同行の申し出
~前回のあらすじ~
アクアマリンが一緒にウィンドポーンに行きたいと申し出た。
アクアマリンは、恐らく、かなり悩んだのだろう。スライムの大群に襲われた――いや、襲われてはいないから覆われた町はまだ完全にいつも通りとはいえない。短い付き合いではあるが、自分を監禁していた一味であるグルースにもきっちりとした持て成しをしていることからも、彼女が心優しい人間であることはわかる。そんな彼女が、今の状態の町を放ってウィンドポーンに行くことに躊躇いがないわけがない。
そして、出した決意。悩んだ末の決意には、迷いがない。
俺をまっすぐ見つめる彼女の目を見て、やはりクリスと似ているなぁと思ってしまう。
だから、俺は言った。
「そうか、アクアマリン、いろいろと悩んだうえで出した答えなんだな」
と。まるで彼女の心を見透かしたように頷く俺を見て、彼女は「はい」と小さく答えた。
彼女をそこまで突き動かすのは、もしかしなくても“水の精霊”と“水の宝玉”の存在だろう。
神子と精霊の関係は友であることは、俺が出会った四人の神子に共通するものであるからな。彼女もまた、俺と同様、水の宝玉は恐らくウィンドポーンにあることに気付いているのだろう。
そして、水の精霊がいなければ、この国は衰退する可能性があることも気付いているのだ。
地下水脈を通ってきて、俺は気付いている。
この地に水が集まるのは、ウィンドポーンから大量の水が流れ込んでくるからで、その水の流れは明らかに不自然であると。それは水の精霊の力によるものなのだろう。その水の流れがまだ失われていないことからも、“水の精霊”と“水の宝玉”がアクアポリスかウィンドポーンに存在することは予測できる。彼女は町のため、国のため、そしてなにより精霊のためにウィンドポーンに行こうと決意したのだ。
「お前の気持ちはよくわかった」
「じゃあ!」
「だが、断る!」
「え!?」
アクアマリンが驚いた顔になった。たしかに、今の話の流れだと、彼女を連れて行く流れだったからな。
「どうしてでしょうか? 自分の身は自分で守れます! マユ様ほどではありませんが、私も簡単な水魔法なら使えますから」
アクアマリンが俺に食い下がるが、
「戦力がどうとか関係ない。ただ、クリスとキャラが被ってるから」
と俺は言い切った。それに対し、アクアマリンは開いた口が塞がらないといった感じで、茫然自失状態になっている。
うん、やっぱりクリスに似ているから少しSっ気が出てしまうな。いけないいけない。
ちゃんとフォローをしておかないと。
「悪い悪い、三割は冗談だ。さすがに水の神子という立場は目立ちすぎる。潜入には向いていない。今から行うのは外交じゃなくて侵入と奪還だから、身体的にも俺やクリスに劣るお前を連れて行くのは足手纏いになる。それで連れていけないって言ったんだ。それより、アクアマリンには出来るだけ早くウィンドポーン以外の四国と同盟を結んで欲しい」
俺はそう言って、通信イヤリングを10個、アクアマリンに渡した。
この通信イヤリングにつけられたガラス玉は、それぞれ、白、赤、黒、黄、緑の色がついている。
「これは、遠くの人と会話できるアイテムだ。それぞれ、アークラーンのシルフィア、フレアランドのレイシア、ダークシルドのり――えっと、あいつの名前なんだっけ?」
「ラミー様ですね」
「あぁ、そうそう。ラミーだった」
実はその名前は鈴子の影武者の名前であって、彼女自身の名前ではないのだが、それを言うとややこしくなるので、ここでは言わないでおく。
「それと、アースチャイルドのアルジェラとのホットラインになる。それと、この緑の通信イヤリングは、ウィンディアに渡すつもりだ。既に四人には渡しているからな、これを使って同盟に関する手続きを行ってくれ。このバカな戦争を終わらせないといけないからな」
「コーマ様に繋がっているイヤリングはないのですか?」
「ない。俺はあくまでも裏方だからな。別に常につけておく必要はない。普段は腹心とかに預けておいてもいいだろうな」
「……何から何までありがとうございます」
「あぁ、何から何までって言うのなら、水の精霊と水の宝玉は俺に任せろ」
俺がそう言うと、アクアマリンは何故か黙った。
そんなに俺が信用できないのか?
そう思ったら――
「コーマ様のことを信用して話します……実は、私の姿をしていた彼女に心当たりがあるんです」
「真アクアマリンは、偽アクアマリンに心当たりがあるのか?」
「…………その呼び方はやめてほしいのですが、はい。ちょっと複雑な話になるのですが、水、風、火、土の自然の四属性を四元素といい、それに光と闇を加えた六つの属性の六元素があり、その精霊によって特性があります。水の属性はその中でも最も多い特性を持つ元素であると言われています。生命、流動、冷却、そして、反射」
「反射――あぁ、明鏡止水みたいなものか」
俺の相槌に、アクアマリンは頷いた。
「鏡の属性の魔法を水鏡と私は呼んでいます。その中には、他者の複製を作り出す能力もあります。でも、一応は神子である私の分身を作るなど、そんなことをできるものは、私はただのひとりしか心当たりがありません」
「それは誰だ?」
俺が尋ねると、アクアマリンは何故か黙ってしまった。
よほど親しかった者なのか――それこそレイシアとクリスみたいに、神子の座を奪い合った者とか?
そう思っていたら、ようやくアクアマリンはその重い口を開いた。
「――水の精霊であり、私の友であるディーネしかいません」




