水の鏡
~前回のあらすじ~
マユVS.アクアマリン
俺が泉の中に入ろうとすると、泉が光輝き、まるで鏡のように俺の姿を映し出した。
いったい何がどうなった?
俺の疑問を、マユと向かい合う偽アクアマリンが答えた。
「明鏡止水――静かな水に張る鏡の結界。私が術を解かない限り、この水の中にはもう何人たりとも入れません。たとえ、私が死してもね」
おいおい、明鏡止水って、確かに必殺技っぽい名前だけど――本当に水を鏡にするなんてそんな技ありかよ。
と思いながら、俺が全力で水の鏡を叩き割るべく拳を振り下ろした。
轟音が飛び交う。神殿が大きく揺れる。
だが――割れない。
ただの水だったはずなのに、割れない。
「無駄だと言ったでしょう」
偽アクアマリンが表情を変えずに言った。
あれだけ全力で殴って、あれだけ神殿や下手すれば町中が揺れただろうに、なんでそんなに冷静でいられるんだ?
クリスなんて「何するんですか、コーマさん!」といった感じで俺を睨み付けているというのに。
そして、そのクリスは自信満々に言った。
「ふふふ、コーマさん! 割れないのなら、消せばいいのです」
そう言って、クリスは炎の剣を抜いた。
クリスが力を籠めると、炎の剣から灼熱の炎が出てきた。
おいおい、たしかに俺の作り出した炎の剣は、超が付くレベルの高性能の剣だ。
その値段は金貨1800枚――18億円の値段がついたほどだ。
だが――あくまでも炎属性の剣であり、ここまでの炎を生み出す力なんてなかったはずだ。
それに、この力――どこかで見た気がするんだが――
そう思った直後、炎が子供のような姿に変わった。
そして――
『やぁ、久しぶりだね、コーマ』
「お前! もしかしてサランか!」
『分身だけどね。この炎の剣が、火の宝玉ほどの力はないとはいえ僕と親和性があり、それとクリスの神子としての才能がなかったらここまで力は出せないけどね』
「ちょっと待て! いろいろ情報が錯綜して混乱してきたんだが、ていうか、こんな時に情報を出すなよ! へ? クリスに神子としての才能があるって?」
『うん、レイシアに次ぐ神子としての才能があったんだけどね――って聞いてなかったの?』
「言ってませんでしたっけ?」
クリスが尋ねた。
「聞いていないし言ってない」
まったく、こいつはなんでそんな大事なことを言い忘れるんだよ。
なるほど、つまりクリスはこんなこともあろうかと、炎の剣にサランの分身を忍び込ませたわけか。
やりたい放題だな。分身とはいえ、精霊の無断持ちだしが許されるわけないのに。
『というか、クリス、いつの間にこんなに力を蓄えたの? もしかしなくてもレイシアの力を越えているよ。こうして分身とはいえ僕の姿が実体化されているんだし』
「もちろん、修行しましたから」
クリスは自信満々に言うが、十中八九、俺が飲ませ続けた力の神薬のおかげだろう。
「で、クリス。サランを出してどうするつもりだ?」
「簡単です。水と火。合わされば火が消えると思うでしょう? でも、時には火が水を消すこともあるんです!」
クリスがそう言うと、炎の剣から溢れ出たサランがその拳を全力で鏡の水を潰しにかかった。
「蒸発! それがもう一つの答えです!」
彼女は宣言した。
そして――
「あれ?」
その水の鏡は先程となんら変わらない姿でそこにあった。
まぁ、そうだろうな。ただの水じゃないんだし。
『やっぱり無理だね。明鏡止水で作られた水はその衝撃を全て受け流すようにできているんだよね。しかも、威力を大幅に軽減させて』
なるほど――水だから流れるってか。
そういえば――確かに俺が全力で床を殴ったにしては、神殿は崩れていないな。
サランの炎で水の周りの床が焦げているのも見える。
「コーマ様、手伝ってください! ちょっと危ないです! 明鏡止水のせいで……水の補給ができなくて」
マユが叫んだ。俺達がいろいろとやっている間に、ひとりで偽アクアマリンの攻撃を防いでいたのだろう。
マユが張っている水の壁を貫こうと水の槍が無数に飛んできて、その壁を大きく変形させている。
と思ったら、水の槍がひとつ、水の壁を貫き、マユの足下に刺さった。
神殿の床に穴が開く――
「マユ! ナイスだ! もうちょっと持ちこたえてくれ!」
俺はそう言うと、アイテムバッグからエントキラーを取り出し、大きく振り上げた。
「斧でも剣でも無駄です! 私の明鏡止水を破ることなどできるはずがありません」
偽アクアマリンが叫んだ。
だが、俺はそれを無視してエントキラーを振り下ろす――明鏡止水によって張られた水の――横の床を。
「なっ」
その声は、クリスのものか、マユのものか、それとも偽アクアマリンのものかはわからない。
だが、この一撃で十分だった。
床が大きく割れ――巨大な亀裂を作り出す。
その亀裂は神殿の床中に広がり、そしてその亀裂の中に泉の中の水が入り込む。
「偽アクアマリン、お前言ったよな。明鏡止水は静かな水に張る鏡の結界だって。なら、その水が漏れだしたら、水が流れたらどうなるんだ? 答えは簡単だよな。明鏡止水は止まっているからこそ明るい鏡のように映るんだ」
俺の前にあった鏡のような水が、パリンと音を立てて割れた。
そして、明鏡止水が解除されたことで、水の補給ができるようになったマユが叫んだ。
「水の弾!」
マユの声とともに、泉の中の水から無数の銃弾が生み出され、偽アクアマリンに衝撃を与えた。
偽アクアマリンはその衝撃によろけ――先ほどと同じような音――まるで鏡が割れるような音とともに砕け散り、消え失せた。
……死んだ……のか?
俺が疑問に思っていると、背後でアクアマリンが立ち上がっていた。
彼女は消えた偽アクアマリンを見て、何か驚いたような顔をしていた。
驚きたいのはこっちも同じだよ。
偽アクアマリンは砕け散るし、なにより――
と泉の底にあるそれを見て俺は首をひねった。
水の中にあったから色がよくわからなかったが、水の多くが漏れ出してしまい、今はその色もよくわかる。
その宝玉は緑色に輝いていた。
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風の宝玉【魔道具】 レア:72財宝
風の精霊の力を宿す宝玉。白く輝く。
6つの宝玉を集めたとき、偉大な力が授かると言われている。
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なんで……なんで風の宝玉なんだよ。
意外とすぐ決着。だが――




