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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra02 笑顔の値段(メイベル外伝)

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キャッチコピー

ちょっと時間が遡って、コーマと出会うその日の朝からです。

   第一話「キャッチコピー」



 その日の朝。といってもまだ夜明け前です。奴隷の朝は早いので、この時間に起きるのはもう慣れました。

 セバシ様が仰るには奴隷は「主人よりも早く起き、主人よりも遅く寝なくてはいけない」というルールらしい。もしも私が誰かに買われることがあれば、そのご主人様にはぜひ一日4時間は寝てもらわないとな、と思う。一日三時間睡眠程度なら、ひとりでお店の切り盛りをしていた時は常だったので大丈夫だと思います。

 セバシ様を起こすのは、暫くは同室のコメットの仕事です。

 主人を起こすときの作法や挨拶の仕方などをセバシ様が直々に指導なさる。私もここで買われた時は一週間ほどさせられました。

 頼まれた時間にセバシ様の元に行き、起こさなくてはいけない。その時に寝癖があったりしたら厳しく注意されます。

 といっても、セバシ様は私達奴隷を絶対に殴ったりはしないし、ご主人様の詰りを耐える訓練以外では意味のないことで罵倒したり八つ当たりしたりもしないです。

 セバシ様曰く、私達は商品だから、商品を丁寧に扱うのは当たり前のことだそうだが、結局のところ、彼もお人好しなのです。

 ちなみに、私の朝の仕事は店の前の掃除。

 このお店の前の掃除は、いわば店の看板でもあります。

 ある程度勉強を積み、いつ売りに出されてもおかしくない奴隷にしか任せられることはない仕事であり、逆に言えば、店の前の掃除をしている奴隷は、もうすぐ売られることを意味する。私と同じエルフ族だった先輩奴隷も、店の前の掃除をはじめて二週間後に買い手が決まった。お金持ちのお婆さんの家の家政婦として買われたらしく、奴隷としては当たりの仕事だと喜んでいました。

 鏡の前で、緑色の髪に寝癖がついていないか確認し、ついでに胸と身長に全く成長の兆しが見られないことに落胆しました。

 先輩は、私みたいな女の子だと物好き以外は性奴隷として買うことはないだろうから、むしろいいんじゃないか? と言っていたが、それでもやはり全く成長しないというのは女性としては辛いところがあります。

 掃除をするときの衣装に着替え、私は掃除をしました。

「おう、おはよう、メイベル」

 そう声をかけてきたのは、私のお父さんのお店の数件隣のリュークさんのお店で店長をしているエリックさんでした。

 エリックさんは、生まれたときから奴隷という、代々奴隷の家系です。ただ、そのおかげで物心ついたときからセバシさんに買われ、英才教育を施された結果、今ではひとつのお店を任せられて、奴隷ながら店長をしているほどです。こうして店長になった奴隷というのは、オーナーからすれば手放すことのできない、代わりのない奴隷として、奴隷としては良い待遇の生活を保障されることが多いと聞き、セバシ様もよく「エリックを見習い立派な奴隷になるんだぞ」と皆に言い聞かせます。

「おはようございます、エリックさんは仕入れですか?」

 私が尋ねると、エリックさんは笑顔で答えました。

「まぁね。明日から勇者試験だろ? 人も多くなってきたからね、今のうちに儲けないと、リューク様に怒られるからね」

「そうですね、頑張ってください、店長」

「あぁ、頑張るよ」

 そう言って、エリックさんは去っていきました。


 掃除を終えると今度は朝食の準備です。

「あ、おはようございます、メイベル先輩」

 

「おはよう、コメット。今日は一緒によろしくね」

「はい♪」


 奴隷の寮での食事はとにかくスピードが命です。まずはセバシ様の料理を作って、その後で皆の分を作らなくてはいけません。

 しかも予算はとても少ないのに、精の出る料理にしないといけません。そういう点では、コメットは優秀でした。何時にいけば何を安く手に入れられるかを熟知していて、決してどんなものでも定価では買わない、ある意味では商売人の天敵とも言えます。もっとも、こういうお客さんがいるからこそ売れ残りが少なく済むのですが。

 彼女は孤児院で育ち、少ないお金で弟や妹たちのご飯を賄っていたそうです。育ちざかりの弟妹のために栄養があって美味しいものを食べさせるためにしていたことが、奴隷になっても役立つとは思っていませんでした、とは彼女の談です。

