クリスとの夕べ
~前回のあらすじ~
カツ丼うまし。
竜の爪痕とよばれる谷の底には、多くの植物が生えていた。膝のあたりまで育った草も多いが、木々は生えていない。年に一度の大洪水とやらのせいだろう。左右の岩肌を見ると、枯れた水草があった。高さ五メートルのあたりまである。おそらく、あのあたりまで水が満たされていたのだろう。この谷全体があの高さまで水で満たされていたとするのなら、かなりの量の水があったことになる。
「いったい、ここに溜った水はどこに流れていくんだ?」
「この谷の底には、地下水が幾本も流れていて、全て北のアクアポリスに流れていくそうです」
「へぇ、さらに地下に流れるのか……」
この場所でさえ、海抜ゼロメートル地帯、つまりは海面よりも下にあるというのに。いや、考えてみれば俺はここよりもはるかに地下にある迷宮に住んでいるんだったな。
それにしても草が多くて歩きにくいな。ぬかるんでいないだけマシか。大洪水の水がひいた直後ならもっと歩きにくいのだろうな。
そう思って歩いていたら、草地を抜け、石で整備された道と、畑が見えた。
耕している50歳くらいのおじさんが見えた。一応、俺とクリスは追われる身のため、挨拶をかわすことなく足早に立ち去った。
さらに進むと、クリスがあるものを発見した。
「あ、見てください! コーマさん、あれが水神の大穴ですよ」
高さ七メートルくらいの場所に、その先には直径十メートルはある大きな穴があった。
「大洪水の時にあそこから水が一気に流れてくるんです」
「一気に?」
「はい。湖の水量が一定以上になると、まるでダムの放流みたいに、湖の水の八割以上が一気にこの大穴から流れ出すんです。不思議ですよね」
たしかに不思議だよな。
でも、なんだろう。一定以上水が溜まると一気に流れるってどこかで聞いたようなきがするんだが。
この世界ではなく、日本で。
「どこだったかなぁ……」
結局、それがどこで見たのか思い出せないまま、俺とクリスはさらに進み、谷を出たところで町の跡地が見えた。
跡地というのは、そこに誰も住んでいないからだ。
「大洪水の間だけ住む場所ですね。農地は全部谷の底にありますから。ほとんどの家は組み立て式のもので、解体して谷の底にもっていっていますが、解体できない家などは鍵をかけず、旅人が利用しているんです。今日はここで休みますか?」
「……そうだな……今日はここで休むか」
といっても、残っている建物のうちひとつは天井に大きな穴が開いていて、ちょうどその下が寝室だったらしくベッドが腐っていて使えない。結局、残っていた家は石造りの丈夫な建物が一軒だけで、寝室にはベッドが二つ並んでいた。触ってみるが、だいぶボロボロで、ここで寝ると体が痒くなりそうだ。ちなみに、ベッドは固定されていて無理に動かすと床が壊れてしまうだろう。
「……クリス? どうした?」
「えっと、ベッドってここだけなんですかね?」
「他にベッドのある部屋はないな」
「……その……やっぱり、私、別の部屋で寝ます!」
クリスはそう言って部屋を出ていこうとした。
俺はそのクリスの腕を掴む。
「どうしたんだよ、急に」
「だって、その……恥ずかしいじゃないですか」
クリスが辛そうに言う。
恥ずかしい?
「武器屋でお金がないから土下座して武器を借りようとして、年下の男に金を借りて、はじめてあったその日の夜に俺の夕食まで食っちまって、さらに借金を重ねて猫言葉で話して、勇者の在り方について考え抜いた挙句、魔王と共に歩むことになったお前が今更恥ずかしいって言うのか?」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」
「そもそも、俺とクリスって一緒に旅をしていた時や、勇者試験の時は同じ宿で寝てたじゃないか。しかも――いや」
しかも寝相が悪くていつも俺のベッドに入ってきやがって、とは言わないでおく。クリスは気付いていないからな。
「ともかく、そんなお前に羞恥心があるとは思えなかったんだが」
「えっと、あの……私、コーマさんと結婚秒読みまで行ったんですよ?」
「行ったな」
「コーマさんはないですか? 冒険している時はいいですけれど、こういう場所だと、その、気まずくなったり――」
「全然しないな」
「……そりゃ、コーマさんが私のことを一方的に振ったから言えるんですよ。私、今でもコーマさんのことが」
「勘違いするなよ。俺もクリスのことは今でも可愛いと思ってるぞ」
「え?」
「バカな子ほどかわいいってな」
俺はそう言うと、クリスが頬を膨らませて怒った。それでこそいつものクリスだ。
クリスの鎧の留め金を外した。俺が作った鎧だ、取り外すなんてお手の物だ。
鎧が外され、黒色の肌着が露わになると、スタイルのいいボディーラインが浮かび上がる。相変わらずの巨乳属性持ちだ。
「そう肩肘をはるなって」
「あの……コーマさん……私……あぁ……」
恥ずかしくなったのか、クリスはベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫か? だいぶ汗をかいているが、服を脱ぐのはもう少し後にしろよ」
「もう少し後……脱ぐんですか?」
「汗くらい拭くだろ?」
「えっと……その」
クリスがベッドの上でもじもじしている。
その間に、俺はアイテムバッグの中から一枚の布を取り出し、床に敷いた。
布には魔法陣が描かれている。
「とりあえず、汗を拭くなら、自分の部屋でしろよな。ほら、持ち運び転移陣を敷いたから。あ、それと時差があるから、ラビスシティーは今は夜中だからな、メイベル達を起こさないようにしろよ! じゃあ六時間後、ここに再集合ということで」
「そんなことだろうと思ってましたよっ!」
クリスは怒って、転移陣を通ってラビスシティーへと戻った。
あいつ、本気でここで寝ると思ってたのか?
転移石は国境を越える前に渡したし、俺達は追われている身なのに、こんなわかりやすい場所で寝るはずないだろ?
そう思い、俺は魔王城へと戻った。
仕方ないじゃん。R-18じゃないんだから。
こんなクリスが活躍(?)する異世界でアイテムコレクター、
すでにご存じの方もいらっしゃると思いますが、
ネット小説大賞最終選考通過、書籍化決定しました。
発売日等はまだ未定ですが、新紀元社さまの新レーベル
「モーニングスターブックス」から刊行されます。
続報は後書きや、活動報告で書きますのでよろしくお願いします。




