風車の村に到着
~前回のあらすじ~
クリスと一緒に寝なかった
翌朝、俺とクリスは昨日の小屋に戻った。外には人の気配はない。
さて、このまま風の神子の居場所まで行くのもいいが、情報収集をしたい。
「クリス、この国で首都以外で人が多く集まる場所ってどこだ?」
「そうですねぇ。風車の村は観光地にもなっていますから、いろんな人が集まると思いますよ」
「風車の村?」
「はい、凄いんですよ。多くの風車が立っていているんです。その動力を利用して、まるで魔道具のような設備があるそうなんです。話でしか聞いたことがなかったので、一度行ってみたかったんですよ。ちょうど首都への通り道にありますから」
「それは面白そうだな。よし、今日はそこに行こうか」
気持ちは本当に観光地巡りだ。風車というと、オランダの世界遺産キンデルダイク・エルスハウトの風車群が有名だな。
牧歌的な風景が広がっているんだろうなぁ。
そういえば、オランダもこの国と同じ、同じ海抜ゼロメートルが多いからな。そういう意味では共通点も多いんだろう。オランダでの風車の用途はもともとは製粉目的で作られ、後には排水目的に使われるように整備された。さて、この国の風車はどのような感じなのだろうか?
時速40キロメートルくらいのペースで歩くこと5時間。昼過ぎに俺達は風車の村に到着した。
「あれが風車か……イメージとは違うなぁ」
風車というと、円筒形の建物の上の三角屋根に、四枚の羽根のついた羽根車が回っている。そういうイメージで、だいたいあっている。唯一違うのは羽根の数だ。目の前の風車はなんと十二枚の羽根がついている。羽根が多いせいで、風車の回転速度もかなりゆっくりになっているようだ。
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多翼型風車の羽根【部品】 レア:★★
風車の羽根。この羽根は比較的作りやすく故障しても修理しやすい。
風車は羽根が多いため回転速度が遅くなるが、トルクは強くなる。
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こういう時に鑑定は便利だな。トルクってどういう意味かわからない。アイテムバッグの中から辞書を取り出して調べてみると、回転している物体の軸の周りに働く力のこと、とある。
つまり、力強くなるってことか。
「コーマさん、どうしたんですか? 急に辞書を取り出して」
「クリスみたいにならないために知らないことは調べるんだよ」
日本だと、力よりも速度を優先してしまう風潮があるが、やっぱりいいな、スローライフって。のんびりしてしまいたくなる。
この村には、目の前の風車の他にも七つの風車がある。流石は風車の村といったところか。
あとは風車が動いたら完璧なんだが、風が吹いていないのか、風車は回っていない。
「おや、旅の方かね? 珍しいね、この時期に」
そう言って杖をついて現れたのは、孔雀のように派手な民族衣装に身を包んだ老婆だった。こういう民族衣装を着ている現地のひとと会うのも旅の楽しみだな。
「ええ。風車を見に来たのですが、タイミングが悪かったみたいですね」
「時期の問題じゃないよ」
何故か疲れたように言う老婆の後ろを、荷車を引く男のひとが通っていく。
荷車の後ろを奥さんが押し、ふたりの子供が荷車の後ろに座って足をぶらぶらさせている。
馬もいないのかな。本当にのんびりしている。
荷物は布で覆われていて、何を運んでいるのかはわからないが。
「……行くのかね? ミグライさん」
老婆が男のひとに尋ねると、男のひとは立ち止まり、頭を大きく下げた。
「ええ。お世話になりました、村長」
そういって、男のひとは荷車を押して去っていった。この老婆、村長だったのか。
それにして、……なんだ、この光景。まるで……
「夜逃げみたいですね」
デリカシーがないのか、クリスが言った。
でも、本当にそんな光景だ。
「これで今月に入って三世帯、今年に入ってもう十二世帯になるかね。彼らのように生活が厳しくでていく村人は」
……えっと、観光に来たはずなのに、なんか嫌な雰囲気だな。
「何があったんですか?」
「……嬢ちゃんたち、この村の近くに川も泉もない。なら、水はどっから手に入ると思う?」
「井戸はないんですか?」
「そうだね、あるよ。ついておいで」
老婆はそう言うと、村の中央に向かう。
そこには井戸があった。古い井戸で、子供が水を汲み終えたのか、水瓶の水を大切に抱えて運んでいた。
「井戸が枯れかかっているんですか?」
「いや、水は豊富だよ。汲んでみたらわかるよ」
「わかりました」
クリスが頷き、井戸の滑車についたロープを引く。引く。引く。
しかし……
「全然見えてきません」
クリスが不安になってきた。
「これ、いつまで引けば……あ、見えてきました」
ロープを引くこと七分。ようやく見えてきた桶の中には水が入っている。
だが、クリスの力で七分。普通に、それこそ先ほどの子供が水を汲もうとしたら何十分かかるだろうか?
「この井戸の底は、地下水脈に通じているのさ。本当は水をくみ上げるのは井戸ではなく風車を使っていたんだがね……どういうわけか、風が吹かなくなったのさ」
「風がなくなった」
「正確には吹くのは吹くが、地下水をくみ上げるほどの力がなくなっちまったのさ」
老婆は言った。水は生活の基盤。飲み水を確保するだけでもこのありさま。
本来は畑用の水なども風車で汲み上げていたため、今は畑が枯れ果て、多くの者の生活が成り立たなくなっているんだという。
「……コーマさん、なんとかなりませんか?」
クリスは俺を見てそんなことを言ってきた。
「……お前は相変わらず自ら厄介ごとに首をつっこむな。まぁ、なんとかなるけどな」




