マネットとカリーヌ
僕は暇があればゴーレム工房でゴーレムの作成をしている。別にコーマに命じられているとかではなく、単純にゴーレムを作る作業が好きだからだ。
しかし、この作業が捗ることはまずない。
「ねぇ、マネット、遊ぼ」
たいてい、カリーヌが遊びに来るからだ。
でも、僕は遊ぶ気分じゃないから、無視をする。
無視するということを誇張するために、
「ゴーレムの知能を司る魔力回路の確保には二足歩行型のほうが安定するんだよな」
と考えていることを口に出す。でも本当に考えているのは「邪魔だから出ていけ」なんだけど。
無視をして、目の前の完成間近の六本足のゴーレムを確認した。
コーマが顕著だが、この城の住人は全員カリーヌに甘い。ルシルは自分だけは違うと思っているだろうが、彼女だけは料理をカリーヌに食べさせたことがないのだ。
ちなみに、僕も一度彼女の作ったたこ焼き(という名のクラーケン)の欠片(足の先)を食べさせられたことがあった。僕は人間でもなければ生物でもない。
マリオネットの人形なので毒物を食べたところで死ぬことはない。
なのにその三日三晩今わの際を彷徨った。
下手に人形の体のため、回復薬が効かず、コーマがいろいろと薬を作り、人形用の薬を完成させなかったら今でも寝たきりの状態が続いていただろう。だからといってコーマに恩を感じているかは別の話だ。そもそも、ルシルはコーマの手下であるのだから(実際はその逆な気もするが)部下の責任は上司の責任だからな。
話がそれてしまったが、ようするに、このカリーヌは我儘に育っている。精神年齢も日々退行している気がする。僕がこの魔王城に来たときはもっとマトモだった気がする。
ここはひとつ、年上の男性としてカリーヌを甘やかさないようにしないといけない。
「ねぇ、マネット、聞こえてないの?」
「ケンタウロス型にしたら、足が六本になってどうも虫のような動きになるんだよな。新たに魔力回路を組み替えないといけないのか?」
「…………」
僕が呟くと、部屋が静かになった。
やれやれ、これでやっと作業に集中できる。
ケンタウロス型のゴーレムが完成すれば、さらに応用が効き、鳥人型やドラゴン型といった、四肢と翼の両方を併せ持つゴーレムができるな。
そう思っていたら、
「あーそーぼーっ!」
「うわぁっ!」
目の前にカリーヌが降って来たことに驚き、思わず声をあげてしまった。
こいつ、どうやって天井に……いや、カリーヌはスライムだ。
スライムはもともと壁や天井にはりつくことができる。
「ねぇ、マネット、遊ぼ」
「ダメだよ。僕は忙しいんだ。遊ぶならコーマかタラとやってもらえよ」
「コーマお兄ちゃんは薬を作ってるし、タラお兄ちゃんは剣を振ってるもん」
僕だってゴーレム造りをして忙しいんだとわからないのか、こいつは。
あと、もうひとつ気になることが。
「なんでコーマやタラがお兄ちゃんで、僕は呼び捨てなんだ?」
「だって、マネット小さいもん」
「……言っておくが、僕はもう200歳を超していてお前より年上なんだぞ!」
「お爺ちゃん?」
「ふざけるな。絶対に年齢だけで呼び方を変えるな」
今の台詞、絶対にマユと、特にルシルに言うなよ。
ふたりとも見た目の年齢は若いけど、実年齢は相当だからな。
まぁ、ふたりの場合はお爺ちゃんではなくお婆さんになるんだけどな。
魔王は年をとらない。このあたりは魔王にとっては常識だ。
魔王の娘であるルシルがなんで不老を貫いているのかは僕にはわからないけれどな。
「あれ? マネット、どこにいくの?」
「町に行ってくる……ゴーレムの材料を買いにいかないとな」
そう言うと僕はコーマから貰っていた転移石を二個ポケットに入れ、会議場にある転移陣からラビスシティーに向かった。
もちろん、ゴーレムの材料を買うなんて嘘だが。
もちろん、僕一人で町を歩くなんてことはできない。
僕はマリオネット、あくまでも人形なんだから、人形はひとりで歩いてはいけないんだよな。
ということで、僕は薬を作っているコーマに頼むことにした。
※※※
ラビスシティーはまだ朝だったらしい。
「……あの、マネットさん。私、これでも勇者なんですよ?」
彼女は金色の髪を垂らして項垂れた。
いつも鎧を着ている彼女だが、今日はラフな格好をしている。
「気にするな、勇者クリスティーナ。どうせ暇だったんだろ?」
「……暇ですけど……でも、魔王と勇者の関係性が」
それは今更だろう。
コーマじゃないが、困ったときのクリスティーナだな。
とりあえず、クリスティーナという足を手に入れて、僕は町を散歩することにした。
クリスティーナの肩に乗る。
「うん、女性にしては乗りやすい」
「落としますよ」
クリスティーナが睨み付けてくる。肩幅が広いことがコンプレックスなのだろうか? それなら鍛えるのをやめればいいのにな。
「それで、マネットさん、どこに行きたいんですか?」
「……そうだな、まずは一度コーマが経営していたという店を見てみたかったんだ。そこに案内してくれ」
「わかりました。まだ開店前ですから、お客さんはいないですしちょうどいいですね」
こうして、僕の二度目のラビスシティー散策がはじまった。
続きます。




