激流の向こうへ
~前回のあらすじ~
上方に向かう激流を発見した。
「凄い水流ですね……コーマさん、ここを上がるんですか?」
他の水脈もここに集まっているようだ。
ということは、この上がアクアポリスなのか?
「いや、さすがに俺もここから上がるのはちょっと勇気が必要だ……せめてこの水流がどういう感じで流れているのかわかればいいんだが……」
とはいえ、うーん、どうしたらいいか。
ここまで来て引き返すのも癪だな。
「そうだ! コーマさん、前に映像送信機と映像受信器ってアイテムを持っていたじゃないですか。あれで映像送信器を水に流して、受信器で見るのはどうですか?」
「……あぁ、クリスにしてはいい考えだが、あの機械、実は水が苦手なんだよ。雨くらいなら平気だろうが、水に沈めるのは論外だ」
持ち運び転移陣を流して、そこに転移するのも論外だ。転移先の安全が確認できない転移ほど危険なことはない。それに、転移陣がきっちり開く保証もない。
誰か、水のプロがいたらいいんだが。
誰かいたような気がするんだよな、水のプロが。
「そうだ! あいつがいたじゃないか!」
俺はそう言うと、天井に持ち運び転移陣をくっつけて、魔王城に移動した。
※※※
「あ、コーマ、おかえり」
魔王城の会議室では、相変わらずルシルが寝そべって足の裏をこちらに向けて、板チョコを齧っていた。
「おう、ルシル、ただいま。といってもすぐに出ていくけどな」
俺はそう言うと、ダッシュで上の階層に向かった。
その階層は水で満たされた海の階層だった。
この迷宮で唯一の海の迷宮。
海岸も作成して、潮干狩りも可能になっている。
前に魔王軍幹部全員で潮干狩りに来た時は楽しかったな。貝の味噌汁も旨かった。
そう、ここには水のプロがいる。
「コーマ様、いらっしゃい。どうしたんですか?」
スカートを履いた白い髪の美少女、マユが水の中から言う。普段は喋れない彼女も、水の中では会話をすることができるからな。
「あぁ、マユ、ちょうどよかった。ちょっと気になる場所があってな」
俺はマユに、事情を説明した。
激流の先がどうなっているか確かめる必要があることを告げ、マユにこういったのだ。
「だから、マユが被っているウォータースライムを貸してくれないか? ウォータースライムは水のプロだからな。水の中に入って激流の流れを調べてもらって――」
「あの、コーマ様、そんなことをしなくても、私が潜って調べればいいのでは?」
「え? マユってそんなことできるの?」
「私、人魚ですし、コーマ様からいただいている力の神薬のおかげで泳ぐ力も強く……あの、どうなさいました?」
ぼぉっと考える俺に、マユが首を傾げた。
あれ? ……あぁ、そうだったそうだった。
「そういえば、マユって人魚だったんだな」
「……なんの魔王だと思っていたんですか?」
「ついつい、ウォータースライムの魔王だと」
マユのビンタが俺の頬を見事に捉えた。
※※※
ということで、マユを連れて、俺は激流のところに戻った。
マユに、天井に持ち運び転移陣を張りつけていることを伝え忘れたため、彼女は頭から落ちてしまった。
「マユ、大丈夫か!」
天井のツララのような岩に掴まりながら、俺は落ちたマユに向かって叫んだ。
もっとも、この下の水はかなり深いのは、転移陣を貼りつけた時点で確認済みだ。
「はい、大丈夫です!」
声が聞こえてきた。
その下半身はいつもの二本の足ではない。魚のそれになっていた。
「マユさんって人魚だったんですか!?」
「あれ? あぁ、クリスは知らなかったのか。俺も忘れていたけど、そうなんだよ」
クリスはじっとマユを見つめ、
「……コーマさん、ひとつ気になるんですが」
「どうした?」
「マユさんって、普段はパンツを履いていないんでしょうか? あの姿だとパンツは履けませんよね」
最初にそんな疑問を口にするなよ……俺も気になってきたよ。
頭上でそんなことを話されているかどうか知るはずもないマユは、
「それでは行ってきますね」
というと、天井へと上がっていく激流に身を任せ、登っていった。
まるで鯉の滝登りだな……とか失礼なことを思って。
そして、五分後。
マユが戻って来た。
「どうだった?」
「ちょっと入り組んでいて、お二人がそのまま流れに身を任せて登るのは危険です。コーマ様、クリスさん、エラ呼吸ポーションを飲んで私に掴まってください。三人で行きましょう」
「うぇ、またあれを飲むんですか? マユさん、私は十分くらいなら息を止めていられますから」
クリスは嫌がっているようだ。十分息を止められるのか。それは普通に凄いな。まぁ、俺の世界のギネス記録はコンディション管理も必要ながら、二十分を超える記録が樹立されているから、不可能ではないのだろう。でも――
「ダメですよ、クリスさん。酸素が失われていくと捕まる力も弱まって、私から手を放したら岩に激突する恐れもあります。しっかり掴まってください」
「そういうことだ、諦めろ」
「うぅ……わかりました」
クリスは涙目になりながら、エラ呼吸ポーションを飲んだ。三回くらい吐きそうに「おぇおぇ」言いながら。その顔は女性として絶対に見られてはいけない顔だ。仮にクリスがアイドルで、これがテレビで放映されていた場合、モザイクをかけてあげないといけないと今後の活動に支障がでるというくらいに酷い顔をしていた。
飲みなれないんだろうな。
「……うぅ、いいですよ、マユさん。行きましょう」
「よし、マユ、頼む!」
俺はそう言って、マユの下半身に抱き着き、
「あっ……コーマ様、ダメ……そこはダメです」
「コーマさん! いったいどこを触ってるんですか!」
「悪い……って俺が悪いのか? ……普通に腰に抱き着く」
腰の部分を触ったほうが悪いと思ったのが裏目に出た。
どうもマユの下半身には敏感な場所があるらしい。
クリスも前から腰に抱き着き、まるで俺とクリスふたりでマユを挟んでいるような形になる。
ちなみに、俺の手には光の玉が入った小瓶が握られている。
「マユ、この体勢でも泳げるのか?」
水の中で俺はマユにそう尋ねた。
「はい、いけます! それでは行きます!」
そう言うと、マユは下半身をうねるように動かし、激流の中へと入っていった。




