風の神子の居場所
~前回のあらすじ~
火竜に乗ってウィンドポーンに向かった。
火竜からの景色はまさに絶景だった。
「こんな景色、絶対にシルフィアとレイシアには見せられないな」
高所恐怖症と飛行機恐怖症の彼女達はすぐにダウンするだろう。
後方を見ると、撤退してくるウィンドポーンの兵が見え、それはだんだんと小さくなって、消えていった。
恐らく、ウィンドポーンには火竜の姿はまだ見えているだろう。
いくら実害のあるスライムや狂走竜達から逃げるためとはいえ、最も恐ろしい姿をした火竜の方角へと逃げる彼らの心境はいかなるものか。もっとも、彼らもまた戦争の被害者である。俺が言うのもどうかと思うが、できることならば、心的外傷を残すことなく今後訪れる平和な時代を過ごしてほしいとは心から思う。
って、そんなこと口にしたら「相変わらずコーマは優しい魔王ね」とルシルにバカにされ、「コーマさん、私にももっと優しくしてくださいよ」とクリスが厚かましい願いを言ってくるだろうから口にしない。
「それで、コーマさん、ウィンディア様を見つけたらどうするんですか?」
「とりあえず、状態を確認して、洗脳されているようだったらエリクシールをぶっかける」
ウィンディアがすでに殺されていて、ディーネがそれに成り代わっているという可能性も考えたが、ルフラの眠る風の宝玉――それとの繋がりの魔法が切れてない以上ウィンディアはまだ生きていると見るべきだ。もっとも、その契約までも、水鏡の力によって真似できているというのなら、その時はその時だ。
「そうしたら、ディーネも黙っていないだろう。相手は魔王の力をも写し取っているというからな……」
まぁ、それでもアクアマリン達が倒せたっていうくらいだ。
大した魔王ではない……と信じたいが油断せずにいくつもりだ。
いざとなったら、竜化して戦うため、こうしてルシルも連れてきている。
「戦いが激化するようなら、ルシルは絶対に安全な場所に隠れているんだぞ。ついでにクリスも」
「コーマさん、私も戦いますよ」
「相手が人間なら、クリスの出番もあるだろうが、もしもベリアルクラスの魔王が相手となったら、お前は邪魔だ」
「邪魔って…………そうですね」
クリスも見ているからな。俺とベリアルとの戦いを。
あの時の戦いで、俺は危うく全てを失うところだった。
俺の命も、クリスも、コメットちゃんも、タラも、そしてルシルまでも。
結果的に失わずに済んだが、それでも、あの戦いの代償はやはりでかかった。
俺は自分の左胸の服を掴む。
あの時、助かったのは全部、俺の中にいたルシファーのおかげだ。
でも、はっきりと思い出せないことがある。
俺はあの時、ルシファーから、何かを聞いた。
それは覚えている。だが、いったい何を聞いたんだ?
思い出せない。
とても大切なことだった気がするんだが。
「はぁ……俺、記憶力には結構自信があったのにな」
「それ、記憶喪失だったコーマが言うセリフ?」
俺のつぶやきを聞いて、ルシルが半眼で尋ねた。確かに説得力はないよな。
「あ、サクヤ達だ。お、シグレも一緒か。こっちを見て警戒しているな……と目があった」
俺はアイテムバッグからただの紙と鉛筆を取り出し、スラスラとメッセージを書き、その紙にただの石を包んで投げた。
投げた石は静かに降下していき、サクヤの手前に落ちた。
一応、この火竜は俺の味方であることと、ウィンドポーン軍が撤退してこちらに向かってきていることを書いておいた。
「で、ルシル、まだ先なのか? 神殿っぽい場所はあそこだが――」
「もう少し先よ――」
「もう少し先って、もう風車の村で、アークラーンについてしまうぞ……てまさか、あいつ、戦いのどさくさに紛れてアークラーンに!?」
となれば、やばいな。アークラーンは数的には戦力などほとんど減っていないが、サクヤをはじめとした精鋭が抜けている状態だ。
そんな中で暴れられでもすれば、アークラーンは致命的な痛手を被るかもしれない。
そう思ったのだが、
「そこまで遠くじゃないわよ、ほら、あそこよ」
「ん?」
ルシルが指さしたのは、湖だった。
「あぁ、ピタゴラス湖か」
「ピタゴラス湖? あれはヒヨイグア湖ですよ、コーマさん」
「知ってるよ。でも、その方が覚えやすいからな」
あの湖の仕組みを思い出し、俺は笑って言った。
「ピタゴラスって、コーマの世界の数学者の名前よね?」
「あぁ、三平方の定理とか見つけたって本当かどうかわからない話が有名だけどな」
実はあの湖とピタゴラスとはちょっとした関係がある。
もっとも、それを知ったからといって、だからどうしたって感じなんだが。
「水の精霊が隠れる場所にはもってこい……だな。火竜、悪いが向こうの丘の上に着地してくれ」
俺の指示にしたがい、火竜はゆっくりと降下をはじめた。




