はじめてのお買い物~前編~
僕は村で朝で一番早く起きます。何故なら、僕はまだ10歳の子供で大人よりも体が小さい分、仕事が遅いからです。僕には病気のお母さんがいました。僕のお父さんは子供の頃に流行り病で死にました。お母さんと同じ病気でした。
今日も鍬で畑を耕します。でも、こんな枯れた土地では麦も育たず、味のない芋くらいしか育ちません。そんな芋では大したお金になりません。
それでも僕は一生懸命働き、節約し、お金を貯めました。
本当はお父さんの薬を買うためにお母さんが貯めていたお金を含めて銅貨700枚。この村でこれだけあれば一年は暮らせます。僕はそれを持って、村を出ることにしました。
お母さんの薬を買うために。月に一度やってくる行商人のひとに頼み、近くの町まで送ってもらい、そこから乗合馬車で南へと行きました。
このあたりにはある伝説があります。
伝説と言っても、古いものではありません。数ヶ月前、聖女様が従者様と多くの村や町を訪れ、様々な奇跡を呼び起こしたというのです。日照り続きだった村には雨を降らし、枯れた泉を今では多くの動物が集まる憩いの泉へと生まれ変わらせ、病気のひとがいたら聖薬で治療して無償で助けたというのです。
でも、残念ながらその聖女様は村には来ませんでした。
大人たちは言いました。自分達の村は貧乏だから教会にお金を銅貨一枚すら寄進していない。だから聖女様はこないのだと。その時の大人たちの表情は今でもはっきりと覚えていますが、そうではないと僕は知っている。
聖女様は頑張っている人のため、努力している人のために現れるんだと。でも聖女様が現れないのなら、それはきっと努力したらなんとかなることだと。お母さんは僕にそう言いました。僕のしてきた努力が無駄でなかったんだとわかりました。
そして、僕はたどり着きました。
お母さんの病気を治す薬が売っているかもしれない町、ラビスシティーに。
長い町に入るための手続きを終えて町に入ると、僕はその別世界に思わず驚きました。
整備された真っ直ぐな道を多くのひとが行き交っています。
多くの露店が並び、様々なものが売られていました。木の人形を売っていたおばさんに、今日は収穫を祝うお祭りなのですかと尋ねたら、そうではなく、毎日がこの調子で、年に一度行われるという勇者試験の時にはそれ以上に多くのひとが集まると聞いて、僕はさらに驚きました。
美味しそうな魚の焼いた臭いに、僕のおなかが鳴きました。でも、僕はそのお腹を叩き、味のない干した芋を食べます。ここに来るまで使った金は銅貨140枚。帰りも同じ分お金が必要だとすると、残り銅貨420枚しか使うことができません。
おばさんにこの町で一番いい薬が売っているお店はどこかと尋ねたら、フリーマーケットというお店とサフラン雑貨店というお店を紹介してくれました。
それらのお店は隣り同士で似たような商品を売っているそうです。僕は聞いた話を頼りに、南へと向かいました。
地図通りに来たはずなんだけど、そもそも地図を使って移動するのが苦手だった僕は、気が付けば人通りの少ない場所を歩いていました。
先ほどまでいた大通りと違い、石畳も割れたり剥がれたりして地面が露わになっています。なんとなくここにいてはいけない。そんなことを思い引き返そうとしたその時でした。
僕の腰につけていた皮袋の中の銅貨が音を立てると、
「金の音がするな」
そう言って、男のひとが五人ほど出てきました。手には短剣を持っています。
(まさか、盗賊? 町の中なのに?)
