ウィンディアを元に戻せ!
~前回のあらすじ~
役不足の正しい意味は、与えられた役目が自分の実力より分不相応に簡単過ぎることである。
結局、俺は役不足の言葉の間違いを指摘しないまま、湖面を見つめる。
完全に凍り付いて動かない竜。
【HP3271/8900 MP2000/2000 氷結】
あの状態でも死んではいないのか。
でも、あれだとそう簡単には動けないよな。
そう思ったその時、何かが伸びていった。
剣だ。
赤い刀身の剣がまるで蛇のようにうねって、伸びていき、凍り付いた竜に巻き付くようにからみついた。
あれは――蛇紋剣か?
俺は実際にその戦いをしっかり見ていたわけではないが、ベリアルの部下、オーガジェネラル相手に使ったときは、ただ曲がる剣だったはずだ。
少なくとも伸びたり絡みついたりするような剣ではなかったはずだ。
「コツを掴めば結構簡単なんですよ」
俺の後ろからクリスの声が聞こえてきた。
そして、炎を纏った剣に絡みつかれた竜はHPを完全に失い、湯気を上げながら消えた。
「クリスのバカ! 今の攻撃のせいで他の竜の氷が溶けかかってるじゃない!」
騒ぎ立てるルシルは既にいつもの子供の姿に戻っていた。相変わらず燃費が悪いな。
そして、ルシルの言う通り、次の瞬間、水竜の表面の氷に罅が入った。
「いいや、ナイスだ、クリス! まったく、俺の見せ場を失うところだったぜ!」
俺は笑うと、アイテムバッグから杖を取り出した。
そして、
「雷よっ!」
杖の先端から放たれた光が天に伸びていき、空から轟雷が降り注いだ。
と同時に、全ての水竜からHPが失われ、水の塊となって湖面の氷の上にへと雪崩れるように落ちた。
「ふふふ、どうだ、これが俺の力だ!」
俺が杖を構えて、ウィンディアに言った。
ルシルとクリスにばかりいいところを見せていられない。
この戦いの主役は俺だからな!
「俺の力って……どう見ても杖の力じゃない。誰でも同じ威力がでるんでしょ?」
「あんな雷打っちゃって……湖の中の魚、全滅しちゃうじゃないですか……同じ種類の魚はアクアポリスにもいるはずですから手配してもらわないといけませんね」
うるせぇな! いいんだよ!
それに、これは今までの轟雷の杖じゃないんだ。
あれから改良に改良を重ねて完成させた俺の秘密兵器なんだぞ。
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雷神の杖【魔道具】 レア:★×7
雷の神が持っていると言われる杖。その力はまさに神の力。
月の光を浴びることで、残数を回復させられる。
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そう、まさに神の力だ!
そして、その力を作った俺は、まさに神をも凌駕するといっても過言じゃない。
「そもそも、アイテムを作る能力だって、コーマの能力じゃなくて元々はお父様の力だし」
「うるせぇっ! そんなこと言われなくてもわかってるよっ!」
なんで俺たちはこうもしまらないんだろうなぁ。
俺たち三人、物語の主人公たちには絶対になれないタイプだ。
「それより、どうだ! ウィンディア! 何度でも相手してやるよ! ちなみに、この杖は十回しか使えないが、アイテムバッグの中からはまだまだ杖が出てくるぞ! 何匹、何十匹召喚しても無駄だからなっ!」
「そうですか――それならこれならどうでしょうか?」
次の瞬間、湖面が光った。
一瞬目が眩んだ。
次の瞬間――俺の前にいたのは三十人近くに分裂したウィンディアだった。
水鏡か……くそっ。
そして、三十人のウィンディアのHPとMPを確認する。
【HP120/120 MP24319871/821 操作】
診察スキルで誰が本物か判断するのは不可能だろうか?
「はっ、いくら分裂したところで、さっきの杖の威力を見ただろ? 全員纏めて消し炭にしてやるよ」
「いいのですか? あのような杖を使えば、風の神子の身が無事では済みませんよ」
「…………っ! おいおい、何を言っているんだ?」
「あなたは既に御存知でしょう? 風の神子はただ操られているだけだということを」
「ついでに、それを操っているのが水の精霊だってことも……じゃ?」
俺の問いに、ウィンディアは――いや、ディーネはただ笑顔で答えた。
そして、次の瞬間、彼女の手に水の剣が現れ、それが先ほどのクリスの蛇紋剣のように伸びた。
「コーマ…………」
ルシルの呟きに、俺は小さく頷き、そして俺は一気に前に出た。
水の剣が俺めがけて伸びてくるが、それを時には跳び、時には滑り、横に、上に、下にと躱しながらひとりのウィンディアの前に立つ――
「よう、風の神子さん!」
俺はそう言うと、本物のウィンディアの前に立ち、エリクシールを一滴ではなく瓶ごと振りかけた。
――刹那、分身のウィンディアが水の塊となって水風船のように破裂して水たまりを作り出した。
【HP120/120 MP39800000/821】
よし、治った。
ウィンディアはその場に倒れ込んだ。まるで操り人形の糸が切れたように。
「ふぅ、またルシルに助けられちまったな」
たしかに、診察スキルでは誰が本物のウィンディアかはわからなかった。
だが、それでも唯一真似できなかったものがあった。
風の精霊とのつながりだ。
ルシルはそれに一瞬で気付き、風の宝玉から伸びた糸の先にいる本物を見抜き、俺に教えてくれた。
振り返り、ルシルにVサインを送る。
あとはディーネを探すだけだな。
そう思った直後、ルシルの顏が歪んだ。
「コーマっ! 後ろっ!」
その声に振り返るよりも、俺の背中に衝撃が走った。
大きく吹き飛ばされた――が大丈夫だ。大した痛みはない。
それより、どういうことだよ。
【HP120/120 MP39800000/821 操作】
ウィンディアの状態が操作へと戻っていた。
確実に元に戻ったはずなのに。
いったい――いったい、どこから操っているっていうんだ?




