水の神子アクアマリン
何故、水の神子アクアマリンがこんなところに?
彼女の足には鎖が繋がれ、三メートル以上動けないようになっていた。
トイレ、ベッド、テーブルしかない部屋で、いったい彼女はどれだけの間ここに閉じ込められていたのだろうか?
「変ですよ、コーマさん。水の神子様がこんなところにいるなんて!?」
「そんなの言われなくてもわかってる! アクアマリンって言ったか!? あんたが水の神子って証拠はあるのか? そうだ、水の宝玉は――」
「水の宝玉――は何者かに盗まれてしまいました。もう涙も枯れ果て――私にはあの子の無事を祈ることしかできません……どこのどなたか存じませんが、もうすぐ見張りの者が食事を持って現れます。一度どこかに身を隠されたほうがよろしいです」
そういえば、さっき俺達のことを食事を持ってきた人間だと勘違いしていたな。
いくら神子とはいえ、こんなところに監禁され、食事も与えられないまま生きていることはできないだろう。
神子を監禁している一味――恐らくは現在、アクアマリンとして国を動かしている偽物とその一味といったところか。そして、本物のアクアマリンと直に会う役目。黒幕の側近に近い人間、もしくは黒幕本人かもしれない。
もしかしたら、未知の力の持ち主――魔王クラスの奴が相手かもしれない。
たしかに、一度様子をみるためにここから離れたほうがいいかもしれない――そう思ったその時だった。
足音が近づいてきた。
足音だけではない、杖を突くような音も聞こえる。
魔術師なのだろうか?
だとしたら、こんな狭い場所で魔法を放たれたら、俺はともかくアクアマリンは無事では済まないかもしれない。
俺は剣を構え――あわよくば一撃必殺を決めようと思った――その時だった。
その男は現れた。
杖をついた、茶色い髪の細身の男。杖に体重を預けているため、体の軸が大きく傾いているその男を見て、俺は攻撃をするのをやめた。
「き、貴様はっ! どうしてここにいる!?」
「あ……あぁ……」
俺は頭を抱え、その男を指さす。
「貴様のせいで私は――私は――!」
「そう、そうなんだよ。そんな口調なんだよな。うん、覚えてる、覚えてるんだけど」
「貴様、もしかして私のことを忘れたのか!」
「覚えてるって! ミハエルだろ?」
「グルースだ!」
そうだ、グルースだ。
どうもモブキャラの名前は忘れてしまう。
アルジェラを操り、アースチャイルドをクレイゴーレムだらけにした張本人だ。捕らえていたはずなのに、逃げ出したと聞いたが、すっかり忘れていた。
「コーマさん、知り合いですか?」
「あぁ、グルースっていうんだ。雑魚だから気を楽にしていいぞ」
「はい、雑魚なのは見ればわかります」
「雑魚雑魚言うなっ! ここであったが百年目! 待っていろ! すぐに地上の精鋭を連れて貴様らを――」
踵を返して逃げ出し、階段を上がっていったが、すぐに吹き飛ばされて上から落ちて来た。
そして、階段からマユが降りて来た。
「マユ、グッジョブ――」
「えっと、軽く押しただけなんですが……あまりにも弱そうで、そのまま通したんですが、心配になりまして……」
グルースは軽く気を失っているようだ。
……そういえば、こいつは言っていたな。
アルジェラのクレイゴーレムが世界を満たした場合、このアクアポリスを貰うと言っていた。そのグルースがアクアポリスにいる。それは偶然なのか?
もしかしたら、グルースには最初からアクアポリスと――アクアマリンを監禁している偽アクアマリンと深いつながりがあったのではないだろうか?
「アクアマリンはいつからここに監禁されているんだ?」
「わかりません……が食事の回数から推測すると150日程度でしょうか? 食事はおそらく一日二回でしたから」
150日前?
戦争がはじまる少し前じゃないか。つまり、戦争を起こしたときから、すでに水の神子は偽物だったというわけか。
俺はグルースの体をまさぐり、牢屋の鍵を見つけ出した。
「クリス!」
名前を呼んで鍵を投げると、クリスはその鍵を受け止め牢屋の錠を外す。
ただ、鎖の鍵は持っていないようだ。最初から逃がすつもりがないから、鍵を持ち歩く必要もないってことか。
「ていうことで、クリス、無理やり鎖を解いてやれ」
「解けって、いくら力があるとはいえ、鉄の錠を手で割るなんてできませんよ……無理やり外すとアクアマリン様を傷つけちゃいます。とりあえず、鎖を斬りますね。器材があれば外せると思いますから、続きは別の場所で専門のひとに見てもらいましょう」
クリスはそう言うと、剣を抜き、鎖をその剣で斬った。
足には僅かに鎖が残っているが、歩く分には支障はないだろう。
「まぁ、今はそれで我慢してもらうか。っと、アクアマリン、とりあえずこれを飲め。苦いけど、我慢してくれ。あと、これもな」
俺はアルティメットポーションと力の神薬をアイテムバッグから出した。
まともに動かなくなっている彼女の力は著しく低下している。
「ありがとうございます」
アクアマリンは頭を下げ、薬瓶に入ったアルティメットポーションを一気に、表情をゆがめることなく飲んだ。
そして、彼女は驚くように自分の手を見た。
「……光が……光が見えます!」
アクアマリンは感動し、震える声で言った。
「そりゃ見えるさ。実証済みだからな」
アンちゃんと闇の神子――鈴子とその影武者相手に使っている。
全員無事に目が見えるようになった。
さて、アクアマリンを助けたら、次にするのはただ一つ。
水の精霊と、水の宝玉の確保だ。
水の精霊さえ手に入れたら、このアクアマリンが本物だという証明になり、偽物を追放するのが容易になるからな。
「コーマ様、この人はどうしましょう?」
マユが気絶したグルースの処遇を俺に尋ねた。
そうだなぁ、こいつが死んだらアルジェラが悲しむし。
よし、ここはひとつ、性格矯正カリキュラムということで――
「ルシル料理の刑でカンベンしてやるか」
俺はそう言ってニヤリと笑った。
ルシル料理が性格改善の効果があることも、空き巣相手に実証済みです。




