予期せぬ再会
~前回のあらすじ~
聖竜に乗り、聖地に入った。
クリスはどうやら、レイシアの護衛としてこの場に来たらしい。鈴子とアクアマリンもいる。
「カガミよ、久しぶりだな。元気そうでよかった」
「レイシアも元気そ……少しやつれたか?」
明らかに憔悴した顔のレイシアを見て、俺は思わずそう尋ねた。
「ふっ、ちょっとトラブルがあってな」
「あぁ……なるほどな」
聖竜に乗って憔悴しているのか。その表情はたしかにシルフィアと通じるところがある。
「……レイシア様とお会いするのははじめてだったんですが、まさかゴンドラのことであんなことをなさるなんて……死ぬかと思いました」
不幸の神子――じゃなくて、水の神子のアクアマリンも少し疲れているように見える。
本当に、アクアマリンはいろいろ憑いてるな、きっと。
「アクアマリンの水の精霊のほうはどうなんだ?」
「時々、波紋程度の力を感じますが、会話できるようになるのには時間がかかりますね」
ウィンディアと状況は同じってところかな。
「鈴……ラミーも元気そう……なのか?」
鈴子の表情は相変わらず無表情でよくわからない。ただ、いつもと違い、神子っぽい衣装に身を包んでいる。
さすがに今日は影武者を立てることはできなかったのだろう。
ということで、現在、この場所に神子六人が大集結しているわけだ。
数百年もの間続いていた戦争が終ろうとしている。
六人の神子がそれぞれ、多くの思いを持ち、ここにいる。
「コーマ様、あなたのおかげでこうして戦争のない平和な世界を作ることができました。本当にありがとうございます」
シルフィアが頭を下げると、それに呼応するように、今度はレイシアが言った。
「カガミ、私は戦いが好きだ。だが、戦争は私の理想とは違った。相手を殺す戦争では、戦った相手と二度と戦うことはできない。カガミ、私は貴様とはまた剣をまみえてみたい。平和な世界の中で――な」
レイシアの笑みはとても勇ましい。彼女に負けないように俺も力をつけないとな。そう思っていたら、アルジェラが俺の手を引いた。
「……アルも、校長先生のおかげでグルースにまた会えたよ。ありがとう、先生」
先生……か。何も教えているつもりはないんだけどな。それでも悪い気持ちはない。
「……あなたには話していないことがまだいろいろとある」
鈴子はそれだけを言うと、瞳を閉じた。ここでは話せないことなのだろう。俺も聞きたいことはいろいろある。またゆっくり話をしたい。
まるで順番と言わんばかりに、アクアマリンが俺に声をかけた。
「コーマ様のおかげで、アクアポリスは救われました。本当にありがとうございます」
「礼を言われることじゃないよ」
「いえ、あなたがいなければ、私達アクアポリスは戦争の責を負い、最悪国が滅びるところでした」
今回の戦争の全ての引き金は、ディーネである。ディーネがアクアマリンに成りすまし、ウィンディアを操り、フレアランド、アースチャイルドの要人を誑かし、戦争を引き起こした。
ディーネは水の精霊であり、アクアポリスの象徴でもあった。
そのため、一部では全てアクアポリスに責任を負わせようという意見もあったが、俺をはじめ、神子全員の意見のもと、今回の戦争の責任は誰にも追求しないこととなった。
「結果よければすべてよし、だね♪ ダーリン」
この中で一番長い間眠っていたウィンディアが俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
「私に自由を取り戻してくれてありがとう」
六人の神子からの感謝の言葉を耳にして、俺は小さく微笑んだ。
その時、
「お待たせした」
そう言って現れた初老の男の声に、全員がその場に膝をついた。
俺もその場の空気に合わせて膝をつく。
青と赤の法衣に身を包んだ、白いひげを蓄えた初老の男。
こいつが――教皇グラッドストーンか。
とても優しそうであり、だが中に一本の芯がある表情をしている。まるで聖人をそのまま絵にしたような男だと思ってしまった。
「六名の神子よ、これより式典の準備を行う。私とともについて来なさい」
六人の神子は傅いた後、グラッドストーンについて歩き去った。
残された俺たちは式典まで自由時間となるわけだが、店が全部しまっているので見て回るところがない。
「コーマさん、どうしましょ」
「コーマ、これから何をするつもりだ?」
クリスとサクヤに尋ねられ、「暇だから昼寝でもしようか」と言おうとした、その時。
俺はそれを感じた。
二度と感じることのないと思っていたその気配を。
「悪い、ちょっと用事ができたっ! ふたりはそこから動くなよっ!」
俺はそう言って走り出した。
気のせいであってほしい、そう心に思いながら。
グラッドストーンと神子たちが上がったのとは別の階段を上る。そこは見張り台のはずで、聖地の兵が常駐しているはずだった。
だが――階段の上から転がってきたそれに――俺は思わず眉をひそめた。
生首が転がってきたのだ。見張りの兵の。
思わず目をそむけたくなるが、俺はその生首を観察した。自分がいきるために。
血が溢れている切断面は、剣などで斬られたものではない。とても汚い――おそらくはねじり斬ったのだろう。他の見張りの兵に異常を告げる間もなく、彼は己の役目を果たすこともできないまま絶命したのだ。せめて苦しんでいなければいいのだが。
その猟奇的な殺し方を見て、俺は警戒心をさらに強め、通信イヤリングでルシルに連絡を取った。
そして、俺はさらに階段を上がっていくと、そこに、やはり奴が待ち構えていた。
獅子を彷彿させる髪型をした巨漢の男。
死んだと思っていたそいつを俺は睨み付けた。
声は先に向こうからかけられた。
「よう、久しぶりだな、コーマ」
「……生きていたのか、ベリアル」




