地下水脈の中州で
~前回のあらすじ~
井戸の中にダイブ
真っ暗な井戸の中に落ちる直前、俺は酔っぱらったクリスの口の中にある薬を飲ませた。
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エラ呼吸ポーション【薬品】 レア:★★★★
飲むと水中で呼吸できるようになる薬。効果は1時間。
魚味の薬。ポーションの中でも屈指の不味さを誇る。
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「生臭っ!? え? きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
自分が落ちていると理解したクリスが絶叫するが、俺もそれを無視してエラ呼吸ポーションを飲む。昔はこれを不味いと思っていたものだが、ルシル料理を食べ続けた俺にとって死角はない。むしろ魚の風味が効いて旨いじゃないか。醤油が欲しくなるな。
そして、俺はそのまま地下水脈へと落ちた。水飛沫を立てて数メートル沈んだ後、浮かび上がる。意外と流れは速いが、流れに逆らおうっていうわけではない。流れに身を任せるだけだ。
幸い、地下水脈の川幅は広く、上には空気も溜まっている。
水面から顔を出し、
「明かり!」
と光魔法を唱えると、光の玉が宙に浮かび、地下水脈を照らしだす。
「よいしょと」
「コーマさん、光の玉をロープで縛るなんて、世界の法則を軽く無視してませんか?」
「いいんだよ。世界の法則なんて、ルシルの料理が存在している時点で最初から無視してもいいだろ」
まぁ、ロープで縛るのはイメージがよくないか。それなら、瓶の中に入れておくか。
大きな瓶の中に入れ、それを浮き代わりに抱いて移動することにした。
「コーマさん、なんで私達川の中にいるんですか?」
「目的地が変更になった。アクアポリスに向かうことにする」
「アクアポリスですか……水の都ですね。でも、なんで地下水脈から移動するんですか?」
「その方が早いからだ」
「あぁ、なるほど。納得です」
それで納得するなよ。
それにしても、やはり地下水は少し冷たいな。
クリスもすっかり酔いが冷めたようだ。
泥酔状態での遊泳は危険だからな。
「とりあえず、どこか適当な場所で休憩するか。夜も遅いし」
いくら地下水脈といえど、どこか休憩できる場所はあるだろう。
暫く流れに身を任せていると、中洲が見えた。
とりあえず、そこで休憩することに。
アイテムバッグの中から枝を取り出し、
「火炎球」
と魔法を唱えてたき火にした。
「コーマさん、休憩するなら魔王城に戻ったらどうですか?」
「あぁ、今日はいいや。ちょっとゆっくり考え事もしたいしな。クリスはラビスシティーに戻るか?」
「コーマさんがいるのなら、私もここにいますね」
そう言って、クリスは「ちょっと寒いですね」と言って、俺に少し近付く。
たき火の枝がはじける音がした。
「あの……私、コーマさんのこと何も知らないんですけど、コーマさんって一体、なんで魔王をやってるんですか?」
「……クリス、何もルシルから聞いてないのか?」
「はい。何も」
そうか、クリス、何もしらないのか。
「俺、この世界の人間じゃないんだ」
「あの、私は真面目に話してるんですよ?」
「だよな。まぁ普通に聞いたら冗談だと思うだろうが、本当の話だ。俺はこの世界の人間じゃない。ルシルによってこっちの世界に召喚されてな」
俺はそれからのことを語った。魂の杯によって、ルシファーの力を手に入れたこと。それによりアイテムクリエイトの力を手に入れたこと。その後、食糧不足になり町に出たところでクリスに出会ったことなどを。
「そうだったんですか。ねぇ、コーマさんの世界について話してくださいよ」
「俺の世界についてか……そうだな。俺の世界は数百年前まではこの世界とほとんど変わらない世界だったんだが、魔法もなければ魔石も魔物もいない、そんな世界だったんだ」
「え? それってかなり不便じゃないんですか?」
「不便だな。でも、蒸気機関っていう水と火からエネルギーを作る技術が発達してな――」
俺は産業革命、電気エネルギー、飛行機などについてできるだけクリスにもわかるように説明した。もっとも、学校の成績は平均レベルでしかない俺の説明は完璧とは言い難いが、それでもクリスは真剣に話しを聞いた。
「つまり、コーマさんの世界は魔法などを魔法以外のエネルギーで再現しようとしていたわけですか」
「そうなるな。でも、凄いんだぞ。人はその力で月まで行ったんだからな」
「月まで!? それは流石にウソでしょ?」
うん、その反応が見たかった。でも嘘じゃない。
人間は月まで行っている。アポロ計画について説明した。ついでにア○ロチョコについても説明した。ア○ロチョコはキノ○の山とが同じ型で作られていることも説明したが、目がキョトンとなっていたので、日本の雑学が虚しいと実感した。今度ルシルにでも話してやろう。
「そこまで凄い技術があるのなら、天の地へと行けたんじゃないんですか?」
「天の地?」
「天の地はこの世界の伝承です。神々が住まう地であり、この世界に住むすべてのひとは、善行を積むと天の地へと帰ることができるそうなんです」
「へぇ、天の地ね……」
天国みたいなものかな。
さすがに日本の技術が発展し、火星はおろか、太陽系の外に飛び出すことができるようになっても、そこに行くまでの技術は発展しないだろう。
天国が実在し、それが異世界のような場所だとするのなら、先にそこにたどり着くのは科学ではなく魔法の分野だろうな。
「さすがにそこまでは行けないなぁ」
俺がそう言うと、再度たき火に使っている枝がパチっと音を立て、火の粉をまき散らした。




