番外:コブタのコネタ
すみません、話がまとまらなかったので小ネタで誤魔化します。
「……行ったのではなかったのか?」
豚用の餌を箱の中に入れていたニコライは、俺達を見てそう尋ねた。
それにしても、食べる豚たちだな。顔を泥だらけにしながら、草を食べている。
「いや……行きたかったんだけどな……クリスがどうしても朝ごはんをあげてから行きたいって」
「はい、どうしても、どうしても最後のお別れだけでもしたくて」
「……待っていろ。先にこいつらの餌をあげてからだ。放っておけば、草の根まで食べてしまうからな」
ニコライはそう言って、飼い葉を豚たちの餌箱に入れていく。俺もクリスもそれを手伝おうとしたが、俺達の姿を見られたら困ると言われ、餌が終わるまで昨日泊まった家の中で待つことにした。
クリスは黒豚の手を持ってバンザイをしたりして遊んでいる。
ここだけ見たら普通の女の子なんだな、クリスも。
「それにしても、本当に小さいな、この黒豚。お湯をかけたら人間になったりしないかな?」
「なるわけないじゃないですか。なんなんですか、その突拍子の無い話は」
「俺の国の漫画……じゃわからないか、絵物語の話だよ。水を被ると女の子になる男の話があってな」
「コーマさんみたいですね」
「俺はそこまで何度も女になってねぇよ」
俺がコーリーになったのはたった三回だけだろうが。さも女体化常連者のような言い方はやめてくれ。
「とにかく、そこに出て来た主人公のライバル的な男が水を被ると豚になるんだが――」
桶を取り出してそこに子豚を入れ、ぬるま湯をかける。
子豚は顔を上に向け、鼻を左右に振って、次に口を開けてお湯を飲む。
とても気持ちよさそうだ。
「やっぱり可愛いですよね……この子」
「うーん、まぁ可愛いのは可愛いが、でも豚ってすぐに大きくなっちまうからな」
「その黒豚はそれ以上大きくならないぞ」
ニコライはそう言うと、濡れた黒豚を抱き上げて布で拭いてあげる。その姿は、濡れた我が子をタオルで拭く母親のようだ。
「これ以上大きくならないって?」
「そういう種族だからな。手乗り豚と名付け、ペットとして販売する予定だ」
へぇ、そういう種族の豚もいるのか。日本にもミニブタという種族はいたが、それでも三十キロくらいには育つのに、この黒豚は15キロくらいしかない。
そういえば、マイクロ豚という種族がいるらしいから、それに近いのだろうか?
「欲しいのなら売るぞ。銀貨20枚だ」
「安いですね!」
いや、高いだろ。
ちなみに、外にいる通常の黒豚は銀貨8枚で卸されることになるらしい。
「コーマさん……お金貸してください……お願いします」
クリスが目をうるうるさせてお金をせびってくる。こいつはもはや借金をすることに抵抗がなくなったな。いや、最初からか。
「ニコライ、豚を一頭売ってくれ」
「コーマさん」
クリスが目を輝かせてこちらを見て来たが、
「外にいる一番安いのでいいから」
「わかった」
ニコライはそう言って小屋を出ていく。
「違います、コーマさん。私が買いたいのは――」
「お前はここで待っていろ。一時間ほどで帰ってくる」
~40分後~
「とりあえず、俺達の朝飯にするぞ」
俺はそう言って、テーブルに三つのお椀を置く。
ニコライとクリスにはフォークを、俺はお箸を使う。
「コーマさん、これ……なんですか?」
「俺の国の料理だ。まずは食べてみろ」
俺にせっつかれてクリスはそれを食べた。
「……美味しい。タレがしみこんだご飯に、ふんわり卵、それとお肉はパン粉の衣で覆われて、外はサクサクなのに中のお肉の肉汁が広がって……」
「ただの雑草だと思っていたが、この三つ葉という葉の風味が肉の脂っぽさを消し去り、食が進む」
「あぁ、うまい。俺も久しぶりに食ったが、いや、まじで旨いな」
「コーマさん、これ、なんという料理なんですか?」
「カツ丼っていうんだ。ちなみに、この肉は豚肉だ。さっき捌いてきた」
「え?」
俺が捌いてきたという意味を考え、クリスの顏が青くなる。
「さっきまで外にいた豚を一頭買い、ばらして来た。ちょうど出荷前で昨日から何も食べていない豚がいたからな」
本当はもう少し熟成させたほうが美味しいのだが、それは仕方がない。
ちなみに、今回は豪華にヒレ肉を使わせてもらった。
今回使わなかった部位はアイテムバッグの中に入れてある。
「コーマさん、酷いです! 何もこの子の前で――」
「嫌なら食うな」
俺は黙々とカツ丼を食べる。日本にいたころはカツ丼の三つ葉など彩でしかないゴミだと思っていたこともあったが、ニコライの言う通り、やっぱりカツ丼には三つ葉があったほうが美味しいな。
クリスを見ていると、彼女はフォークを握り、わなわな震えていた。
そして――
「良いです! お肉以外食べます!」
そう言って、クリスはご飯と卵の部分だけを食べ始めた。
それが彼女をさらに苦しめる。
わかってしまったのだ。
カツ丼は、玉ねぎ、たれ、卵、ご飯、そしてカツがないと成り立たないことに。一応三つ葉も。
そう、カツのないカツ丼など、ただの玉子丼なのだと。
「……うぅ」
泣きそうになるクリス。
「認めろよ。豚肉は旨いって」
「認めたら何かが終わる気がします」
「何も終わらないさ。これから続くだけだ」
クリスは俺をきっと睨み付け、フォークを振り上げて振り下ろした。
豚カツへと。
そして、
「美味しいです……」
「だろ?」
俺達三人は朝からカツ丼という胃には絶対に優しくない食事を終えた。
そして、食事を終えた頃には、クリスは小さな黒豚を飼いたいと言わなくなっていたが……
「……じゅる」
涎を啜りながら、小さな黒豚を見る目が少し怖かったことだけは追記しておこう。
ミニブタは大人になると40キロ以上
マイクロ豚でも大人になると15キロ以上はあります。
どちらも子供の頃は小さくて可愛いのですが、しっかり大きくなります。
飼うときはしっかりと情報を調べてから買ってください。




