侵入開始
「あの、コーマ様、少々よろしいでしょうか?」
スウィートポテト学園の校長室。退屈でつまらない雑務をしているところにやってきたのは、この国のトップであるシルフィアだった。
相変わらず金色の髪が眩しい。
彼女の髪の色に比べたら、クリスの金髪は……と貶そうとしたけど、クリスの髪の色も結構綺麗だから、悪く言うのはやめてやろう。頭が残念な分、見た目だけは貶さないであげることにした。
とにかく、退屈な雑務の中での客人だ。
接客しないわけにはいかない。
「ようこそ、シルフィア。茶でも飲んでいけよ。最近、カリアナの茶を仕入れてからいろいろと茶造りにはまってるんだ。グリーンティーって言ってな。お茶請けはスウィートポテトでいいな」
「コーマ、貴様、そう言って仕事をさぼるつもりか?」
サクヤが後ろから睨みを利かしてくる。
ぐっ、見透かされていたか。
「サクヤ、これからコーマ様と大事な話をします。あまり失礼なことを言うものではありません。コーマ様が創設なさったこの学園のおかげで我が国は他の同盟国からも一目を置かれるようになっただけでなく、友好関係を築いていられるのです。そもそもコーマ様はこの国の恩人でありこそすれ、仕事を押し付ける相手ではありません」
「そうだ! さすがはシルフィア! よくわかってるじゃないか。だよな、俺が仕事をしないといけない理由なんて」
「仕事をするのが嫌なら、この学校を誰かに受け渡すのか?」
「それは困る。俺以外の人間が理事長、校長になったらこの学校を私利私欲に使うって脅してきたのはお前じゃないか」
「それなら責任を持って校長の仕事をしろ」
そう言われたらぐうの音も出ない。
はぁ、早く後任を……あの委員長を校長に据えないと、俺、過労で死ぬぞ……マジで。
本当は戦争孤児達のために給食を支給できる孤児院のような場所を作る目的で、何気なく学校を作ったのにな。
今では月に何度か、学校システムを学ぶためとかいって他国からの視察団も来る始末だ。もっともそれらは全てシグレが対処している。シグレはサクヤと違ってカリアナの忍びであり、俺の命令には絶対服従だからな。たまにサクヤと一緒になって雑務を押し付けてくるけど絶対服従だしな。
……いっそのこと、シグレに校長を押し付けてしまおうか?
「言っておくが、姉上に仕事を押し付けて楽をしようとすれば私は貴様を一生軽蔑するぞ。姉上は貴様の行ったカリアナとの同盟のために、カリアナの窓口として激務に追われている。貴様が舌を巻いて逃げ出すほどの仕事の量があり、よもや校長の仕事などできるはずもあるまい。貴様の命令なら従うだろうが、そんなことをしたら姉上は過労で死んでしまうだろう」
ぐっ……先を読まれた。そうか。シグレも大変なのか。今度、睡眠代替薬を支給してやろう。あれがあれば24時間働けるからな。
「わかってるよ……はぁ……サクヤ、お前もグリーンティーを飲むだろ?」
「茶か。カリアナにいたころは飲んだものだ。いただこう」
俺はアイテムバッグの中に入れていた水筒を取り出して、グラスに注いだ。
「冷たいのか? 緑茶といえば温かいものだろ」
「緑茶じゃない、グリーンティーだ。飲んでみろ」
「……なんだこれは?」
そうか……サクヤはグリーンティーを知らないのか。まぁ、日本のグリーンティーの歴史は100年もなかったはずだからな。
グリーンティーと聞いて、緑茶以外を思い浮かべる日本人はどのくらいいるだろうか? 確かに、グリーン(緑)ティー(茶)だが、グリーンティー=緑茶ではない。
関西ではかなりメジャーで売られているそうなのだが、グリーンティーは甘い抹茶のことを言う。
抹茶と砂糖を混ぜた粉末をお湯や牛乳に入れて、基本は冷やして飲むことが多い。
「甘くておいしいですね」
「だろ? 結構好きなんだよ。地方の飲み物って結構うまいんだよな」
