火竜の飛ぶ先
~前回のあらすじ~
全軍対全軍
「コーマ、これからどうするの?」
火竜の背中の上で、ルシルが俺に尋ねた。
西からゴブカリが、東からタラが敵の将軍のみを気絶させるために火竜から降下。
さらに中央には突如現れたメディナが敵将および敵中隊を全て石化し、別の部隊では敵将をマネットが操り撤退命令を出させている。
もう大混乱だ。
今のところ、数人の死者が報告されているが、それは敵前逃亡を計ったり、敵将軍に進言したりした兵が仲間から殺された場合であり、決して俺達が殺したわけではない。
とりあえず、暫くの間はこの場に待機して、ある程度したら持ち運び転移陣を使って撤退。その持ち運び転移陣を最後にコメットちゃんに回収してもらい、コメットちゃんには暫くはアクアポリスで待機してもらうことになっている。
「どうも、ゴブカリ達の話だと、一部の敵のお偉いさんは、洗脳されているような形式があるんだよな」
「洗脳?」
「そう。いくら神子の力が絶大だといっても、全軍突撃なんて真似、そうそうできるわけないからな。その将軍がやられたら、陣形は総崩れだ。なにせ、一番雑魚だと思っていたスライムには矢も効かず、西からは俺が仲良くなった狂走竜、東からはマネットが作ったゴーレムが攻めて来てるんだ。もともと士気も高くない状態だし、総崩れまでは時間の問題だろ」
「それにしても、いい景色ですね。コーマさん、いつの間に火竜を部下にしたんですか?」
「あぁ、こいつはマネットの友達だよ」
ルシル料理被害者の会の一員でもある。あの時、こいつには本当に悪いことをしたなと思っている。
「それにしても凄いわね。ねぇ、コーマ! このまま人類を滅ぼして世界征服しちゃわない?」
「ダメですよ! そんなことをしたら!」
「じょ、冗談よ。クリスったらそんなに怒らないでよ。コーマだって元は人間なんだから、そんなことできるわけないでしょ」
クリスが予想していた以上に怒ったのだろう、慌てたようにルシルが訂正した。
生憎、俺はいまでも人間だって思ってるんだがな。
「ルシルちゃんだってほとんど人間じゃないですか」
「失礼ね。私は大魔王であるお父様の娘よ! 人間なわけないじゃない!」
「え? じゃあルシルちゃんも竜に変身できるんですか?」
「そ……そうよ! 正しくは竜に変身できる魔王よ。今は力のほとんどが封印されてるから竜の姿になれないけど、なったらすごいのよ! この火竜なんて足下にも及ばないわ!」
へぇ、ルシルの奴、実は竜に変身できるのか。
それは俺も知らなかった。まぁ、闇竜であったルシファーの娘なら当然と言えば当然か。
ルシルのドラゴン姿ってどんなものなんだろうな?
やっぱり、銀色のドラゴンなんだろうか?
「……やっぱりドラゴンになったら、服が破れたりして大惨事だろうな」
「ちょっと、コーマ、何を想像してるのよ」
「安心しろ、俺が想像しているのは大人バージョンのお前であって、今のお前じゃないからな」
「明確に想像してるじゃない! むしろこれでもかっていうほど想像してるじゃない!」
ルシルは黒いマントで自分の身体を隠して、顔を真っ赤にして叫んだ。
「コーマさん、あんまり女性をそういう目で見るのはダメですよ」
「そうよ! コーマはもっと自重しなさい! 本当に、三回まわってワンと言っていたころのことを思い出しなさいよ」
「え? コーマさんそんなことしてたんですか?」
クリスは驚いたように口を開けてそこに手を当て、俺に尋ねた。
「してねぇよ!」
命令されたけど、あの時はやらなかったよ。
「あぁ、やったのは伏せだったかしら?」
「…………」
くそっ、そんな大昔のことを持ちだしやがって。
してやったりと言った感じでルシルがニヤニヤと此方を見てきた。
「ルシル! お前を呼んだのはそんなことを言わせるためじゃないだろ」
「そうだったわね」
ルシルは自信満々にドラゴンの上に立ち、
「コーマ、例のものを用意してくれた?」
「二種類でよかったのか?」
「ええ、今はそれで十分よ」
俺が銀紙に包まれた例の物を渡すと、ルシルは銀紙を破り、中の黒い塊を取り出す。
そして、それを口の中へと押し込んだ。
クリスはそれをじっと見つめる。額に汗が浮かんでいる。
「うん、やっぱりチョコレートはイチゴ味よね」
「チョコレート……前にコーマさんが作ってくれたDXチョコレートパフェにかかっていた甘いソースのことですか?」
「ふふん、固体のチョコレートは毒なのよ。食べると虫歯になったり、ニキビができたりする毒なのよ。私の力を高めるために、この毒を取り入れないといけないの」
チョコレートソースと固体チョコレートにそんな違いはねぇよ!
虫歯はともかく、チョコレートを食べるとニキビができるっていう話は大間違いだし。正確にはニキビができる時期にチョコレートが食べたくなるらしい。
「固体のチョコレートにそんな効果があったなんて……知らなかったです」
クリス、信じるなよ。騙されやすいキャラを卒業したんじゃなかったのか?
これだと騙されやすいキャラ、留年だぞ。
まぁ、そのほうが俺は面白いんだけど。
「いったい、そこまでして何をしようというんですか?」
「クリスは知らないかもしれないけど、コーマが持っているこの玉、風の宝玉って言って、風の神子と繋がりが深いアイテムなの」
「知っていますよ。そのくらい」
クリスが不服といった様子で返す。ルシルの奴、クリスの扱いにだいぶ慣れて来たな。
クリス取扱免許の皆伝の日まで近いな。何も伝えていないけど。
「ふふふ、風の宝玉と風の神子には魔力的な繋がりが存在するのよ。例えば、コーマとクリスの間にある契約みたいなものがね。私はその契約を魔法で解析するの」
「ちょっと待ってください、私とコーマさんの契約って……もしかして、あの時の言葉が将来のふたりの約束として残っているんでしょうか……」
クリスが何か心当たりがあるのか、顔を真っ赤にする。今日はクリスの表情はいろいろと忙しいな。
それにしても、俺とクリスの間の契約か。普通に考えたら、勇者と従者の雇用契約のことだろうが。
「えっと、解析してみるわね……ふんふん」
ルシルは笑いながら、何か呪文のようなものを唱える。
「借金を返せなかったら、コーマの意志次第でクリスの一人称がクリスティーナになったうえで猫語で話すって契約が交わされているわね」
「やっぱり、それだと思いましたよ!」
クリスが叫びながら地団太を踏む。
火竜の上に乗っていることを忘れているんじゃないか?
あまり暴れるなよ。
「まぁ、その力を使って、ルシルに風の神子の場所を調べてもらうんだ」
「神子様って、神殿にいるんじゃないんですか?」
「普通はそうだろうが、全軍突撃なんて真似をしてる上で、アークラーン軍が侵略してるんだ。そんな目立つ場所にいるとは思えないからな」
「見つかったわ! あっちよ!」
ルシルが指をさした方向に向けて、火竜は飛んでいった。




