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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode11 塔の迷宮・前編

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魔王軍全軍突撃

 この戦いがおかしいと、皆が思っていた。だが、一兵卒である俺には何も言うことはできない。先輩もおかしいと思っていると言っていた。分隊長は――分隊長に「この戦いはおかしくありませんか?」なんて言ったら懲罰対象だから尋ねることなどできるはずはないが、恐らくおかしいと思っているだろう。

 隊長もおかしいと思っているのは違いない。

 こんなことならば、あの時、アークラーンに捕まった時、そのまま捕虜として一生を過ごせていればよかったと思う。

 あそこで食べた料理の旨さは今でも涎が出る。

 俺が仕えていたニコライ将軍も人が変わったようにまるくなり、牙が折れて、出世欲がまるで失ってしまった。その時、一部の兵がニコライ将軍についていき、養豚場を開くため、除隊した。今は、奴らについていったらよかったと後悔している。

 もっとも、誰が思う?

 全軍出撃なんて。

 これが、国を脅かす強大なドラゴン相手だというのなら、国を守るためという名目で、俺も少しはやる気が出たと思うんだが、攻め込む相手が同じ人間――しかも同盟国であったアクアポリスだって言うんだから。

 たしかに、アクアポリスと同盟を結んだのは数ヶ月前のことだが、緊張状態が続いていたそれ以前にも目立った小競り合いもなく、お互い平和に暮らしていたはずなのに。


 だが、その戦いの指示を出したのがウィンディア様だというのなら、やはり戦わなくてはいけないのだろう。

 この国は神子様と精霊様のものだ。精霊様の力がなかったら、もともと過酷だったこの土地で人々は生きていけなかった。

 これは恩返しなのだ。


 恩返しのために、人を殺す。

 その当たり前のことに、俺は気分が悪くなった。


 先陣の部隊に送り込まれた俺は、おそらく生き残っていればもっとも人々の命を奪う男のひとりになるだろう。

 そういう意味では、国境砦が無人だったのは助かった。

 先輩は、敵は籠城作戦に出るかもしれないと言って、さらに安堵した。

 だが、その安堵はつかの間のものだった。


 前方から鐘の音が鳴り響く。

 敵軍襲来の合図だ。


 おかしい、索敵部隊からはそのような報告は来ていない。

 このあたりには岩陰程度しか隠れる場所はなく、そんなところに伏兵が隠せるはずがない。


 そのはずなのに――一体、どうやって……と思ったその時、戦闘態勢にはいる鐘が鳴り、俺達は訓練通り、横へと広がる。

 前の兵の層が薄くなり、俺は敵の姿をこの目でみることができた。


 そこにいたのは――アクアポリスの兵ではなかった。

 スライムだ。スライムの群れがこちらに向かっていた。

 その数は軽く5000を超える。

 だが、スライムだけではない。索敵部隊に入っていないにも関わらず、視力だけが自慢の俺は敵軍にいるそれらを捉えていた。スライムたちがいるさらにその奥には、ゴブリンが、さらにその奥には牛の姿をした巨大な魔物がいる。


(あれは……まさかミノタウロスか!?)


 東の大陸にある、迷宮の中に存在するという魔物がいた。

 魔物は群れることはある。だが、それは普通、同じ種族だけが普通だ。

 なのに――一体……


 俺が目の前の現状を見て固まっていると、北西から砂煙が――ってあれはまさか――


狂走竜アグリアステップドラゴンだっ!」


 誰かが叫んだ。

 アークラーンの土地に住むという、絶対に人には懐くことがないと言われる狂走竜アグリアステップドラゴン。草原の掃除屋とも言われ、彼らが去った後にはウサギの子一匹残らないと言われる。


 なんで、どこからこのタイミングで現れた?


「伝令! 北東から突如大量のゴーレムが出現! 東側に援軍を求めるとのことです」

「バカ言え! こっちは狂走竜アグリアステップドラゴンの対処で手いっぱいだ! ゴーレムなどそっちで処理しろ!」


 分隊長が叫んだ――その時、突如、空を大きな雲が覆った。

 違うっ、雲じゃない。

 誰かがその名を呼ぶ。


「あれは火竜ファイヤードラゴンだ!」


 その声は、もはや悲鳴だった。

 いったい、なんだというのだ。これは一体。

 スライム、ゴブリン、ミノタウロス、ゴーレム、狂走竜アグリアステップドラゴン火竜ファイヤードラゴン

 なんなんだ、この組み合わせは。


「全軍突撃!」


 そう叫んだのは、茶毛の馬にまたがった、甲冑姿のマッキーノ将軍だった。

 それに隊長が反対意見を述べた。


「しかし、将軍! 我等の敵はあくまでもアクアポリス。ここで悪戯に兵を消耗するのは得策ではありません。一度国境砦まで退却し、様子を窺うのが得策――」


 隊長のその言葉はマッキーノ将軍によって遮られた。

 首を斬り落とされるという最悪の形によって。

 上官に逆らうのは処罰の対象になる。殺されても問題になることはない。

 だが、隊長が言ったことは誰もが思ったことであり、いきなり首を落とすなど――通常はあり得ないだろう。


「サイノメ分隊長、貴君がこれから第十七部隊の隊長だ。全軍に出撃命令を出せ」

「は、はい! 全軍突撃!」


 サイノメ隊長は顔を真っ青にしながらも、突撃命令を出した。

 と同時に、弓部隊から矢がスライム達に向かって放たれた。

 スライムは核を潰せば簡単に倒せる雑魚な魔物だが、それでも放っておけば害悪な存在だ。

 狂走竜アグリアステップドラゴンとミノタウロスを集中して叩くために、まずはスライムを退治しようと思ったのだろう。

 火竜ファイヤードラゴンに戦いを挑もうと思う人間はいなかった。

 誰も虎の尾を踏みたくないのだ。


 まずはスライムを一掃する――誰もがそう思っていた。

 スライムたちが融合して、山のような巨大な姿になるまでは。


 巨大なスライムは矢の的としては格好の獲物だが、だが、その弾力のせいで中心にある核まで矢が届くことはない。

 そして、その巨体はゆっくりとこちらに近付いてきた。

 このまま歩兵部隊が前に出れば、間違いなくその巨体に押しつぶされてしまう。


「しょ、将軍!」


 サイノメ隊長が叫ぶが、


「全軍突撃だと言っただろう」


 そう言って、剣先をサイノメ隊長に向ける。

 その命令に、彼の顔が真っ青になった――その時、火竜ファイヤードラゴンが上空を横切った。

 

 そして――


「第一の敵を発見しました」


 子供の声が聞こえた。その声は上空から聞こえてきた。

 変なお面をつけて顔を隠した少年は短剣を持っていて――次の瞬間、マッキーノ将軍の鳩尾にその短剣の柄を打ち込んでいた。

 倒れるマッキーノ将軍を一瞥し、謎の少年は、魔物達の方向に高速の動きで走り去った。

 それを見て、言葉を失っていたサイノメ隊長が叫んだ。


「退却! 退却だ!」


 それに逆らうものは、その部隊の中には誰もいなかった。

 逆らって首をはねる将軍がすでに気絶したから。


 そして、その声は様々な場所から聞こえた。

 そして、どこからも「将軍がやられた」との声が聞こえた。


 火竜から何者かが飛び降りて来て、将軍たちを気絶させて去っていく。

 何者がそんなバカなことをしているのか、俺にはわからない。


 だが、今は素直にその者たちに感謝することにした。

 何故か逃げ出す俺達を、狂走竜アグリアステップドラゴンもスライムも追ってはこなかった。


ちゃんと突撃したのはスライムだけという。


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