 本当にいい子で、可愛いのでぎゅっと抱きしめたくなります。

 もしも私が店長なら、ぜひ彼女には商品などの価格調査や仕入れなどをしてもらいたいくらいです。


 朝食の後の私たちの業務は勉強会です。奴隷を高く売るにはスキルが必要だと、セバシ様はいつも仰っていました。

 そのため、私たちは週に三度か四度、こうして勉強をする機会を与えられます。勉強の他にも、肉体労働の奴隷ひとや冒険者として買われる奴隷ひとは体を鍛える訓練をするそうです。性奴隷になりたいと自主的に言う人もいて、そういう人も専用の訓練があるそうなのですが、私はどんな訓練か知りませんし、知りたくもありません。ただ、聞いた話によると、この訓練を受けた人は男性を篭絡する技術を極め、中には奴隷と主人という立場が逆転してしまったという例もあるそうです。

 恐ろしい話です。


 今日の勉強会では、商品のキャッチコピーについて話し合いが行われました。

 キャッチコピーというのは、たとえばポーションなら「飲めばどんな傷でもすぐに治る」などの宣伝文句のことです。


「せやから、キャッチコピーってのは大袈裟なくらいがちょうどいいって思うねん。だから、鉄をも切り裂くアイアンソードとかな」


 そう言ったのは、リーです。西国の訛りが特徴の女性で、もともと行商人の付き人として奴隷をしていたのですが、その行商人が引退するということでセバシ様に売られました。基本、奴隷は健康であれば解放されることは稀です。奴隷は財産、というのは常識ですからね。


「でも、いざ本番になって、使い物にならないというのは困るわよね……剣も男性も」


 ふふふと艶めかしく笑うのはファンシーです。彼女も私とほぼ同時期に奴隷になったんですが、奴隷になった理由を尋ねたら「誰かを使うのは飽きたから、今度は誰かに使われてみたいの」という意味のわからない理由でした。セバシ様が、「ファンシーは性奴隷になると思っていたが、ここでの勉強でいいのか?」と尋ねると、「私はそういうのは全部独学で学びましたから、誰かに教えるのも教わるのもよくありません」とよくわからないことを言っていました。

 ちなみに、見た目は私たちより幼いんですけど、私たち四人の中では一番年長者です。


「あ、あの、正直に話すのが一番だと思います」


 そう言ったのはコメットでした。彼女は正直者ですから、たしかに彼女の言うことが最も正しいんです。でも、目の前の剣は目立つ傷もあり、あまりいい商品ではありません。

 ちなみに、この剣は刃の無い模造刀なのですが、そこには触れてはいけないルールです。


「といっても、年代物の剣ですからね、普通に言ったら売れませんよ」


 と言って、私はキャッチコピーを考えます。

 お父さんはいつも言っていました。アイテムには歴史があると。それを読み取るのがそれを売る者の責務だと。


「メイベル先輩なら、この剣のキャッチコピーをなんと書きますか?」

「そうですね」


 と私は笑顔で、自分の考えたキャッチコピーを言った。 


『ひとりの剣士の命を何度も救ってきた名剣です』


 自分では無難なところだと思ったけれど、周りからは高評価を得ました。

 でも、実際にこういう商品にキャッチコピーをつけることは稀です。キャッチコピーは本当に売りたい商品につけるものですから。

 私がどうしてもこの剣を売りたいとすれば、まずはこの剣を鍛冶屋で研ぐなどメンテナンスをしてもらってから売りますね。


「なぁ、メイベル。仮にやで? 自分にキャッチコピーを付けるとしたら、なんてつける?」


 リーに思いもよらぬ質問をぶつけられた私はふと考えた。

 私のいいところ? エルフなのに魔法は使えませんし、鑑定しかできません。

 それでも考えた。


「『お客様と一緒に笑顔を作れる店員』でしょうか?」


 私がそう言うと、リーもファンシーも豆鉄砲を喰らった顔になって、


「はは、うちは奴隷として買ってもらうためのキャッチコピーを聞いたんやけどな」

「メイベルは、もうお店で働くことしか考えていないんですね」


 と笑い出した。ふたりが笑うのでコメットは必死にフォローしようと、「で、でも、目標に向かって頑張るメイベル先輩、とても素敵です」とフォローを入れた。

 私は思わぬ失敗に顔を赤くして俯くと、


「ほら、メイベル、笑顔やで、笑顔」

「たしかに、笑っているメイベルは素敵ですものね」


 リーとファンシーに言われて、俯きながらも小さく微笑んだ。

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