ファンシーの笑顔
「いやぁ、誰に買われるかは気になってたんやけど、まさかメイベルに買われるとは思わんかったわ」
「そうですね。それでは、メイベル様、とお呼びした方がいいかしら?」
リーがあっけらかんと笑い、ファンシーがうふふと微笑みました。
「いいですよ、そんな呼び方しなくて。私も奴隷なんですし」
書類上は私が三人の主人ということになるのですが、でも私もコーマ様のお金で三人を買ったわけですから、本当の主人はコーマ様ということになります。
「それではメイベル店長と呼びますね」
私達より三歩ほど遅れて歩くコメットちゃんが言った。一瞬、尻尾を振っている犬のような幻覚が見えたけれど、よほどさっきのダブタという商人に買われなかったことに安心したんでしょう。
そして、話題は必然的に、私の主人についての話になる。
「ところで、メイベルの主人ってどんな人なん? やっぱり金持ちの商人? 店をぽんと買ってメイベルに任せるなんて、ただもんじゃないやろ?」
「リー、私達のご主人様ですよ。つまり、お店のオーナーですね」
そこまで言って、私はコーマ様の行動を思い出す。コーマ様はあまり目立つのを好んでいない。
私以外のひとには自分が店のオーナーであることを知られたくない節が時折見え隠れしています。
となれば、ここで軽率にコーマ様のひととなりを説明するのは、コーマ様のためにはならないのではないでしょうか?
どちらかわからないのなら、コーマ様のことは今は伏せておいたほうがいいでしょう。
そう思い、私は三人に言いました。
「とても素敵なオーナーですよ」
と。それは決して間違いではありません。ただ、私にもわからない謎が多すぎることを除けばですが。
「それより、ふたりともすみません、私が勝手にふたりを雇うと決めてしまって」
本当は三人に事前に説明をしてからにするつもりだったのですが。ついあの場の空気に流されてしまいました。
商人としては落第点です。私の謝罪に、リーとファンシーは顔を見合わせ、吹きだすように笑いだした。
「いややわ、メイベル。うちらはメイベルに買われて安心してるんやで?」
「そうですね。私はどちらでもよかったのですが。でも、女性同士というのも良いわね」
何が女性同士なのかわからないから、私は苦笑することしかできませんでした。
その後、私たちはセバシ様の下で学んだ多くの事を思い出すように語り合い、店へと向かいました。
「ここがうちらの店か……へぇ、いろいろあるなぁ」
リーははじめて入る店の商品を見て、興味深げに呟いた。
「もうすぐ開店ですから、コメットとファンシーは今日は倉庫の掃除をお願いしていいでしょうか? 店内の掃除は必死に終わらせたのですが、倉庫の掃除は後回しになっているので。リーは店の前の掃き掃除をお願いします。あ、これに着替えてくださいね」
私はコーマ様からいただいた制服のなかから、三人にあったサイズの服を選んで渡します。
制服はコーマ様が様々なサイズのものを用意してくださいましたから、全員分揃えるのには苦労しませんでした。
「とてもかわいらしい服ですね。一部の男性が喜びそうですわ」
ファンシーはその場で服を脱ぎ、下着姿になった後、自分の体に服を合わせて言った。
「店の前の掃除か。奴隷時代やったら目玉商品ってところなんやけど、今は違うんやな?」
「ええ。リーはこの中で一番背が高くて、目立ちますから」
「他にも、冒険者が絡んできても撃退できるしな」
実は、リーは元々冒険者として活躍していましたからね。セバシ様のもとで働いていた時に、時折冒険者ギルドの前の食堂でバイトをしていたことがあったのですが、そこでも冒険者の方々から姉御として慕われていました。
リーは「任せとき!」と言って元気よく箒とチリトリとゴミを入れる桶を持って店の前に行きました。
「さて、私も商品の陳列をして開店準備を――」
そう思った時です。
出て行ったはずのリーがすぐに戻ってきました。
「店長、お客様やで」
「店の開店まで暫くありますから、しばらくお待つようお伝えください」
「そう言ったんやけどな。ただの客じゃない、大事な商談があるからってしつこうてな。それでも待ってもらう?」
「普通のお客様ではないのですか……それなら開店してからの商談になると他のお客様の相手ができませんから、そうですね、通してください」
「わかった」
リーはそう言って、店の前で待たせていたお客様を連れて戻ってきた。
お客様は頭を下げながらこちらに近付いてきて、
「いやいや、お会いできて光栄です、店長殿。ぜひ、店長殿に聞いていただきたい耳寄りなお話が――」
そのお客様は満面の営業スマイルを浮かべたまま顔をあげ、そして固まった。
「ぶひっ!?」
そう、先ほどセバシ様の店の中で鉢合わせしていたダブタがそこにいたのです。
「な、なんで奴隷の貴様が! 店長はどうした!」
「私が当店の店長でございます。御用はなんでしょうか? ダブタ様?」
その時のダブタの顔は、まるで前日からご飯を抜かれ、今日自分が出荷されることに気付いてしまったブタさんのような顔をしていました。その顔を見て、
「この店に来てよかったわ」
と笑顔で呟くファンシーに、私は言い知れぬ恐怖を感じました。
明日の更新は、ちょっと変更部分修正したりするので遅くなります。




