喰らいやがれブラッドソード!
~前回のあらすじ~
コーマがアンちゃんの勇者になった。
一つ問題が起きていた。
ユーリへの連絡がつかない。
いくらクリスやスーが通信イヤリングで呼びかけても、全く返事がこないのだ。
通信イヤリングの不調とかじゃないな……外してるのか?
こんな時に……とはいえ、ユーリは今朝からあちこちを走り回っていることは聞いている。
ということは、問題はユーリの方ではなく……いや、考えても仕方ない。
俺達だけでどうにかするしかないということだ。
俺は胸につけた木のブローチを握りしめる。
こっちは最初からそのつもりだ。問題ない。
そう言わんばかりに頷くと、クリスもスーも俺の気持ちを察し、駆ける。
『コーマの姿も見えたわ……そこを右、細い道にいって』
「こっちか」
人ひとりがようやく通れる道を進む。
『そこを真っ直ぐいったら階段があるでしょ。そこから青い屋根の上に飛び移って』
「屋根の上? ゴーリキはどこかの建物の屋上にいるのか?」
もしかしたらゴーリキは常に屋根の上を移動していたのかもしれない。
設置していた映像送信器の目を偶然にかいくぐっていたのか。
『大丈夫、広い場所だし、平らな場所だから』
俺は言われるまま、アパート風の民家の階段を上り、180度反転、平屋の建物の屋根の上に飛び移る。
ここは、最初にゴーリキと出くわした場所の近くだった。
「屋根の上から獲物を探してたってことか」
『コーマ、そこから赤い三角の屋根が見える?』
「あぁ、見えるぞ……」
『そこの向こうにいるわ』
「わかった」
俺は頷くと、クリス、スーに伝える。
そして、三人で力の妙薬を飲んだ。
ここからは慎重に行き、先制攻撃をしたい。
足音を立てないように近づいていく。
『コーマ、気を付けて、今から7番鳥が彼から死角に入る』
鳥の模型は空を飛び続けている。
同じ位置にいるわけではないので、ゴーリキを映せない時もある。
(大丈夫だ。ゴーリキは動いていないんだな)
『うん、全く動く気配がないわ』
小声で囁き、俺達は屋根の上を進んだ。
途中、路地のためまたいで通れないところがあったが、アイテムバッグから「ただの木の板」を取り出し、橋代わりにして進む。
そして、赤い三角屋根の場所まで来た。
この向こうに、ゴーリキが……赤い屋根を上ろうとしたとき――
「コーマさんっ!」
クリスが俺を突き飛ばした。
突如、轟音が鳴り響き、俺のいた屋根が大きく砕かれた。
屋根が……崩壊した。
屋根裏の骨組みと瓦礫が残っていた。
そして、屋根の向こうにゴーリキの姿が見えた。
こいつ――屋根ごと俺を切ろうとしたのか。
黒い剣が一際大きなオーラを吹きだしている。
「……血……血が足りない……血……血を」
俺とクリスが剣を、スーが短剣を構える。
「血ばっかり言って、あんたは吸血鬼か」
「……私の血はB型なんでおいしくないですよ」
「ただでさえ血液型占いでB型の扱いが悪いのに、お前がB型とかやめろよ」
この世界にも血液型分類はあったのか。とか思ったが。
そういえば、レシピの中に血液型鑑定器って魔道具があったような気がする。
三人で軽口は叩くが、先制攻撃を封じられ、正面から戦うしかなくなった。
しかも向こうは昨日と違いやる気満々ときたもんだ。
最初に動いたのはスーだった。
ノーモーションで放った短剣が狙うのは――まさかの金的位置だった。
だが、それを簡単にゴーリキは打ち払い――だが、一緒に放たれた裸の王様ダガーがゴーリキの右目を捉えた。
いきなりの隠し玉攻撃か。暗器使いなのに隠すつもりはないのか、と思ったが、右目を潰したのは好機とばかりに、クリスが左に回り、ゴーリキと距離を詰める。
そして、別の家の屋根を蹴り、ゴーリキに切りかかった。
しかし、それは予想されたのかブラッドソードで受け止められ――クリスは左手を自分の腰に回した。
そこに携えていた毒刃短剣を抜きゴーリキの背中へと放つ。
右目を負傷しているため完全な死角となった背中をクリスの短剣は見事にとらえた。
スーがここに来る途中に立てた連携案が見事に決まった形だ。
凄いな、これが勇者二人の戦い方か。
即席チームのくせに、立派に連携が取れていやがる。
「ぐあっ……」
即効性の麻痺毒が脳に回ったのか、ゴーリキの瞳の色が明らかにおかしくなる。
意識は失った……なのに。
「ウソ……まだ動くの」
スーが信じられない、と呟く。
「ちっ、剣が身体を操ってるのか」
「そんなことありえるの」
「ありえるんだろうよ」
やはり、あの剣をなんとかしないといけない。
幸い、麻痺毒は脳だけでなく体に回っているはずだ。
ならば――俺はアイテムバッグに手を入れる。
これさえ使えばあの剣を――
「喰らいやがれ、これが俺の奥の――」
刹那――ゴーリキの姿が消えた。
そして、気が付けば――俺の前にクリスが立っていて――ゴーリキの剣が……ブラッドソードがクリスの右胸を貫いていた。
「この攻撃に追いつくか……勇者の名は伊達じゃないな」
ゴーリキが語った。いつもの片言ではない、普通に話した。
そして、右目に刺さっていた短剣を抜き、投げ捨てる。
どういうことだ?
