小さな銃弾
~前回のあらすじ~
アクアボムが破裂した。
予想外だったのが、津波に押し流され、俺とディーネの距離が開いたことか。ただし、そのせいで腕が千切れてしまった。
この激痛がいつまで続くのかわからないが、血を失う前にアルティメットポーションを飲んで腕を生やす。
トカゲの尻尾みたいだなと自分でも思う。今の俺はトカゲではなくて竜だけどな。
水が湖に引く前に羽根の影が見えた。
俺は水の底の上から跳び、水の上に立つ。
水蜘蛛改がなくても、水上歩行スキルは持っているから水の上に立つことはできる。ただし、MPを僅かに使うが。
そして、見上げた先にディーネがいた。白い翼を羽ばたかせて宙に佇んでいた。
「立派な翼は伊達じゃなかったってことか」
俺は笑っていって、
「俺からのプレゼントはどうだった? 水を操れるのはお前だけじゃないんだぜ『水弾』っと」
俺が呟くと、手のひらから水の球が現れ、湖の下に落ちた。
「なんのつもりですか? まさか水の精霊である私を、水の魔法で倒そうというのですか?」
水が引いていく。
湖へと戻っていくように。
「無理だろうな。まったく、実力が違いすぎる――一体、お前の元となったアルモニーとやらをどうやって倒したんだろうな。次に会ったら、アクアマリンに聞くことにするよ」
「次があると思うのですか? いまここで死ぬあなたに――」
「どうだろうな? あると思うか?」
「ないでしょうね。あなたはここで死ぬのですから」
「そうだろうな。なぁ、命乞いしたら助けて貰えたりしないか?」
「もう手遅れですよ――降魔の者よ、さらばです」
ディーネの白い翼から羽根が現れた。
今までで一番多くの羽根、ルフラからの援護もなし、これが放たれたら確実に俺の逃げ場はない。
放たれたら――な。
「…………なっ」
白い翼が水の塊となって崩れ落ちた。翼を捥がれた、天使の姿をした精霊は地面へと叩きつけられる。
うつ伏せに倒れたディーネは起きようとするが、立ち上がることもできずにいた。
「いったい、何をしたというんだ?」
「なぁに、ピタゴラス湖に水を足しただけだよ。そうすれば、あらふしぎ!」
俺は笑顔で湖を指さした。
湖の水位がみるみるうちに下がっていく。
ピタゴラス茶碗という茶碗を知っているだろうか?
底に穴が開いているんだが、水を入れても漏れることはない。だが、一定以上水を注ぐと水が漏れてしまう。しかも、一定を超えた量だけが零れるのではなく、茶碗に入っている水が零れてしまうんだ。
サイフォンの原理を利用した茶碗で、例えば水洗便所などでも一定以上の水が溜まれば一気に流れていくようにできている。それも同じ原理で作られている。
そして、この湖も、どういうわけか同じ理屈で水が流れ出る仕組みになっている。その仕組みのおかげで、湖の底に沈殿した豊富な栄養もともに流れていくため、大洪水の水はとても栄養が豊富だったりする。
「まったく、水がそんなに大好きだっていうのなら、海で戦えばいいのによ。それならこっちも手の打ちようがなかったよ」
「海ではもう戦わないと約束したんですよ」
ディーネが笑って言った。
そして――最後に彼女の体から一本の翼が現れ、その場に落ちた。
ディーネの姿が、天使の……アルモニーの姿から、幼い赤子の姿へと変わっていく。
【HP329/329 MP140/140】
終わった……のか?
『私の負けです。願わくば、安らかに殺してもらえませんか?』
「バァカ……お前が死んだらアクアマリンが悲しむんだよ」
そんなことを言うが、ぶっちゃけ、俺には勇気がないのだ。誰かを殺す勇気が。
魔物などは殺せても、こうして話すことができる相手を殺すことができない。
全く……弱虫だよな。
これでルシルを守り、彼女の願いを叶えたいっていうんだ。我儘だよな。
「それより、教えろ。いったい、なんのためにこんな真似をしたんだ?」
『それは――』
その時、何かが飛んできた。
それはディーネの体に命中すると――彼女の体が煙のように消えて行った
「……え?」
俺の声とともに「パァンっ」と乾いた音が聞こえてきた。
まるで銃声のようなその音が。
そこに残ったのは、水の宝玉だけだった。
※※※
湖の傍の小高い丘の上。
精霊の死を見届け、ライフルと言う名前の武器の構えを解いた。
「報告です、水の精霊消失、オールコンプリート、聞こえてますか?」
通信イヤリングを使い、向こう側にいるはずの彼女に声をかけた。
だが、返事がない。
「あの、聞こえていますか? この俺が西大陸を戦争に巻き込んだ水の精霊を倒しましたよ。聞こえたら返事してください」
だが、それでも返事はない。
壊れているのか?
『……うるさいです。一度言えばわかりますよ』
いつも以上に機嫌の悪い彼女の声に、俺はげんなりした口調で言う。
「あの、そこはもう少し褒めてくれてもいいんじゃないですか?」
『仕事が遅すぎます。今まで何をしていたんですか?』
「仕方ないでしょ。アルモニーの力なんて使われたら、ただの人間の俺じゃ、精霊殺しの弾を使っても倒せませんって、レメちゃん」
『その呼び方をすれば、あなたの有給申請を取り消しますよ』
「ちょっ! 悪かった。頼むから勘弁してください、レメリカさん」
相変わらず、レメちゃんは怖いな。
でも、そこが可愛いんだよな。
「レメリカさん、仕事も終わったんだし、今晩一緒に食事でもどう?」
『冗談は名前だけにしてください、ジョークさん』
「だから俺はジョーカーだって!」
そう叫びながら、俺は精霊の傍にいるコーマの姿を見て小さく息を漏らした。
「それにしてもコーマの奴がとんでもびっくり人間だったなんてな……ヤダね……まったく」
俺はそう呟き、若き英雄にエールを送った。
「おつかれさん」
ジョークさんは最初から隠しキャラ予定だったが、すっかり忘れてた。
切り札のはずが、ずっとギャグキャラ(ジョーク)だったわけですが、ようやく……
いや、やっぱり9割ギャグキャラかな。