琵琶湖に長い間いたせいで、関西での飲み物もいくつか飲んだが、結構俺好みだった。
料理スキルのおかげで、いくつかの日本の飲み物を再現している。
「甘い緑茶など緑茶とは言えない気がするが……」
文句を言いながらもサクヤはグリーンティーをスイートポテトと一緒に飲んでいた。
「で、シルフィア。話ってなんだ?」
「そうでした。今日伺ったのは、ウィンドポーンへの侵攻時期のことです。我が国はいつでも攻め入る準備はできていますし、レイシア様からの援軍の手配もできています。ダークシルド側からはアクアポリスに牽制して援軍を出させないようにすることも可能です」
「それじゃ、まるで戦争だな」
「戦争ですよ」
シルフィアが窘めるように言った。
「いやぁ、だって、フレアランドもアースチャイルドもなんか簡単に仲間になっちまったし、ウィンドポーンもアクアポリスも似たような感じでポンポンと同盟結んでくれないかな? って思ってるんだよ。そもそもさ、六つの国ってどこも精霊を信仰するという点では同じなんだからさ、精霊が全員仲よくしよう宣言したら戦争も起きなくなるんじゃないの? そのあたりはどうなんだよ、ライ」
俺はシルフィアが持っている光の宝玉の中にいるであろうライに対して言った。
「えっと、ライが言っていることをそのまま伝えますね。『……なんだろうね? 僕も初代精霊じゃないからわからないんだけど、でも何か六つの精霊が集まると何かが起こるそうなんだよ。だから、簡単に揃わないように六つの国に別れていたはずなんだよね』だそうです。すみません、ライもよくわからないそうです」
「いや、十分だ」
俺は笑いながら言うが、心臓がドキドキバクバクしていた。
六つの宝玉が揃えば何かが起こるという言葉に。
そもそも、六つの宝玉は全て72財宝であり、俺が集めたいものだ。
何故72財宝全てを集めたいかというと、ルシルが言うには72財宝が全て揃えば何かが起こるというのだ。いまのところ数種類の72財宝を集めているが、何か起こるような気配もないし、共通点もない。だが、ここにきて72財宝のうちの六つが揃うことで何かが起こるという。
それは、もしかしたらルシルに力を与える手がかりになるかもしれない。
「よし、いっちょウィンドポーンに遊びに行くか」
「「え?」」
シルフィアとサクヤが同時に声をあげた。
「だから、俺がウィンドポーンに行く。戦争はまだするな。あくまで警戒を続けろ」
「待て、コーマ! 貴様が一人で行ってどうなる? 降伏勧告なら貴様がいかなくてもここから」
「バカか。ウィンドポーンは戦争をはじめた国なんだろ? その国の神子がシルフィアのような良い奴とは限らないだろ。そんな国と同盟を結んで、落ち着いて寝ていられるか? それなら、俺がひとりで忍び込んで、国の情勢や情報を集めて同盟を結ぶべきかどうか調べるべきだろ」
「しかし……」
「安心しろ。俺もひとりで行こうとは思わない。とりあえず、あいつは連れていくさ」
※※※
「というわけで、行くぞ、クリス!」
「……うぅ……呼び出されたと思ったらなんで急に敵国にふたりっきりでいかないといけないんですか」
クリスは涙目だ。
美味しいお茶があるから飲まないか? と言って魔王城に呼び出してそのままアークラーンとウィンドポーンの国境近くまで来たのがまずかったかな?
「戦争を止めるのって勇者の仕事じゃないか?」
「そうでした! コーマさん、張り切って生きましょう!」
うん、バカはこういう時、単純で使いやすいな。
それに、こいつは腐ってもこの大陸の出身だし、なにより、俺の正体を知っている。
いろいろと都合がいいだろう。
「ところで、コーマさん。西はどっちですか?」
「……ひとりのほうがよかったかもな」
こうして、ふたりきりの侵入作戦が開始した。
ふたりきりの




