるように言ったコーマ様はというと、店を裏の土地ごとハンク様から買い取り、裏に私達のための家を作って下さるといって張り切っています。
あの方の職業は一体何なのでしょうか?
リーやファンシー、コメットちゃんと会った時は自分の事を鍛冶師と名乗っていましたし、私には錬金術師と名乗っていました。
もしかしたら、全部本当なのかもしれないと最近思い始めています。
武器を知り合いに作ってもらったというのが嘘で、本当はプラチナの装備もコーマ様が作ったのではとも思っています。
もっとも、コーマ様が素性を隠そうとしているのに、私が根掘り葉掘り聞くわけにはいきません。実際、コーマ様はリー達には鍛冶師だとは名乗りましたが、自分がこの店のオーナーだということは隠していました。
「そんなん、前の名前でいいんとちゃう? メイベルのお父ちゃんがしてた店の名前で」
そう言って手を上げたのは、リーです。
たしかに、そのお店の名前は私にとっても特別なもので、その名前を使いたいとは思っていますが、私は首を横に振りました。
「ここはオーナーのお店ですからね。いえ、たとえ私の店でもお父さんと同じ名前にはしようとは思いません。扱っている商品も全然違いますし」
「そうよね。こんな多種多様な品物売ってる店なんて他にはないわ」
ファンシーが、コーマ様が持ってきた武器のコーナーを見て呟きます。
オーナーコレクションと呼ばれている多種多様の武器が置かれていて、それ目当てで訪れるお客様も多くいらっしゃいます。
「棍棒とプラチナメイスを同じフロアに置いている店なんてまずないわね」
棍棒は銀貨1枚と銅貨25枚、プラチナメイスは金貨50枚、値段にして4000倍ですからね。
普通、武器屋であろうと薬屋であろうと、レストランでも食料品店でも、店のターゲット層というものがあります。
市民層を顧客のターゲットにしている場合、あまり高いものは置かず、安い物で商品を揃えます。高い物があっても売れませんから。
富裕層を顧客ターゲットにしている場合は高価な商品を置き、安い物は極力置きません。中にはドレスコードがある店まであります。
ですが、この店にはそのターゲット層がありません。これはコーマ様の意向を汲んでのことです。
コーマ様に相談したところ、
『え? ターゲット層? それはないほうがいいなぁ。だって、富裕層をターゲットにしたら俺が入りにくいじゃないか』
と笑いながら仰いました。
コーマ様は、この店のオーナーなのですから、町でも有数の富豪ですが自覚はないようです。
もっとも、コーマ様は店の売り上げを頑なに受け取ろうとしません。強いて言えば、このお店を買い戻すのに金貨50枚、それと店の裏の土地を買うのに金貨10枚を使った程度です。金貨60枚と言えば大金ですが、店の預貯金を考えると微々たるものなんですよね。
お金には困ってないから、とりあえず預かっておいてくれ、とのことです。
それどころか、私がリー達を雇ったことを話すと、給金を払うようにと命令しました。
奴隷に給料を払う雇い主など聞いたことがありません。
ちなみに、それを聞いて一番喜んでいたのは意外にもコメットちゃんでした。ただ、その理由は彼女が住んでいた孤児院の経営が芳しくないので仕送りができるからだそうですが。
「あ……メイベル店長、解毒ポーションの在庫がありませんが」
「え? あぁ……オーナーが作ったものだから仕入れはできないんですよね。暫くは売り切れにしておいてください」
「……はい」
コメットちゃんが露骨に残念そうな顔をしました。
まぁ、解毒ポーションは、勇者試験の参加者たちの命を救った奇跡の解毒薬ということで注目を浴び、この店でもかなりの売り上げになりましたからね。おかげで、偽物の解毒ポーションまで出回ってしまい、その苦情に追われたこともありました。
「メイベル店長、オーナーに頼んで多めに仕入れてもらうことはできないんですか?」
「作る量にも限度がありますからね。薬を作っているのはかなり自由な方なので」
私は苦笑して言いましたが、今では、あれらの薬は十中八九コーマ様が作っているんだろうと思っています。
本当にコーマ様は自由な方ですからね。
商品の仕入れの波が読めないというのは商売の上では致命傷でしかないのですが、コーマ様相手だと私は少し楽しいと思っています。
「……へぇ、フリーダムな錬金術師なのですね。ぜひお会いしたいわ」
ファンシーがおっとりとした目で言う。ファンシーには絶対にコーマ様の本当の姿を紹介したくありませんね。
フリーダム……ですか。
そうですね、コーマ様にはそれが相応しいですね。
「お店の名前ですけど……」
私はお店の名前の提案をしたら、皆がそれに賛成してくれた。
こうして、このお店に名前がついたのです。
そのお店の名前は――
「フリーマーケットって名前はどうでしょうか?」
後日、コーマ様には、いろいろなものが売っている自由なお店だから、フリーマーケットと名付けたと説明しました。
ですが、本当はいつも自由に生きているコーマ様がいつでも帰ってこられるお店、そういう意味で名付けたのです。
もちろん、それを知っているのは世界でも私だけですけどね。
店の名前決定秘話。アイテムコレクターの書下ろしSSにしようと思って考えてボツにした話です。
※7月5日追記
こちらでは店の名前決定→店を買いに行く
という流れでしたが、店を買ってから店の名前決定になっているのは、書籍版に準拠した結果です。
ボツSSなのでそのあたりご了承ください。