「改めて礼を言おう。この人間の脳が眠ったおかげで、完全に支配下に置くことができた」
そういい、ゴーリキは……いや、ブラッドソードは剣を捻った。
「ぐはっ」
クリスが苦しそうに血を吐いた。
ゴーリキが剣を抜くと、クリスはその場に力なく倒れる。
俺は勘違いしていた。ゴーリキは完全に操られていると思っていた。
だが、違った。
ゴーリキは残った理性で必死に抗っていた。それを俺が奪った。
突如、クリスを貫いていた剣が伸び、曲がり、俺の後ろから跳びかかろうとしたスーを薙ぎ払う。
音がした。
音でわかる、スーは無事だ。屋根から落ちてしまったので骨折くらいはしているかもしれないが、命に別状はないだろう。
そして――俺は――
『コーマ、あなた、また封印が――』
通信イヤリングからルシルの叫び声が聞こえた。俺はその通信機能をオフにする。
「どうした? 従者の男よ。恐怖で動けないか」
ゴーリキが笑って俺に言う。
だが俺は――
《殺せ》
声を聞いていた。
《壊せ、倒せ、潰せ、薙げ、裂け、殺せ、殺せ》
呪詛のような言葉が俺の中に膨れ上がってくる。
そして――力が――力が溢れてくる。
通信イヤリングが反応するがそれを掴む余裕はない。
《殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ》
うるさい。うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい。
俺は胸を掴んだ。木のブローチを、勇気の証を掴んだ。
《殺せ殺せ殺せ殺せ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ》
俺の強い思いが言葉を押しつけていく。
今ならまだクリスを助けられる。
今ならまだこれ以上誰も殺させないことができる。
今ならまだ……俺は勇者でいられる。
「だから、力だけよこせ、大魔王!!!!」
突如――俺の中で力が膨れ上がった。
それを、ゴーリキは……ブラッドソードは感じ取った。
肉が裂け、紫の血が流れ出る。
「なんだ、貴様! なんだその血は!」
「うるせぇ、黙れ、糞剣が! ただの大魔王の血に過剰反応してるんじゃねぇよ!」
「大魔王だと……お前は……まさか」
「あぁ? 俺か?」
ゴーリキの持つブラッドソードが俺の赤い瞳を映し出す。
俺の角を、羽を、赤い皮膚を映し出す。
ぐっ、呪詛の言葉が膨れ上がってくる。
その姿は人間とは程遠い、もはや化け物だ。
俺の中の魔王の血が、殺せという。奴を殺せという。壊せという。
正直、このまま意識を手放しそうだ。
たかが……5%程度の力を解放した程度でこの苦痛なんて。
それでも、俺は意識を保てる理由がある。
何故なら、俺は――
「俺は勇者だぁぁぁぁっ!」
ブラッドソードに映った、俺の勇者の証が俺を正気でいさせた。
そして――俺の拳がブラッドソードにぶつかり、
「喰らいやがれ、アイテムクリエイト!!!!!!!」
俺の左手に握っていた呪いを解くために作ったアイテム、「解呪の粉」によって、ブラッドソードはその姿を変えた。
解呪の粉はアイテムクリエイトと一緒に使うことにより、呪いのアイテムの呪いを消し去る素材アイテムだ。呪いのアイテムなんて持っていなかったからぶっつけ本番だったんだけど、うまくいったようだ。
それにしても、はは、何が出てくるかと思ったら、
……………………………………………………
竜殺しの剣グラム【剣】 レア:72財宝
財宝を守る魔王竜を殺すために作られた剣。
ミスリルをも軽く切り裂く最強の剣。
……………………………………………………
72財宝かよ……。
美しい白銀色の剣に映る、人間の自分の姿を見て、拳から出てくる血を見る。
剣を正面から殴りつけるって、俺もクリスのことは言ってられない。
俺も真正のバカだ。
視界がふらつき、裸の王様ダガーどころか何も見えなくなってしまいそうだ。
安堵と疲労で気を失いそうになる。
だが、俺は最後の力を振り絞り、その最強の剣をアイテムバッグに入れると、代わりにアルティメットポーションの入った瓶を取り出した。
そして、その飲み口をクリスティーナの口の中に無理やり押し込んだ。
もしもクリスが喉を詰まらせて死んだらどうしよう、そんなことを考える余裕はあったが、彼女が無事目を覚ますのを待つ余裕は俺にはなかった。
※※※
僕は見ていた。
玉座に座り、全てを見ていた。
玩具が壊れる瞬間を。
ルシファー、お前はなんて面白いものを残してくれたんだ。
あぁ、ルシファー、僕は生まれて初めて君に感謝した。
ありがとう! 素晴らしい玩具を僕に残してくれてありがとう!
だから、君はあの世で悔やむがいい。
この時代の変化を見物することさえ許されないことを。
誰よりも変化を望み、誰よりも変化を恐れた大魔王よ。
僕が代わりに見届けよう。
この目ですべてを見届けようではないか。
「陛下! 元老院の老害の粛清が終わりました」
「そうか、ご苦労だった。下がっていいぞ」
少年の姿にすぎない僕に頭を垂れる兵を下がらせる。
さて、こっちの玩具はどうしたものか。
サイルマル国の玉座の上で、僕はこれから起こる未来を想像し、静かに笑った。
~グラム~
北欧神話でオーディーンの持っていた剣です。
作中にも書いている通り、切れ味はかなりのもので、鉄をも切り裂くと言われています。もしかしたら、FFに出てくるオーディーンの斬鉄剣は、このグラムがモデルかもしれません。
作中では竜殺しの剣と書いていますが、本物のグラムも竜を殺すためにグラムを鍛えなおしています。コーマのアイテムクリエイトにより鍛えなおした、という意味で、竜殺しの剣として扱うことにしました。




