コーマの本気
先程アクアマリンに渡した通信イヤリングを使い、シルフィアに連絡を取った。
といっても、俺が今、話しているのはシルフィアではない。サクヤだ。さすがはカリアナの忍といったところか、すでに俺達が持っている以上の情報を彼女達は手に入れていた。
ちなみに、最初にサクヤに怒られた。
俺達が力づくでアークラーンからウィンドポーンへの国境砦を力づくで突破したことが少し問題になったらしい。
もっとも、怒っている状況ではないことをサクヤは理解しているらしく、お小言は数分で済んだ。
現在、文字通りウィンドポーンに従属している戦闘員は全員アクアポリスに向かって進軍しているという。国境砦までもぬけの殻になっていて、すでに占領したそうだ。このまま、進軍すればウィンドポーンの首都も占拠できるのではないかと思っているそうだ。
『一体、何を考えているのだ。風の神子様は……こんなの、戦争ではないぞ』
「本当に何を考えているんだろうな」
十中八九、風の神子ウィンディアは、水の精霊ディーネの支配下にあると思われる。
そのディーネが何を考えているのか、今の俺にはわからない。
「あ、それと、言おうと思っていたんだが、水の神子――アクアマリンがこっちについた。サクヤ、お前は軍を率いてウィンドポーンの首都なんて全部無視して、アクアポリスに来てくれ。ウィンドポーン全軍を挟撃する。忍軍団なら、すぐにこっちに追いつくだろ?」
『ちょっと待て、貴様、今どこにいるのだ? ウィンドポーンに向かったのではないのか? 何故水の神子様の話になっている』
「あ……あぁ、あぁ、悪い、電波の調子が悪い。聞こえているか? サクヤ」
俺はそう言いながら、通信イヤリングをバンバンと叩いた。
『デンパとは何かわからないが――変な雑音が、コーマ、聞こえているのか?』
感度は良好で、サクヤの声はよく聞こえるが、俺は通信イヤリングをさらに叩きながら、
「悪い、何も聞こえない。とりあえず後は任せた」
そう言って、通信イヤリングをオフにした。
通信イヤリングは再度震えて通知を知らせるが、俺はそれを手に取らない。
「じゃあ、アクアマリン、悪いが通信イヤリングは一時間ほどこのままにしておいてくれ。それとだな――」
俺は地図を広げた。
アクアポリス周辺の地図だ。
精度には欠けているが、戦略図としては優秀な部類だろう。
周辺の町や、山、湖や川などの場所も描かれている。
敵は現在国境を通過してきたそうだ。
もともと、偽アクアマリンはウィンドポーンから攻められる心配がなかったため、ウィンドポーン側の国境の兵を、ダークシルド側へと移動させていたため、敵軍はほぼ無傷で国境内に入るだろうとのことだ。
「アクアマリン、全軍に通達を頼む。敵が攻めてきたタイミングを見るに、敵の狙いは俺かアクアマリン、もしくは風の宝玉だ。となれば、敵が攻めてくるのは間違いなくこの神殿。全軍に命令し、このアクアポリスの首都に籠城作戦を取ってくれ。アークラーンの精鋭部隊が背後から攻める手筈になった。それと、ダークシルドにも援軍を求めてくれ。彼女も味方だ」
「わ、わかりました!」
アクアマリンは走っていき、近衛兵たちに指示を出していく。
俺は彼女を尻目に、自分の部屋へと戻った。
その間も考える。
敵の狙いがアクアマリンなのか、風の宝玉なのかはわからない。
だが、ウィンドポーンの全軍の力、俺とクリスのふたりだけで止められるものではない。数の暴力とはそれだけの力がある。
全員殺してもいいというのならそれも可能かもしれないが、それは俺が個人的に嫌だ。
敵を殺さずに時間を稼ぐ方法は、もう一つしかない。
クリスに俺が今からすることを説明。
そして、通信イヤリングを手に取り、ルシルに連絡を取った。
『コーマ、チョコレート、バナナ味しかなかったわよ』
彼女は愚痴っぽくそんなことを言ってきた。
「あぁ、ブルーベリー味は今度作ってやるよ」
『私が欲しいのはイチゴ味よ……あ、でもブルーベリー味っていうのも美味しそうね。楽しみにしているわよ』
そう言うと、ルシルは通信イヤリングをオフにした。自分勝手過ぎるだろ。
もう一度通信イヤリングを使い、ルシルに連絡を取った。
『どうしたの? 他に何か用事があるの?』
こいつは本気で尋ねているのだろうか? だとしたら恋する相手を間違えたと言わざるを得ない。
「あぁ、チョコレート以外の用事があるから通信イヤリングを使ったんだよ。ルシル――」
俺はニヤリと笑い、彼女に言った。
「俺達の魔王軍全員に伝えてほしい。全軍出撃の準備を頼むと」
全軍出撃には全軍出撃だ。
魔王軍全員で、ウィンドポーンの兵を止めてやる。