僕の村は貧乏だけど、それでも数年に一度は盗賊に襲われて、僅かな蓄えを持っていかれたり、若い女性のひとが攫われたりするそうです。
僕はその時、納屋の中に隠れていましたが、その時、壁板の隙間から見た盗賊の雰囲気が、この男の人達からも感じられます。
僕は腰の皮袋を取って、脇に隠しました。
「お願いです、このお金はとても大切なお金なんです。許してください」
「はぁ? 俺達には関係のない話だな」
男達はニヤニヤと笑い、僕に近付いてきます。その顔は、村に迷い込んできた森走鳥を追い詰めて殺そうとする僕の村人達の顏に似ています。つまり、彼らにとって僕は美味しい獲物なのです。
(お母さん――ごめん!!)
僕がそう思ったその時でした。
「待ちなっ! 騒がしいと思って来てみれば、何やってるんだ、お前等!」
突如、男のひとの声が聞こえたと思ったら、そこにいたのは赤い腕章をした二十歳くらいの男のひとでした。
「俺はギルド職員のジョー――」
「うるせぇ! 俺達とやろうっていうのか?」
そう言うと、盗賊たちは持っていた得物を取り出します。剣や短剣、ただの鉄の棒などもありました。
すると、ジョーなんたらさんは、ふっと笑い、後ろを向くと一目散に逃げていきました。
やっぱりこの世界には奇跡なんてないのでしょうか?
努力しても報われないのでしょうか?
そう思った時です。
「お前等、いい加減にしろよな」
新たな声が。そう言って現れたのは、黒い髪に黒い服を着た男のひとです。
さっきのジョーなんたらさんよりも年下の男のひとで、正直、さっきのひとよりも弱そうに見えます。、
「こっちは機嫌が悪いんだ。そんなことばっかりやってると、もう炊き出ししてやらないぞ」
炊き出し? なんのことだろうと思うと、その男のひとの言葉に、盗賊たちは明らかに狼狽しはじめました。
「ま、待ってください、コーマさん! 俺達はそんなつもりじゃなかったんです」
「そうです、コーマさんの炊き出しがなくなっちまったら、俺達は何を言われるか」
「コーマさん、お願いです。俺達、改心しました。ほうら、僕、いい子だからここから出ようね。ここはスラム街、ならず者の集まる場所で君みたいな子供が入るところじゃないからね」
そう言って、盗賊たちは笑った(無理をして笑っているので怖い)顔で僕を来た道に戻そうとします。
もしかして、この人は凄いひとなんでしょうか?
そう思って見上げると、コーマと呼ばれた人は、
「行くぞ。安全な場所まで送ってやる」
そう言いました。
「あ、あの、コーマさん――」
「あいつらは悪いやつじゃないって言ったら嘘になるけどよ、あんな場所でそんなジャラジャラお金の音を立てたら、カツアゲしてくださいって言ってるようなもんだぞ。気を付けろ」
「す、すみません」
たしかにその通りです。町の中は人が多いから安全だと思って油断していました。
ラビスシティーに来て気が緩んでいたのかもしれません。
「わかればいいんだよ。なんでスラム街になんて入ったんだ?」
「あ……フリーマーケットという店に行こうと思ったんですが、道に迷ってしまって」
「フリマか。わかった、案内してやるよ……」
僕はその時、コーマさんが右手を軽く握りしめていて、何かを握っていることに気付きました。
そして、僕がそのコーマさんの右手を見ているのを、彼も気付いたようです。
「あぁ? これか?」
コーマさんは苦笑して、手を広げて見せてくれました。
その手の中にあったのは、猫の形をした人形でした。
「パーカ人形っていう指人形だ。せめてミックならミックコレクターのおっさんと交換できるんだが、この猫はもう30個目くらいでな……」
コーマさんは苦笑していいました。
「30個? コーマさんは人形屋さんなんですか?」
30個も同じ人形を持っているということは猫の人形屋さんなんでしょうか?
そう思ったら、
「違う違う、ただのコレクターだ。そうだ、坊主にこれをやるよ。なに、布教活動もコレクターの立派な役目だからな」
コーマさんは僕に人形を渡してくれました。
白色の可愛らしい猫の人形で、とても可愛らしかったです。
♪BGM♪
ドレミっぽいやつ。




