ルシルの三分クッキング
「やってきました♪ ルシルの三分クッキングの時間です♪」
いつも以上にノリノリの口調で、ルシルが笑顔で言った。
その笑顔がいつにもまして怖い。
「コーマが久しぶりに私の料理を食べてくれるって言っちゃってくれちゃったりなんかして、やっぱりなんだかんだ言って、コーマったら私の料理のことが好――「断じてそれはない」
ルシルの言葉を遮るように俺は叫んだ。
でも、ルシルのニヤニヤは止まらない。
彼女がこんなうれしそうな顔をするのは、DXチョコレートパフェを食べている時と、こうして俺のために料理を作っている時くらいだろう。
(――――はぁ、思い出しちまうな)
それはルシルとはじめて出会った時。ルシルがまだルチミナ・シフィルだった頃。
彼女が俺のためにパンを振る舞った。
もっとも、それはパンというよりは白蛇に近く、俺が食べたというよりかは俺の口の中目掛けて突撃してきた感じなのだが、その時の彼女の顔もとても嬉しそうだった。
ルシルは誰かのために料理を作るのが、それを食べてもらうのが本当に好きなのだ。
その被害は甚大だが。
ルシルはそのツインテールをいったん解き、それを後ろに結び直す。
(……髪型変えたルシルも可愛いな)
なんて呑気なことを言っている暇はないんだが。
でも、何故そんなことを考えているのかというと、やはり現実逃避なんだろうな。
俺の中での毒耐性は上昇している。
今では紅天狗茸を食べたところで舌がピリっとする程度だろう。
それでも、ルシルの料理に対する耐性はいまだにつかない。
いや、むしろ脅威が増している気がする。
例えば、ルシルが作った薬草ドラゴンは食べたところで毒にしかならなかった。
だが、今のルシルの料理は石化をはじめとした多くの状態異常を持ち始めた。
魔の森でルシルの料理を食べたドラゴンが石化して、今でもそのままオブジェとしてダークエルフの村で飾られているそうだ。
俺が今日、こうしてルシルの料理を食べると申し出たのは、ルシルの料理が魔物化する原因を探るためだ。
「ルシル、とりあえず材料は全部俺が用意した。いいな? 他のものは何も使うなよ。隠し味も無し、レシピの通りに作るんだ」
原因その①【材料】
これは原因として考えられるひとつだ。
もっとも、ルシルが料理の材料として使っているのは魔王城で育てられた小麦だったり、釣りたての魚だったり、料理大会の会場で用意された食材だったりとてんでばらばらだったが、等しく魔物化している。
なので可能性は低い。
それでも、たとえばルシルが全ての料理に何か隠し味のようなものをいつも入れている可能性は否定できないからな。
「わかったわ。今日はコーマもやる気じゃない。腕がなるわ」
「頼むからいつも通りに――いや、いつも通りじゃ困るんだけど、まぁ力まずにやってくれ」
レシピは前に本コレクターの爺さんから買い取って図書館に寄贈しなかったうちの一冊を使わせてもらった。
ちなみに、料理はフレンチトーストだ。
牛乳、砂糖はすでに計量しているものを用意しているし、鶏卵も卵黄だけにして、カラザはとっている。
ちなみに、残った白身はホワイトオムレツにして美味しくいただきました。
「ここまで用意してくれたら料理をしているって気にならないわね」
そう言いながらもルシルはボウルの中に牛乳、卵、砂糖を入れて、泡立て器でかき混ぜ始めた。
ボウルの持ち方も泡立て器の使い方も全く問題ないように見える。
(そうなんだよな、ルシルって手先は器用なんだな)
「――ん?」
俺はルシルを見て、あることに気付いた。
「ルシル、ストップ! お前、手に魔力を纏っていないか?」
「え? あ、本当ね。でもいつものことだし」
「がぁぁぁ、それかっ! それだな! それなんだな! よし、来た!」
俺はボウルを取り上げ、中身がまだ魔物化していないことを確認。
これは料理と呼べるものではないからな、うん、まだ大丈夫だ。
俺は取り上げた卵液を一口飲み、毒性がないことを確認、一気に飲み干した。
「ちょ、コーマ、何をするのよっ!」
「何するはこっちの台詞だ。同じ材料を用意しているから、今度は手に魔力を纏わせずに作るんだ、いいな!」
「わかったわよ」
納得していない様子で、ルシルは手に纏わせた魔力を霧散させて料理をはじめからやり直すこととなった。
もしも手に纏った魔力が原因なら、それですべて解決だ。
原因その②【ルシルの魔力】
が解消された。
これならいけるんじゃないか?
いけるだろ!
さて、三分クッキングと言っているが、この料理は絶対に三分ではできない。
パンを卵液に浸し、三十分待たないといけないから。
「三十分間、少し休憩しているわね。コーマはどうするの?」
「ん? いや、俺はここにいるよ」
「そう? じゃあ――あ、つまみ食いしたらダメよ」
「しねぇよっ!」
俺が怒鳴り、ルシルが部屋を出ていった。
ルシルの魔力が原因だとしたらこれで全て解決のはずだが、他にも原因はあるかもしれないからな。
そう思ったその時だ。
何か揺らめくものが見えた。
白い光がゆらゆらと進む。
「これは、霊か!?」
なんでこんなところに霊がいるんだ?
という疑問を感じる余裕はなかった。
霊と思われるなにかはゆっくりと卵液に浸された食パンのほうに近付いてく。
原因その③【悪霊】
くそっ、そうか、こうしてルシル料理は魂を与えられて魔物と化していたのか。
「ライト!」
俺の手の平から光の玉が現れる。
普段は照明代わりにしか使えないライトだが、霊に対しては効果は抜群のようだ。
霊らしきなにかを消滅させる。
「成仏しろよ! って、また来た!
今度は前後上下左右、全方向から霊らしき何かが近付いて来た。
「くそっ、ライト、ライト、ライト!」
次々と浄化されていく霊たち。
三十分の死闘ののち、ついに霊が出現することはなくなった。
なんとかなったか。
そう思った時、ルシルが部屋に戻って来た。
「三十分経過したわね、ってあれ? コーマ、何息切れしてるの? あ、わかった。私の料理が待ち遠しいのね。ちょっと待っててね。もうすぐできるから」
ルシルは料理にとりかかる。
魔力コンロの上にフライパンを置き、熱し、バターを投入。
フライパンの上に、卵液を吸い上げた食パンを乗せ、よく焼いてフライ返しでひっくり返し、反対側も狐色になるまで丁寧に焼く。
完璧だ。ルシルは手に魔力を纏わせてもいないし、霊は全て浄化したし、材料も料理の工程も何の問題もない。
完璧すぎて、なんでフライパンの中に九尾の狐がいるのか俺には理解できなかった。
狐色に焼いたからか? 狐色に焼いたから九尾の狐なのか?
「コーマ、できたわよ。たんと召し上がれ」
「はは……は」
フライパンの上にいた九尾の狐の九本の尻尾が俺を睨み付ける。
原因その④【ルチミナ・シフィル】
原因を排除するにはルシルを倒さないといけないのか。
でも、その前に……この狐、どうやって食えばいいのかわからない。
ただわかることがある。
アルティメットポーションの用意をしておかないといけないだろうな。




