アクアポリス侵略
~前回のあらすじ~
スライムは強かった。
「あれが……もうひとりの水の神子か」
横で倒れているアクアマリンと、双眼鏡の向こう側にいるもう一人のアクアマリンとを見比べる。
そっくりなんてレベルじゃない。双子か、もしくはそれ以上――クローン人間やドッペルゲンガーと言われても納得するレベルだ。
むしろ、隣でのびているアクアマリンよりもオーラがある気がする。
「案外、こっちのほうが偽者なんじゃないか?」
基本スペックが違うというかなんというか、神殿から溢れ出た水の量を見ると、どうも川を作り出したというのも嘘ではないらしい。あれがトリックかなにかだとしたら、日本では魔術師という言葉は消え失せてしまい、小学生のあこがれの職業に奇術師が常にランクインするのではないかと思うくらいだ。
どうやら、スライム達にあの神殿の中の偵察は無理か――神殿の中に入っていったスライムも全員、その核を残して消えてしまったらしい。
その時、通信イヤリングが震えた。
ルシルからか。
「ルシル、どうした? チョコレートが無くなったのなら、コメットちゃんに預けてあるからそれを食べろ。加減はしろよ」
『そうじゃないわよ。そのチョコレートは食べるけど』
とルシルといつものやり取りをした後、彼女からの連絡事項が俺に伝えられた。
『さっき来たスライムがカリーヌに言ったそうなんだけど、えっと、一番大きな建物に入って、核になったスライムが最後に見たから伝えてほしいって。神殿の中の水の底に、コーマが言った丸い球が沈んでいるのを見たそうよ。ところで、そのコメットちゃんに預けているチョコレートって、何? 私、イチゴ味のチョコレートが――』
通信イヤリングをオフにする。悪いな、コメットちゃんに預けているのはバナナ味だ。
にしても、神殿の水の底に沈む玉――やっぱり宝玉は本陣のど真ん中。
虎穴に入らざれば虎子を得ずってか。普通の虎子なんて別に欲しくはないだろうけど、その虎子が72財宝となれば話は別だ。
それに、水の宝玉を手に入れたらこっちのものだ。
スイートポテトをこのアクアマリンの口に放り込めば、アクアマリンを通じて水の精霊が顕現化し、その水の精霊にはっきりさせればいいというわけだ。
どっちのアクアマリンが本物なのかを。
「さて、場は混乱しているからな――俺達が紛れ込んでもバレルことはないだろ」
「コーマさん、そこまで計算していたんですか?」
「まぁな! とりあえず、アクアマリンは負傷者の役で俺が負ぶるから、敵を蹴散らすのはクリスに任せるわ」
「敵って――ほとんどコーマさんの部下のスライムじゃないですか!」
「そっちじゃねぇよ。俺達に気付いて止めに入るアクアポリスの兵を倒していく役目だ。殺すんじゃないぞ。殺しさせしなければ、全員あとで治療してやるからよ」
「……殺しさえしなければいいって……コーマさん、もう言ってることが悪人ですよ」
「悪人はよせ、悪人は」
俺は笑って言った。
「呼ぶとしたら魔王様だ」
グルースは冗談だと思って表情は変えなかったが、クリスはそれを聞いて苦笑した。
もう、魔王という身分も「なんちゃって魔王」っぽく思えてきたんだけどな。
魔王らしいことといえば、勇者を苛める程度のことしかしてないし。
ここはひとつ、魔王らしく一つの国に侵攻してみるとするか。
「じゃあ、グルース。悪いがスライムが戻ってきたらこの転移陣の中に入るように誘導してくれ」
「わかりました。ご武運をお祈りします」
「おう、任せてろ」
俺はそう言うと、気配を消して降りていく。
町の入り口もスライム騒動のせいで混乱していて、冒険者もあちこちで戦っていた。
紛れ込んで町の中に入るのは容易かった。
「負傷者です! どこに連れて行けばいいですか?」
俺がそう叫ぶと、
「この奥の宿屋が臨時病棟になっている! そこに運び込め!」
と戦っている冒険者が叫んで、スライムに斬り込んでいた。
俺達が走り抜けていくと、後ろから、
「そういえば、臨時病棟を作ったのはいいけど、怪我人が出るのははじめてだよな」
「馬鹿言え、これだけのスライムがいるんだ! 怪我人がいないわけないだろ」
「そういえばそうだよな」
という会話が聞こえてきたが無視して走る。
宿屋の前を通り過ぎた。
神殿の入り口は外から見ただけで二カ所あり、一カ所では偽アクアマリンがスライムを遠ざけるべく戦っていて、もう一カ所の入り口では精鋭と思われる兵が八人がかりで守っている。
となれば、忍び込むのは八人がかりで守っている方だな。
俺が走るとスライムたちは避けるように道を開けてくれた。
そして、神殿の裏口にまわる。
そこではスライムたちを一匹たりとも通さないように兵たちが戦っていた。
本当に精鋭らしく、その動きは冒険者の比ではない。しかも、スライムたちは人間を襲わないように命令されているせいで、ワンサイドゲームが展開されている。
俺はそいつらに目掛けて走っていき、
「大変だ! 神子様がお倒れになられた! 皆さんはもう一カ所を守ってください! 神子様を神殿の中で休ませたらここは俺達が守りますから!」
さて、これで騙せるか?
「……背中にいるのは、確かに神子様! わかった、神子様は我等がお預かりしよう! 君たちは持ち場に戻りなさい!」
兵がそう叫んだ。
「くそっ、これがクリスなら簡単に空気に流されて俺の言う通りにしてくれたのに! ということでクリスGO!」
「もう、コーマさん、あとで怒りますよ!」
と言って、クリスが白光の二つ名にふさわしい神速の動きで剣の柄で兵たちの鳩尾を撃ち抜き、一瞬のうちに8人の兵を声を出す間も与えず気絶させた。
そして、俺達が神殿の中に入っていく。
こちら側のスライムには撤退命令を出して。
神殿の中は、ドーム状に広がっていて、その真ん中に泉があった。
この泉の底に水の宝玉があるのか?
そう思ったその時――
「待っていましたよ――侵入者の御二方。そして――私の鏡よ」
偽アクアマリンが此方を向いて立っていた。
おかしい、偽アクアマリンは入口をスライムから守っていたんじゃなかったか?
そう思ったら、なんともう一カ所の入り口には水の壁ができあがっていて、スライムの侵入を防いでいた。
水の壁に当たったスライムは水の力によって弾き飛ばされている。かなり強力な結界のようだ。
そして――
「はじめまして――そしてさようならです」
偽アクアマリンがそう言うと
泉の中の水が宙に浮き、無数の槍の形を作る。
そして、その水の槍がこちらに向かって放たれた――その時だった。
俺達の前に水の壁が現れ、水の槍全てを飲み込む。
「はじめまして――水の神子様。あなたの相手は私が致します」
そう言って、俺達が入って来た入口と反対側の入口に作られた水の壁をなんなく通り抜けてきた彼女は宣言した。
「水の戦いにおいて、私が負けるわけにはいきませんから」
そう、マユは水の戦いのプロ――水の魔王だからな。
そして、俺はふたりが戦っている間に水の底に沈む宝玉を見て――そして言葉を失った。
……これは、水の宝玉じゃない。




