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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra01 短編集

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本の手紙~中編~

 俺宛ての手紙がアイテム図鑑の中に挟まっていた。

 なんか、俺の行動を見透かされているみたいで嫌な気分だと思いながら、俺はふっと鼻で笑った。


 たとえ魔王になっても、力が人の数千倍、数万倍強くなっても、敵わない爺さんはいるもんだよな。

 結局、最後まであの爺さんにはしてやられたってことか。


 俺があの爺さんと出会ったのは、蒼の迷宮で一角鯨を倒した頃のことだった。

 弟子のクルトのために錬金術関連の本を買いあさっていた時に言われたのだ。


「若いもんは本の買い方も知らんのか」


 と。というのも、俺が買っていた錬金術の本は全部理論の本ばかりであり、実際に錬金術を行った者の体験本が一冊もなかったと指摘されたのだ。

 自分で読むのならそういう買い方もありだろうが、若者を育てるつもりなら、失敗体験談のような本を買っておけと言われた。

 つまりは、説明書で言うところのトラブルシューティングの項目が必要ってことだ。


 言われて納得し、俺は爺さんに勧められた本を購入した。

 爺さんは本屋の従業員ではなく、このあたりでは知る人ぞ知る本コレクターだと本物の店員聞かされた。店の売り上げの7割が爺さんだというのだから、この爺さんが亡くなったら経営が成り立たなくなるだろうなと勝手に心配していた。

 ちなみに、爺さんが買っていったのは、花の肥料の本と犬の絵本と料理の本だった。

 その本の組み合わせもあって、俺は爺さんのことが気になった。

 それから、本屋を訪れると、三回に一回は爺さんと話し、いろいろと話すようになった。

 一度で話すのはせいぜい数分だったが、リーリウム王国から帰って来た時に、リーリウム王国で買った酒の本を爺さんに見せたら、その本を譲る代わりにと屋敷を案内してくれた。

 爺さんの家はラビスシティーでも五本の指には入るほどの豪邸だったが、なにより驚いたのはその本の保存場所だった。

 図書館があったのだ。

 いや、図書館といっても過言ではないほどの本の多い別館があったのだ。

 悔しいが、凄いと思ってしまった。


「どうだ? 坊主。これほどの本を個人で所有しているのはワシくらいなものだろう」

「そうか? 結構いると思うぞ。本なんてそれこそ無限にあるんだ。実際、爺さんもこの本は持ってなかったんだろ? お、アイテム図鑑もあるのか。見ていいか?」


 俺が手を伸ばすと、本を取り上げられた。


「アイテム図鑑はプライベートな本じゃ。主には読ませんよ。それより、酒の本を売ってくれ」

 

 俺はそう言われて、一瞬このまま本を持って帰ってやろうかとも思ったが、俺のアイテム図鑑を代わりに見せろと言われたら困るので、結局は持ってきた酒の本を渡した。


「ふん、言いよるわ。まぁ、坊主の言う通り、ワシの本のコレクションはまだまだこれからじゃ。なにしろ、この建物にはまだまだ本の置き場は余っているからのぉ」


 爺さんは俺から受け取った本を、まるで最初からそこに収めるべき本だったと決めていたかのようにすんなりと本棚の中に入れ、呟くように言った。


「置く場所はあるが、ないのは時間のほうかの」


 どこか寂しそうに言った。

 その背中が、いつもより小さく見える。


「病気……か? なんならいい薬でも売ってやるぞ」

「寿命じゃよ……うちの親父も爺さんも、そのまた爺さんも、ワシと同じ年で亡くなった。運命なのじゃよ」


 爺さんはゆっくりと歩いていく。

 そこで手に取ったのは、犬の絵本だった。


「可哀そうなのはこやつらだ。生憎、ワシの家族はもう今は本に興味がないようだから、全部処分されるだろう」

「……遺言で書いておけばいいじゃないか。本を捨てないでほしいと」


 すると爺さんは笑って言った。


「坊主もいっぱしの収集家なら覚えておけ。物を集めることは男の浪漫だ。だが、ただ置いておくだけならそれは物を殺すことになる。飾って眺めるものもいなければ手に取って読むものもいない。そんな扱いをされるくらいなら、その辺に捨てて鼻噛み代わりに使われた方がマシじゃ。わかるか?」 

「……たぶん、それを理解したときには俺も爺さんになってるよ」

「ははは、そうじゃの。坊主の言う通りだ。今は理解しろとはいわん。そういう考え方をしていた爺さんがいたとだけ覚えておいてくれ」


 別にそれが俺と爺さんとの最期の会話というわけではない。

 その後も本屋で会ってはいろいろなことを語り合った。

 時には爺さんの屋敷を訪れては、爺さんの奥さんと話したり、子供(といっても俺よりはだいぶ年上だが)と話したり、さらには幼稚園児くらいのお孫さんと話したりしては、爺さんのコレクションの愚痴を聞かされたりして、爺さんに「お前はどっちの味方なんじゃ」と怒られもした。


 まぁ、そこそこ楽しい平穏な日々だった。

 俺が記憶喪失になっている間――西大陸に行っている間に、爺さんは寝たきり状態になって意識もはっきりとしていなかったという。

 結局、別れの言葉は告げることはできなかった。


 そんな爺さんからの手紙を俺は開いた。

 そこには達筆な字で書かれていた。

 この文字が日本語だったら、逆に読めなかっただろうというくらい崩されている。


【最愛なる蒐集仲間、コーマへ】


 そんな書き始めに、俺は悪寒が走った。

 爺さんに最愛とか言われても気持ち悪い。


【なんて書いていたらただでさえ短い寿命がさらに縮まる思いがしたので、普通に書こうと思う。バカ仲間の坊主のことじゃ、きっとこの本を何らかの形で手に取って、この手紙を読んでくれていることだろう】


 その通りだよ、糞爺くそじじい

 俺は手紙を読んでいき、ため息をついた。


 やれやれ、面倒事をおしつけやがって。


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