このおにぎりを食べてみろ
結局、日本について話し終わる頃には夜が明けてしまった。といっても地下なので太陽の光は入ってこないが。睡眠代替薬を飲み、俺達は地下水脈を下っていくことにした。
さすがに泳いで行くのは疲れそうなので、足を用意することにした。
「なんですか、コーマさん、これ……」
「なにって、俺が用意した足だよ。見ればわかるだろ」
「足って……普通水の足だと船とかですよね? これ、どう見ても靴じゃないですか」
うん、まぁ、靴だよ。
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水蜘蛛改【靴】 レア:★×5
水の上を大地を踏みしめるように歩くことができる靴。
名前だけとはもう言わせない。逆境に打ち勝った。
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円形に広がった水蜘蛛改。一応、魔石を使って浮かぶんだけど、これを付けると歩くように水の上を進むことができる。
「これ、凄いですね。数を用意できたら海の上に住むこともできますね」
クリスは最初は恐る恐る水の上に立ったが、本当に普通に歩くことができることに驚いていた。
ただし、この水蜘蛛改、どうしてもガニマタになるので、女性が使うにはかっこ悪いんだが、まぁ、クリスだから別にいいよな。
ということで、俺とクリスはふたりで歩いて地下水脈を下っていった。水が流れているため、まるで動く歩道のようにすいすい進む。
「コーマさん、この水、少し上に上がっていっていませんか?」
「……上がってるな」
水嵩が増しているというわけではない。本当に、水流が僅かだが斜め上に流れていくんだ。
いったい、この水はどこに向かおうとしているのか。
水脈の速度はだんだんと増していく。
とりあえず、俺とクリスは立ったまま、食事をすることにした。
「昼飯はおむすびでいいよな?」
「おむすびって何ですか?」
「おにぎりのことだ」
「あぁ、おにぎりですか……おにぎりってなんですか?」
うん、反応が相変わらずクリスだ。
ちなみに、おにぎりとおむすびの違いは、おむすびは三角形限定であり、おにぎりは形にこだわらないという違いなんだとか。
「なんですか、これ。黒いですよ」
「海苔で巻いたからな」
「ノリってなんですか?」
「海草だよ」
「海草!? これ、草なんですか?」
まぁ、草には見えないよな。
それにしても、最近、クリスって疑り深くなったよな。俺が嘘ばっかりついたせいか。良い傾向だな
、うん。これでそう簡単に騙されることはないだろう。
昔は、海苔が食用の紙を黒く染めた物だと言っても信じてくれただろう。
ちなみに、俺はコンビニで売っているパリパリ海苔のおにぎりも好きだが、ご飯についてある程度時間が経過した、海苔が少し湿った状態のおにぎりも好きだ。
ちなみに、これは作った直後にアイテムバッグに入れたため、海苔はパリパリの状態だ。
「あ、これ、中身が米なんですね。お米の中に入っているのは何ですか?」
「あぁ、お前が今持っているのは無難なツナマヨだ。あと、紅鮭、エビマヨにした」
本当のおにぎり好きの人間からしたら、無難=ツナマヨという図式は成り立たないかもしれないが、ここは一応は異世界。いきなり梅干しは絶対にないのは理解してもらいたい。いや、美味しいよ。俺の自家製梅干しは。この前食べたけど、まだまだ漬けている期間は短いけれど、ごはんが進む進む。でも、それが異世界人の口に合うかといえば話は別だ。残念ながら、メイベルの口には合わなかったようだ。俺の故郷の食べ物で、好物だと言ったら、無理して食べようとしていたが。
「じゃあコーマさんのは別なんですか?」
「あぁ、俺のはお前には絶対に食べさせないから安心しろ」
笹にくるまったおにぎりを三つ見せる。
クリスは俺のおにぎりをじっと見つめ、
「ひとつ貰いますね」
そう言って、俺のおにぎりを奪った。
「あ、こら」
「いいじゃないですか。私のべにざけ? あげますから」
そう言って、クリスは俺の思惑通りそれを食べた。
かぶりついて、クリスの顏が歪む。
「……な、なんですか、これ。臭い、臭いです……あ、中身腐ってるじゃないですか?」
「だから食うなって言ったんだよ。腐ってるんじゃない、これは発酵しているんだ」
俺はそう言い、クリスからおにぎりを奪い返した。彼女の口から糸が伸びる。そう、これはただのおにぎりではない。納豆おにぎりだ。コンビニでは普通、納豆おにぎりは売られることはない。温かいご飯の中では菌が繁殖しやすく、ご飯が腐りやすくなるからだ。納豆巻きは酢飯を使っているからセーフなんだとか。過去に一度、有名コンビニで販売されたことがあるはずだが、期間限定で、定番メニュー化することはなかった。でも、この納豆おにぎりは普通にうまい。
「コーマさん、それも日本の料理なんですか?」
クリスが(そうとう不味かったのか、それとも辛子がきつかったのか)涙目で尋ねた。
「そうだぞ。俺の国に千年近く前から伝わる伝統料理だ」
といっても、全国的にスーパー等に並び、食べられるようになったのは、実は平成に入ってからなんだけどな。よく、関西よりも西側の人間は納豆が嫌いだという偏見があるが、実はそうではない。皆、納豆が好きな人は結構いる。だが、納豆をふだんから食べる習慣が子供のころになかったからだけなのだ。
ちなみに、この世界でも、カリアナでは普通に納豆が食される。
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納豆【料理】 レア:★★
大豆を独自の製法で発酵させた料理。
臭くて食べるには勇気がいる。
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となんとも残念な鑑定結果が出た。おそらく、当時のブックメーカーも納豆は食べていないのだろうな。今度、現在のブックメーカーのところに納豆を持っていき、食べさせてみよう。
どんな顔をするだろうか?
なんで、納豆を食べたことが無い人に納豆を食べさせるのってこんなに楽しいんだろうな?
とか思っていると、遠くに何かが見えた。
「クリス! 跳ぶぞ!」
「はい!」
それに気付いた俺とクリスは大きく上に跳び、頭上にツララのように伸びている石に飛び移った。
そして、俺達が見たのは、まるで間欠泉のように上方へと吹きだしていく激流だった。
作者は納豆は好きなのに、月に1パック買う程度です。
納豆を毎日食べるという習慣がないのが原因です。
関西人が納豆嫌いという人が多いですが、たぶん、習慣の問題です。




